3・11は津波被害が甚大。日和山公園(宮城県石巻市)には多くの避難者が逃れた

「東京大改革」を掲げて、都議会の「伏魔殿」ぶりを白日に晒(さら)し、秘密体質の一掃に力を尽くす小池都政だけど、肝心の政策は「都民ファースト」と言えるのか? 小池都知事の政策を項目別に検証してみた。近い将来想定される首都直下地震への備えは──。

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 政府の地震調査研究推進本部が「30年以内に70%の確率で発生」と予測する首都直下地震。国の中央防災会議の被害想定では、首都圏全体で死者は2万3000人に上る。

30年以内に70%という数字そのものはまったくあてになりません。シミュレーションの結果でしかない。現に、これまでに起きた大地震は、いずれも国がノーマークだったところでばかり発生しています」

 そう指摘するのは地震学者で、武蔵学院大学特任教授の島村英紀さんだ。

首都圏は世界でも類を見ないほど地震の起こりやすい地域。地下には北米プレートがあり、さらに東から太平洋プレート、南からはフィリピン海プレートが入り込んでひしめき合っている状態だからです」

 地震には大きく2つのタイプがあり、活断層が引き起こす『内陸直下型』、プレートのひずみから発生する『海溝型』に分かれる。首都直下は前者、東日本大震災は後者に当たるという。

「内陸直下型の場合、人が住んでいる真下で起きるため、地震の規模を表すマグニチュード(M)に対して被害が大きくなりやすい」

 東京の下町は地盤が弱いうえ、古い家屋の密集地帯が多い。特に怖いのは冬の夕方。中央防災会議は、暖房器具や調理で火を使うことの多い18時に、M7・3秒速15メートルの風が吹く中で震度6の地震が起きた場合、1万1000人の死者が出ると予測する。

「1か所から火の手が上がったとき、うまく消し止められなければ、死者はそれ以上になるおそれが。関東大震災では火災で10万人もの方が亡くなりました」

 では、都の防災対策はどうか?

 小池都知事は「女性目線の防災対策」として、液体ミルクの備蓄や活用を掲げるほか、都心部主要道路の無電柱化(6月7日に条例成立、9月施行)を提唱。

 バーチャルリアリティーを活用した災害体験車の導入も謳(うた)い、来年度予算案に1億3000万円を盛り込み、五感を使った防災訓練の普及に期待を示す。

「やらないよりやったほうがいいのは確かですが、パフォーマンス的で実際の効果はどうか? 災害は弱者を襲う。耐震補強したくても資金がない人も多い。予算はそこへ割いては?

3・11で医療が壊滅状態になったわけ

「東日本大震災では多くの医療機関が機能しなくなりましたが、その理由がわかりますか?」

 そう尋ねるのは『医療ガバナンス研究所』所長で医師の上昌広さんだ。

 医療のあり方や問題点を在野の視点から研究・提言している上医師は、震災支援にも尽力してきた立場から、被災地医療の実態に詳しい。

「大災害があると、保育施設は真っ先に閉所されます。看護師の子どもの面倒を見る人がいなくなる。そのため震災後、勤務先の病院に来られなくなり、医療機関の多くが機能しなくなったのです」(上医師、以下同)

 とはいえ東北の場合、東京に比べれば「まだマシ」と言える。三世代同居が多く、核家族化の割合が首都圏よりずっと低いからだ。

 東京を含む首都圏では、核家族の割合が高いと同時に、待機児童が多く、看護師の数そのものが不足している。厚労省の統計によると、人口10万人あたりの看護師数は埼玉県を筆頭に千葉県、神奈川県が全国ワースト3。准看護師は東京都が最も少ない。

 そんな現状のなか、首都へ巨大地震が直撃したら……。

 上医師は、「小池都知事の対策は今のところまったく見えてきていない」とキッパリ。さらにこう続ける。

「首都圏の災害対策で考えておくべき問題は、DMAT(災害時派遣医療チーム)をどうするかということではないんです。看護師が働けないことの影響のほうが大きい」

医師不足も深刻「今のままでは透析患者が…」

 災害時の医療を取り巻く問題は、これだけにとどまらない。

「特に考えておかなければならないのは、透析患者の問題です。彼らは週に3回は透析しなければならない。東日本大震災のときは、千葉や新潟、東京に搬送しました。

 ですが、東京が破綻した場合、関東では現時点ですでに超のつく医師不足。神奈川、千葉、埼玉では受け入れることができません。今のままでは、透析患者にたくさんの被害が出ると思います

 前述したとおり、首都圏の医師不足はかなり深刻な状況にある。

 千葉県銚子市では’08年、市民病院が医師不足から閉鎖。また、埼玉県の市民病院では、小児・小児外科入院診療の看板を下ろし、訪問介護や在宅診療に軸足を移した。小児科の常勤医は59~64歳の3名のみ。閉鎖は、深夜の急患に対応可能な若手医師が確保できなかったからだ。

医師の世界も団塊世代の高齢化が進んでいます。すでに老老医療の時代に突入している

 災害は待ってくれない。東京の医療危機も、まさに待ったなしの状態。小池都知事が取るべき対策とは?

「まずは看護師の増員でしょう。いま、各地の大学がこぞって看護学部を作っていますが、東京でもそれをやるべき。実習先が足りないのなら、小池さんの権限で、都立病院でやらせればいいのです」

 首都圏の医療システムは急速に崩壊しつつある、と上医師。できるところから着実に、継続的な取り組みが求められている。