今回紹介するのは、専業主婦の会田紗香(さやか/仮名・43歳)だ。彼女は、約半年前から、7歳年上の会社経営者と不倫関係にある。
紗香は、待ち合わせ場所の池袋駅にピンク色のジャケットに、白のフレアスカートという清楚ないで立ちで現れた。ロングでゆるめのパーマは、しっかりと根元まで栗色に染め上げられていて、にっこりと笑ったときのえくぼが可愛らしい。定期的にジムに通い、身体をシェイプアップしているということもあってか、脚や腕の締まり具合やラインがとても美しい。
一見30代半ばかと見まがうが、実は43歳。目や口元が三浦理恵子に似ていて、間違いなく美人の部類に入るルックスだ。子供は大学生の息子が1人いるとこっそり教えてくれた。
今の不倫相手は妻子がいるため、W不倫ということになる。
「意外に思われるかもしれませんが、夫との関係は良好なんです。固い友情で結ばれてる感じですね。でも、男女関係はとっくの昔に終わってるんです。旦那はもう、男じゃない」
紗香は、時折、視線を下に漂わせながらも、はっきりとした口調で語り出した。
結婚した時より緊張する不倫相手との逢瀬
紗香が現在の不倫相手と出会ったのは、地元の石川県金沢市にある喫茶店だった。そこにパート勤めしていた紗香は、特に常連に人気の店員だった。その常連の1人が会社経営者の吉田健介(仮名・50歳)だった。健介は、児玉清似のダンディな落ち着いた中年男性。高校時代は野球部に所属しており、筋肉質で胸板があるのが魅力だった。
「喫茶店で働いていた時、ずっと健介さんのことをいいなーとは思ってたけど、まさかこんな関係に発展すると全然思わなかったんです」
夫が急な転勤で東京に引っ越すことになり、1年ほど勤めていた喫茶店を辞めることになった紗香は、残念がってくれる健介に、趣味のドライフラワー用の名刺をさりげなく手渡した。長年お世話になった常連さんへの社交辞令――。そのつもりだった。
健介は数日後、その名刺のメールアドレスに、食事の誘いのメールを送ってきた。二人は、紗香の夫の転勤前に何度か地元で食事をしたが、その時は、もちろん肉体関係はなかった。
しかし、東京に転勤後、健介は、紗香にアプローチをかけ始めた。
「たまたま健介さんから、“東京に出張で行くから会いませんか”というメールが来たんです。それで会うことになった。私は、愛想のいい人間なんで、“ぜひまたお会いしましょう”って、言っちゃったんですね。そしたら、“その日はずっと二人で一緒に過ごしませんか?”と返ってきたんです。それって……、セックスも含むってこと? と思って、とにかくびっくりしました。
だけど、私も彼のことが好きだったし、さすがに覚悟を決めましたね。そっか、私、今日、セックスもありで男の人と会うんだって思ったら、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。でも決まったら、準備しなくちゃ……となって、ネットで『お泊りデート』と検索していて、替えのストッキングとか準備し始めましたね(笑)」
その日、紗香は、夫には友達の家に泊まりに行くので帰らないと告げた。時折、ドライフラワー仲間の友人宅に泊まりに行くことがあった紗香に、夫は特段、不審感を抱くということもなかった。紗香は、夕飯と翌朝の食事の支度をして、これから起こることに一人心を躍らせながら自宅を出た。
健介が紗香を呼び出したのは、帝国ホテルのフロントだった。荷物を置きに部屋に行くと、そこは広々としたジュニアスイートで、大きなダブルベッドが2つ並んでいた。
「ぶっちゃけ、お金がかかっていたと思います。彼が私を誘った責任を果たしたいというのを感じましたね。私は彼に会いに行くのに、すごく勇気がいったわけです。その大きなジャンプに対して、クッションを敷いてくれた感じで、正直うれしかった」
しかし健介は、部屋に入ってもいきなり紗香の身体を求めるようなことはしなかった。半年が経った今も、その態度は変わらない。むしろ、健介には性欲に走ることは恥だと思っている節があるという。紗香が誘わない限り、セックスの誘いにも乗ってこないのだ。そのガツガツしない、ダンディな態度に紗香はますます惹かれていった。
紗香といると落ち着く――、健介は、そう言って、紗香を喜ばせた。ずっと昔に味わったことのあるこの感情――、それは、まるで甘酸っぱい思春期のカップルの心境だと紗香は思った。
二人は、夜景を楽しみながら、ルームサービスを取り、部屋でいつまでも語り合った。
夜も更け、お互いシャワーを浴びた後、健介はおもろむにベッドに横になった。
すると、いつの間にか、聞こえる寝息――。
「パッと目をつぶっていたら、もう向こうが寝ていたんです。不覚にも、寝てしまったという感じ。私から寄っていくのも嫌だったから、そのままにしていました。だから、1つのベッドで、離れて寝ていたんです。朝方、ふいに目が覚めるんですよ。私はもちろん、ほとんどまともに寝れていません(笑)。それはムラムラして……というわけじゃなく、横に好きな人がいて、すごくうれしいなという感じで。でも、もっと健介さんとくっつきたいと思った」
肉欲だけの関係だったら、深みにハマらなくて済むのに
朝日がカーテンの隙間から差し、健介が目を覚ましたことが分かると、紗香は意を決してベッドの上で少しずつ身体を回転させて、健介に近づいていった。
すると、そこから自然な流れで健介は、紗香にキスした。舌が入ってきて、絡み合う。紗香は、何十年ぶりのキスの味にときめいた。旦那はキスが嫌いで、まったくしてくれなかった。本当は、紗香はとろけるようなキスが大好きだった。
「旦那は、キスが本当に嫌いなんですよ。ディープキスは特に嫌いみたい。付き合った当初から好きじゃなかったですね。でも私はキスしたいし、セックスの最中のディープキスが大好き。それで好きな人がキスしてくれたと思うと、うれしくて、めちゃくちゃ長い時間キスしましたね。健介さんも、そんな私の様子を感じ取って、それに応じてくれた。
あと、“スタイルいいね”と身体もほめてくれた。そこからは、普通のセックスでした。私は彼をぎゅっと抱き締めてるだけ。私はそれで十分満足で、胸がいっぱいでした。
体位は正常位だけだったんですが、本当にそれが自然な流れで、だから逆にうれしかった。“奥さんとできないようなプレイを、外で楽しんでやれ!”という感じじゃなくて良かったと思ったんです。でも、その半面、心が動くのが少し怖くもありました。肉欲だけの関係だったら、深みにハマらなくて済むから」
一つになっている最中も、健介は、紗香が大好きなキスを欠かさなかった。それがうれしくて、紗香は、もっと健介を求めた。ああ、これが幸せ、今、この瞬間に、嘘はない――。
チェックアウトした後、新幹線で帰る健介を駅まで見送った。紗香は家に帰ると、緊張が解けたのか、夕ご飯の支度をすると、そのまま寝てしまった。
それは、とても心地の良い疲れだったからで、何年かぶりに深い眠りに就くことができたのだった。
紗香はなぜ健介とのW不倫にハマってしまったのか。そこに求める救いとは――。後編では彼女の夫婦関係や心の中をひも解いていきたい。
(後編に続く)
*後編は7月30日に公開します。
<著者プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。
最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。