普天間基地のオスプレイ

 住宅や学校が近接し、「世界でいちばん危険な基地」と呼ばれる普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)。これを返還して負担軽減をするには、日本とアメリカは、新基地建設は「辺野古が唯一の解決策」と繰り返し強調してきた。こうした「基地神話」を唱えるのは政府ばかりではない。ネット上には「抑止力」「地政学」的に沖縄に基地が必要だとする主張があふれかえり、それに中国・北朝鮮への脅威論が拍車をかける。

 だが、それらの神話を覆し、普天間問題を解決する画期的な政策提言を民間シンクタンクが発表、注目を集めている。軍事・安全保障の専門家がメンバーの『新外交イニシアティブ』(以下、ND)がそれだ。

 7月中旬にはアメリカを訪れ、首都・ワシントンでシンポジウムを開催、米政府関係者へのロビー活動も行っている。

NDは訪米前に東京や沖縄でシンポジウム、記者会見を開き、提言を周知

 辺野古への新基地建設に代わる解決策─、NDが提言するのは「海兵隊の運用の見直し」だ。訪米に先駆けて5月23日、都内で開かれたシンポジウムでは、2月にまとめた報告書をもとに、その具体的内容が明らかにされた。

 猿田佐世事務局長が言う。

「アメリカでロビー活動を行っていると、辺野古に基地を作らないとなればどうするのか、具体的な代替案を求められることが少なくない。防衛、軍事、安全保障の観点からみて、辺野古でなければいけないのかということについて3年間、アメリカの軍事戦略や軍隊の運用にまで踏み込んで研究を重ねてきた」

 日本にある米軍基地の7割が沖縄に集中していることはよく知られている。だが、その7割を海兵隊が占めていることはご存知だろうか。しかも、そこに駐留する第31海兵遠征部隊(以下、31MEU)が担う主なミッションは、意外にも「人道支援、災害支援」だ。

 ND評議員でフリージャーナリストの屋良朝博さんが解説する。

「狭い沖縄で基地の施設をAからBへ移すのは難しい。ですから施設を動かすのではなく、海兵隊の運用を変える。この31MEUを沖縄県外、あるいは国外に移して、普天間飛行場の移設計画をやめさせるのです」

 日米両政府が合意する「米軍再編」計画によれば、海兵隊の主力部隊のグアムをはじめ海外移転後、沖縄に残るのは司令部機能と31MEUだけ。しかも31MEUはほとんど沖縄にいない。1年のうち半年ほどかけて遠征に出ている。

 しかも31MEUを運ぶ船は沖縄にはなく、長崎県の佐世保にある。佐世保から来た船に、沖縄で部隊と資材をピックアップしてアジア・太平洋地域に展開しているのだ。

 さらに屋良さんが続ける。

「これを電車に例えるなら、始発駅が長崎、乗車駅が沖縄です。目的地はアジア・太平洋。船と部隊が合流して展開するシステムを維持さえしておけばいい。落ち合う場所はどこでもいいというわけです」

 この落ち合う場所をアメリカは「ランデブーポイント」と呼ぶ。下の図が示すとおり、ランデブーポイントを変えても海兵隊の運用に差し支えはない。人道支援、災害支援は自衛隊の得意分野。海兵隊と役割を分担することも可能だ。

米海兵隊のアジア太平洋ローテーションの動線。NDの資料を参考に編集部作成

 抑止力の点でどうかという声が聞こえてきそうだ。これには民主党政権で防衛大臣を務めた森本敏氏の発言で説明できる。NHKの番組出演時に、「日本の西南、九州か、四国のどこかに1万人の海兵隊が常時いて、地上、ヘリコプター、後方支援の機能を包含できればいい」と話し、さらに防衛相の辞任会見でも「軍事的には沖縄でなくても良い」と述べている。

 犠牲を強いてきた沖縄に本土はどう応えるか。その意味でも注目したい提言だ。