「任意の参加ならばPTAはあっていいと思います。強制的に加入させられ、役の押しつけあいになるくらいなら、ないほうがいい」
そうズバッと指摘するのは、PTA問題に詳しい文化学園大学の加藤薫教授だ。
戦後、日本の民主化を進めるため、GHQが“父母と先生の会”を作るよう文部省(現・文部科学省)に指示した結果できたPTA。親(Parent)と先生(Teacher)の組織(Association)の頭文字から、そう命名された。
PTAに期待されたのは《学校設備や催しの寄付や後援を行う団体ではなく、子どもたちの幸福のために必要な法律や規制や施設をつくるために国や公共団体に働きかける団体》という位置づけだったと加藤教授。さらに解説を加える。
「民主的な社会を、PTAを通して作ろうとしていたGHQの意図があったのではないでしょうか。学校の教育は軍国教育から民主主義教育に転換しましたが、家に帰ると親が戦前の意識では、結局、昔の考えに染まってしまう。だから、親や社会を民主化していく意図を、PTAが担っていたと考えています」
時は流れ21世紀の今。前述の「学校設備や催しの寄付や後援を行う団体」となり、嫌々ながら参加しなければならない状況に、SNS上では親たちの不満が噴出している。
WEBサイト『週刊女性PRIME』でPTAについてのアンケートを実施。その結果、必要は37%、不要が43%(20%は一部必要)だった。
アンケートにはPTAへの不満が、数多く寄せられた。
「参加しないとハブられる。PTAはムラ社会」
「強制的にくじ引きなどで役員を押しつける」
「フルタイムで働いていようがシングルマザーだろうが、母親は参加して当たり前と思われている」
「平日昼間の会議が多すぎる」
「必要な部分もあるが無駄な部分が多すぎる」
「ボスママみたいな人に媚びを売らないといけない」
など不満が続出。
その一方、「情報交換ができた」「地域や学校の職員の働き方がわかった」「いろいろな人の考え方を学んでためになった」「先生だけでは運動会もできない」などメリットや必要性を認識する声も。
PTAを廃止した学校では
都内に住む母親は3人の子どもを持ち、現在は小学校のPTAの副会長を務める。
「何回も断ったのですが押し切られました。平日夜の会議には出席できないという条件で受けましたが、2か月に1回、土曜日に会議があります。休みの日ぐらい子どもと一緒に過ごしたいと思うんですけど……その時間が削られて」
と吐露。入会が任意であることは知っているが、入会を拒否したため子どもにしわ寄せがいく現実を目の当たりにしたという。振り返り語る。
「朝の集団登校の見守りを地区ごとの保護者が交代で行っているんです。ただPTAに入りませんという方もいらっしゃって、そうすると朝の集団登校の当番もやらないことになる。それは困ると話し合いをしたようですが、結局、入会はせず、子どもさんはひとりで登校しています。子どもにしわ寄せがいくのは違う気もしますが……」
過去には親が保護者会を退会したことで、その子どもだけ中学校の卒業式でコサージュがもらえず訴訟に発展したケースも。何も悪くない子どもが仲間はずれになるのであれば、廃止を望む声が出るのもうなずける。
'01年、小学校の統合を機にPTAを廃止した東京都西東京市のけやき小学校。廃止から16年たつが、現状はどうなっているのか。
同校の高橋亨校長が取材に応じた。
「PTAはありませんが、保護者の会は存在しています。やっていることはほとんどPTAと同じですね」
なぜ再びPTAのような存在ができたのか。高橋校長は、
「PTAを廃止はしましたが、登下校を見守る地区委員会と各学級の保護者をとりまとめる学校委員会は残っていました。その後、委員会を運営するのに必要なお金の管理をするためには保護者らの組織が必要だということで'10年に保護者の会ができました」
役員の選出が問題となるが、その点についてはどうか。高橋校長が明かす。
「役員選びは抽選なのですが、個人的な都合がある方については事前に保護者会会長と相談をすることができます。1回役員をやれば10年はやらなくていい、妊婦や新1年生の保護者は選ばれないなどかなり考慮されていますね」
そして現在の状況について、
「学校が関与せず、自分たちで創設し、必要に応じて形を変えてきた団体ですから、活動が難しいなどの問題があれば、みなさんで話し合って状況に沿った形に変えていくのが望ましいのだと思います。現に広報委員もなく広報紙もありません。会議で決まったことは紙1枚にまとめ、保護者に配られます」(高橋校長)
時代に適応した柔軟な変化が必要
負担を減らす努力が見える一方、マナーに関する文書を作成し保護者に配布するなど、子どものためになることは積極的に行っているという。
“子どものために”これが本来あるべき姿だが、“子どものためにやるべきだ”という周囲の同調圧力が、選ばれたら役をやらなければならない雰囲気を作りだしている面も。本誌のアンケートでは、そんな声も数多く寄せられた。
名古屋市内のある小学校のPTAでは、PTA会長が自ら改革に乗り出した。
2児の父で、会長に就いて今年で3年目になる。過去に選挙で役員に選ばれた人が、やりたくないと主張したことから、改革を決めたという。
「選挙で委員に選ばれたら絶対やってくださいというシステムこそPTAがいちばん嫌がられている原因なのだろうと思い、実際にアンケートをとったところ、やはりPTAは必要だと思うけれど、役員や委員はやりたくないという傾向が顕著に表れたのです」
とPTA会長。
役員・地区委員・学級委員と役職があるが、負担を減らすには各クラスから必ず2名選出される学級委員を廃止することに決めた。
「結局なにかをするときに動員されるのは学級委員なんです。学級委員で構成される専門部などの仕事もみんなでシェアすれば負担が減ると考えました」(PTA会長)
会長はアンケートの結果に基づき保護者との話し合いの場を設け提案。承認され、今年度から新体制での運営が開始されている。
「広報紙づくり、家庭教育に関するセミナーの企画、運動会の受付や片づけなど自分ができる範囲でできるときに役割を選択していただく形にしました。会議の回数も減らし現時点では問題なく運営されています。またアンケートでPTAの参加にとても積極的な人がいることもわかり、積極的な方の中から役員をお願いする形をとることにしました。来年度の会長もすでに決まっています」(PTA会長)
さまざまな議論があるPTA問題だが、PTAに参加する保護者に共通しているのは“子どものため”という思いではないだろうか。一部の人間が不利益をこうむり、それがひいては子どもに悲しい思いをさせることだけは避けなければならない。
“子どものために”組織も個人も、時代に適応した柔軟な変化が必要だ。