「毎日朝食を食べる子の3割が、偏差値65以上の大学に合格している」「朝食を毎日は取らなかった人たちの3割は偏差値44以下の学部にしか入れなかった」この研究結果を聞いてどう思いますか? ただ食べればいいわけではありません。あの脳科学者・川島隆太教授に、頭のよい子に育てる方法を聞いてみたーー。
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「朝食あり」の子どもの3割が、偏差値65以上の大学に合格している。
あなたは、これを聞いたらどう思うでしょうか。「そんなバカな!」と思うかもしれませんね。しかし、これは厳然たる事実です。
これは、私が所属している東北大学加齢医学研究所と農林水産省が共同で行った、大学生400名、35~44歳の大卒会社員500名を対象に行った調査結果でわかったことです。
上の事実と合わせて、「朝ご飯はんを毎日はとらなかった人」たちの約3割は、偏差値44以下の学部にしか入れていなかったこともわかりました。
そのほかにも、この調査からは以下のような事実が判明しています。
・「朝ごはんをほぼ毎日とり続けた人」たちの半数以上が第1希望の大学に入っている
・「朝ごはんを毎日は取らなかった人」たちの約3割が第3希望の大学にしか入れていない
さらに朝食習慣は、次のように大学卒業後も大きく影響していることもわかりました。
・「朝ごはんをほぼ毎日とり続けた人」の約6割が第1希望の会社や団体に就職できた
・「朝ごはんを毎日は取らなかった人」たちの約3割が第3希望以下のところにしか就職できなかった
・「朝ごはんをほぼ毎日とり続けた人」たちは高収入層に固まりやすく、「朝ごはんを毎日は食べていなかった人」たちは低収入層に固まりやすい
朝ごはんの有無は、就職する会社や収入にまで、大きく影響していることがはっきりと表れたのです。
子どもにとって、朝食習慣がいかに大事であるか、将来を大きく左右する重大事項であることがおわかりいただけたでしょうか。
「主食」+「おかず」の朝食が子どもの脳を発達させる
我が子の能力を伸ばしたい、頭のよい子に育てたいと願うのは、親ならば当然のことでしょう。そのために、幼児教育やよい学校、いろいろな習い事に通わせたりと、多くのおやごさんが様々な努力と心配りをしていると思います。
ではなぜ、そこまで朝ごはんが子どもに影響するのか。そのお話をしていきましょう。
まず、脳をしっかり働かせるためには、エネルギーが必要です。
私たちの脳はたくさんの神経細胞から構成されており、その間を電気信号を伝えることでものを考えたり、身体を動かしたりしています。この神経細胞のエネルギーが、ブドウ糖です。ブドウ糖とは、ご飯やパンなどの主食が消化されることで作られます。
つまり、しっかりと主食をとることで脳はエネルギーを得て、初めていきいきと活動することができるわけです。
しかし、ご飯やパンだけ食べればいいのかというと、そうではありません。
脳の神経細胞の間をつなぐ電線のようなものを「シナプス」といいますが、子どもが何かを学んでいくとき、このシナプスが急激に太くなったり、枝分かれをします。この変化を起こすために、ブドウ糖だけでなく、様々な栄養素が欠かせないのです。
主食といろいろな栄養を含むおかずの両方をとらないと、脳は健全に発達ができないというわけです。
このことについては、私たちの調査でもはっきりとしています。朝食のおかずの品目数と認知機能との相関を調べたところ、「おかずの数が多いほど発達指数は高く、少ないほど低い」という驚くべき関係があきらかになりました。
それは「おにぎりだけ」とか「トーストだけ」の朝ごはんでは脳は十分に働かない、ということです。
おかずを一緒にしっかりとることで、はじめて子どもの脳はそのパフォーマンスを十分に発揮することができるのです。
なぜ「朝食」が大事なのか
ではなぜ、「朝食」が大事なのでしょうか。朝は食欲がないから、お昼ごはんをしっかりとればいいのでは?と疑問に思う人もいるかもしれませんね。
その答えは、文部科学省が行った調査「朝食摂取と体温の関係」からわかります。
この調査では「朝食をしっかりとった子ども」と「朝食抜きの子ども」の1日の体温変化を調べました。すると、朝食をしっかり食べた子は朝からしっかりと体温が上がっているのに対し、朝食抜きの子どもは午前中だけでなく、1日を通してずっと体温が低いことがわかったのです。
つまり、朝ごはんを食べないと、全身の細胞レベルで1日中、代謝が低い状態になるということです。
これは脳細胞だけの話ではなく、当然、身体を動かす能力も低くなります。
同じく文部科学省が行った調査で、朝食を毎日食べる子に比べて、朝食を食べない子は50メートル走、シャトルラン、持久走、すべてにおいて成績が悪かった、という結果からもはっきりとわかっています。
パン派よりご飯派のほうが知能指数が高い!?
私たちの調査でわかった、もうひとつの面白い事実をご紹介しましょう。
仙台市の子どもたちを対象に、MRI装置を使って脳の画像をみたり、認知機能、心の働きのテストなどを実施する中で、あるとき、ふと気がついたことがありました。
それは、朝ごはんにパンを食べている子よりも、お米を食べている子のほうが知能指数が高い、ということでした。
私にとっては信じたくない事実でした。なぜなら、私は幼少期から朝ごはんにはパンを食べるのが習慣だったからです……。
しかし、科学者としては事実をはっきりさせなくてはいけません。そこで、子どもたちの脳のMRI画像を解析したところ、驚くべき事実が明らかになったのです。
それは、主食にパンを食べている子よりも、お米を食べている子のほうが、脳の神経細胞がたくさん詰まっている「灰白質」が大きい、ということでした。
しかもその違いは幼少期よりも中学生、高校生、大学生と、成長していくにつれて大きく広がっていくこともわかったのです。灰白質の体積の違いは、生活習慣の差によるものが大きいということです。
ではなぜ、パンよりお米のほうが脳は発達するのか?
私は、それはパンとお米のGI値(グリセミック・インデックス)の違いではないかと考えています。GI値というのは、食後の血糖値の上がり方を示す指数で、お米は70~80であるのに対して、パンは97~98とかなり高い数値なのです。つまり、パンは急激に血糖値を上げるということ。
そして、このGI値が低い食事をとるほど身体はよく発達するということが、アメリカで行われた調査ではわかっています。脳の細胞レベルでも同じことが言えるのではないかと私は考えています。
このことがわかって以来、私は朝食のパンは、GI値がより低い玄米からつくる「米粉パン」に変えています。「朝食はパン派」という方は、同じようにできるだけ米粉パンにするか、GI値が低い全粒粉のパンに変えることをおすすめします。
負担なく朝食を充実させるために
子どもの脳にとって朝食は非常に重要だとわかったところで、みなさんは今すぐ朝ごはんをしっかり子どもに食べさせたいと思っていることでしょう。
とはいえ、共働き世帯が増えている今、「朝から何品もおかずをつくることは難しい」「朝からご飯を炊くなんて無理」という事情も無理ありません。
ここで「朝ごはんは朝につくる」という考えを一度捨ててみてください。
前日の夕ごはんのおかずを多めに作って朝に食べる、でも十分です。もしくは、作り置きのおかずを一品添える、でもOKです。朝、昼、晩、すべてを手作りで違うものをあれこれ食べなくてはいけないわけではありません。前の日と同じおかずで、まったくかまいません。
無理があっては、習慣として続けることは難しくなります。無理のない方法を見つけて、子どもの脳を健全に発達させる朝食習慣をご家庭に根付かせてください。
子どもの意欲をあげるのは「一緒に朝ごはん」だった
ご飯を主食に、おかずをしっかり食べる。
子どもの頭をよくする朝ごはん習慣の重要ポイントをこれまでお話してきました。最後に、子どもの意欲を引き上げる、朝食のもうひとつの重大なポイントを紹介しましょう。
それは「親子で一緒に朝ごはんを食べる」ということです。
実は、教育学の世界では「子どもの意欲を引き上げる方法」というのは、長らく答えが見つかっていない問題で、誰にもわかりませんでした。
私たちは心理学、認知科学、脳科学の研究者を集めてチームをつくり、調査データの解析を行ったのです。教育学的観点から一度離れ、新鮮な知見で精査を行いました。
そこでわかったのが「健康的な生活習慣」が子どもの意欲に強い影響を与えており、なかでも「朝ごはんを食べる習慣」が突出して影響を持っているということでした。
ほめたり、ごほうびをあげたり、罰を与えたり――多くのおやごさんが手を尽くして子どものやる気を引き出そうとしていると思います。しかし、統計的な分析では、朝ごはんこそ、最も強く子どもの意欲を引き出す効果があることが判明しました。
ところが、私たちの調査によると「毎日一緒に朝ごはんを食べている」という保護者は半数以下、という何とも悲しい結果が出ています。
朝、ほんの10分、15分だけでも子どもと一緒に食卓を囲み、栄養たっぷりの朝食を食べる。
それは、どんな脳トレよりも、ドリルよりも、塾よりも、子どもたちの脳にとって、将来にとって強い影響を及ぼす習慣です。
子どもたちの心と身体を健全に育て、将来の可能性を最大限に引き出すために、ぜひ、明日から、子どもたちとの朝食習慣を大切にしていただければと願います。
川島隆太(かわしま・りゅうた)◎東北大学加齢医学研究所所長 スマート・エイジング国際共同研究センター長。東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所、東北大学加齢医学研究所助手、講師、教授を経て、2014年より同研究所所長。任天堂DSゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』、学習療法を応用した『川島隆太教授の脳を鍛える大人の音読ドリル』シリーズ(くもん出版)などで一躍、時の人に。人の脳活動の仕組みを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能開発研究の国内第一人者。研究で得た知見を産学連携に応用、その実績から総務大臣表彰、文部科学大臣表彰。『脳が活性化する大人のおもしろ算数脳ドリル』(学研プラス)など著書多数。