あなたは自分の子どもにスマホを使わせていますか?なんと、長時間のスマホ使用で、2時間以上の勉強効果が消えてしまうという恐ろしい研究結果が出たのです。ちょっとだけ“怖くなる”けど、知っておきたい子どもとスマホの関係を、あの脳トレで有名な脳科学者・川島隆太教授に聞いてみた。
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暇さえあれば、スマートフォン(以下=スマホ)片手に動画やゲーム、メールやLINEのやりとりをしている我が子を見て、「こんなにスマホを触っている時間が長くて大丈夫なのか……」と、不安に感じているおやごさんは多いことでしょう。
その漠然とした不安は、的中しています。というよりも、予想をはるかに上回る悪影響を子どもたちに与えていることが、科学的にわかっています。
拙著『頭のよい子に育てるために3歳から15歳のあいだに今すぐ絶対やるべきこと』で明らかにした、スマホが子どもたちに与える驚くべき影響について、ここではお話していきましょう。
私が所長を務めている、東北大学加齢医学研究所では、平成25年に初めてスマホに関する子どもたちへの影響について、本格的な調査を行いました。
その衝撃的な結果を先にお伝えすると――。
スマホの長時間使用で「2時間以上の勉強効果が消える」ということが判明しました。
もう少し詳しく説明すると「スマホをほとんど使わない、まったく勉強していない子」よりも「スマホを1日4時間以上使用していて、自宅で2時間勉強している子」たちのほうが、成績が悪いという結果が出たのです。
これはいったいどういうことなのか、私たちはその後も2年間、追跡調査を行い、スマホと子どもたちの成績との相関関係を調べていきました。
すると、
・スマホを1日1時間以上、使い続けた子どもはどんどん成績が下がった
・もともと成績が良かった子も、スマホを使い始めると成績が大きく下がった
・スマホをもともと1時間以上使用していて成績が悪かった子が、スマホ使用をやめる、もしくは1時間未満に抑えたら成績が向上した
このようなことがわかったのです。
どんなメカニズムなのかはさておき、子どもがスマホを使うと成績が下がる、「学校で勉強したことが頭から消える」ということがはっきりしたのです。
スマホに限らず、タブレットなどによるインターネット使用時間と学力の関係を見ると、使用時間を1時間未満にすると、成績への影響が少ないこともわかっています。使用時間を制限できる子どもは、生活をコントロールする意思が強く、スマホの誘惑に負けない能力があるから成績がさほど下がらないのでは、と考えられます。
ところが、調査を進めるうちに、時間制限も意味をなさない例外が見つかったのです。
それが、LINEです。平成26年に、LINE等の使用時間と学力の関係を調べたところ「使ったら使った分だけ成績が下がる」ことがわかりました。勉強時間や睡眠時間など、他の要因との関連をかんがみても、同じ結果でした。
どれだけ勉強しているか、どれだけ寝ているかに関係なく「LINEを使うと直接的に成績を下げる」ということが分かったのです。
さらにLINEは「使用時間が1時間未満であっても成績を下げる」ことも調査で判明しました。
スマホで脳がフリーズする
私たちはスマホ、LINE等が学習効果を消してしまう原因を解明するために、いくつかの実験を行いました。
そのひとつが、脳の血流を計測する装置をつけ、脳血流の変化を調べるという実験です。
被験者には装置をつけたうえで「辞書を使って言葉の意味を調べる」ことと「スマホでウィキペディアを使い、言葉の意味を調べる」という作業をやってもらいました。
すると、辞書を使う場合には、思考するときに活発になる大脳の「前頭前野」の血流が増えることがわかりました。一方、スマホを使った場合には、逆に前頭前野の血流は減少し、抑制がかかって働かない状態になったのです。
つまり、私たちがスマホを使っているとき、その間、脳は血も通わず働かず「ゆるみきっている」ということです。
ゆるんでいるということは、リラックスしているということだからいいのでは? と不思議に思う人もいるかもしれません。しかし、発達期にある子どもの脳にとっては、これは悪影響でしかありません。
脳をしっかり使って鍛えることが重要な時期にあるため、脳が休息状態になる時間が長くなると、当然、脳の発達、働きは低下してしまいます。
LINEで情報処理速度、注意力が落ちる
私たちの実験によって、脳科学的な要因のほかに、LINEによる成績への悪影響に関しては、心理学的な原因があることもわかりました。
大学生に、背後に自分のスマホを置いて、継続的な作業を行ってもらったところ、LINEの通知音が鳴るたびに、情報処理や動作速度が遅くなり、注意力が低下したのです。
この結果から「誰かからメッセージが来た」という認識が、学習効果を削ぐことにつながっているということが明らかになりました。
ちなみに、通常の時間を知らせるアラームが鳴ったときには、影響はありませんでした。
子どもたち自身に気づいてもらう
私たちの調査では、子どもたちは勉強中にLINEや動画、音楽やゲームなど、スマホで複数のアプリを利用している「ながら勉強」をしていることもわかりました。
「動画を見ながら勉強ができるの!?」とびっくりされる方も多いと思いますが、現代の子どもたちの「マルチタスク」(複数の処理を同時に行うこと)の巧みさには驚かされるばかりです。
しかし、当然ながら複数アプリを使いながらの勉強は、成績を大きく落としてしまうことにつながっています。
私たちが、勉強中に使用したアプリの数によって、4教科の平均点がどうなるかを分析したところ、アプリの数が多いほど成績は下がる、ということが明らかになったのです。
子どもたちは勉強どころか、アプリさえひとつのことに集中できていないのです。「何にも集中できていない」というのは、脳の発達において最も悪影がである、とも言えます。
子どもにスマホとの関係を考えさせる
さて、ここまでの調査結果をみて皆さんはどう感じられたでしょうか。
私がこの解析結果を見たときの第一声は「うわっ!! こわっ!!」です。こんな恐ろしいデータを見たことはありませんでした。
今すぐスマホを子どもからとりあげますか? 今やスマホは社会の「必要悪」になっています。学校のお友達、部活の連絡、すべてメールやLINEが主流であるというのは、よく聞く話です。そんな社会的な情勢の中「スマホ禁止」と頭ごなしに言っても、子どもは反発するだけです。
では、どうすればいいのか?
私が子どもたちに向けて講演会をするときには、まずはこれまでにお話したような科学的なデメリットを伝えます。そのうえで、スマホを使うメリットと比べて「どう使えばいいか? を自分たちで考えてください」と話しています。
すると、子どもたちはたいてい「友達とコミュニケーションが取れる」と言います。
ところが「スマホなしで友達といい関係はできないですか?」「スマホでつながっている友達と、スマホなしでつきあっている友達との関係性に違いはありますか?」という質問を投げかけると、子どもたちは自分で「スマホと友達付き合いとは関係なさそうだ……」と気づいていきます。
こうして機会をつくってあげれば、子どもたちは自分自身でスマホとの正しい付き合い方を考えるわけです。
ぜひ、ご家庭でもこうした機会をつくってください。
そして、おやごさん自身も、子どもたちと一緒にいるときには、スマホを遠ざけてください。ご自身がスマホ中毒にならないお手本を示してあげることが、子どもたちが正しい道を選ぶ力を育むことにつながるはずです。
川島隆太(かわしま・りゅうた)◎東北大学加齢医学研究所所長 スマート・エイジング国際共同研究センター長。東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所、東北大学加齢医学研究所助手、講師、教授を経て、2014年より同研究所所長。任天堂DSゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』、学習療法を応用した『川島隆太教授の脳を鍛える大人の音読ドリル』シリーズ(くもん出版)などで一躍、時の人に。人の脳活動の仕組みを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能開発研究の国内第一人者。研究で得た知見を産学連携に応用、その実績から総務大臣表彰、文部科学大臣表彰。『脳が活性化する大人のおもしろ算数脳ドリル』(学研プラス)など著書多数。