オードリー・若林正恭

「う~ん。もしかして、息子さんとかがいて“この子、難しい子ね”“この子、何考えてるのかしら”って思うお母さんがいたら、読んでみたらわかるかもしれませんね。少しは、ですけど」

 '13年に上梓した『社会人大学人見知り学部 卒業見込』(角川文庫/メディアファクトリー)では、書籍と文庫の累計発行部数が約20万部のベストセラーを記録した。共感の声も多く聞こえるが、本人はいたって冷静だ。

「自分が実生活で飲みに行って考えたことを話すと“なにそれ~!?”みたいな感じでほかの人に言われるんです。そういう誰も共感してくれないことを書いているんですね。自分が考えていることを全員にわかってもらうように書くと、書きたいことが変わっちゃうんですよ。豆まきの豆を投げる人じゃないですけど、100人の中の1人だけでも受け取ってくれればいいやって、やみくもに投げている感じです。僕にはそういうことしかできないですね」

 芸能界でも彼の“豆”を拾った人がいたそうで、

「又吉(直樹)くんからは気持ちのこもったメールをいただいて、うれしかったです。“論理的でもあるけど、最後に気持ちで持っていくのが好きです”って。それがすごく印象的でした」

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA刊)1250円(税別)キューバ旅行の5日間を綴った1冊。日本とは異なる景色を“若林節”で描き下ろしたエッセイ ※書影をクリックするとアマゾンの購入ページにジャンプします

 7月14日に新作エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』が発売された。昨年、キューバに滞在したときの旅行記だ。

「夕方になると、道端で話し込む人たちをよく見かけました。3時間くらいず~っと世間話をしている輪が、街じゅうにあるんです。東京で人同士が仕事以外の話をしている場面ってそう見ないので、印象的でした。昭和の時代にはアレがあったんですかねぇ」

 と、遠い異国の地の現在から、日本の昔にまで思いを巡らせる……。

「僕自身、本を読んでいるのは好きな時間。本って、マイノリティーもみんなが集まれるというか、受け皿になる部分がすごく好きなんです。だから僕は“みんながいいなと思うものを書く”ことは、絶対できないですね」

 みんなが口に出せないことを声に出す─。自分の意思を貫く姿勢が、人々の心をガッチリつかむのだ。