地元民に長年愛されている、ご当地グルメ。ときにその誕生エピソードには、熱いドラマが秘められていることも。ここでは各地が誇る名物料理のなかから、“魅惑の麺”に注目します!
温泉地で冷たい麺を食す! 盛岡と並ぶ冷麺の聖地、別府!
■別府冷麺(大分県別府市)
系統・店舗により個性はさまざま。なかでも初期の別府冷麺の味、昔ながらの平壌の味を最も残しているのが別府駅前の大陸ラーメン。酸味と歯ごたえの強いキャベツキムチ、野趣あふれるスープと麺。アクは強いがぜひともご賞味を。
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温泉街として有名な別府のソウルフード、それが別府冷麺だ。地元民はこれを専門店系と焼き肉店系の2つに大別する。専門店系のルーツは、かつて松原公園で松本一五郎氏が開いていた『大陸』(現在は閉店)。そこで働いた人々が独立し、現在もある『大陸ラーメン』『胡月』が開店していく。キュキュッとした歯触りのキャベツキムチや、麺の太さが特徴。ただし、大陸ラーメンはそば粉が多めで黒っぽくプッツリした歯ごたえ(現在の北朝鮮・平壌式)、胡月はデンプン多めで白くツルツル、モッチリ(同じく咸興式)と、各店による違いも大きい。
焼き肉店系は『アリラン食堂』が発祥とされる。戦後すぐに海門寺公園で金光一氏が開いていた同店が焼き肉店『アリラン』『春香苑』へと派生。焼き肉店系の裾野が広がった。こちらのキムチは白菜で、麺も専門店系と比べるとだいぶ細い。
実は松本、金両氏は戦後すぐの満州で知り合っていた。大陸から引き揚げた2人は、偶然のいたずらによって別府で再会。松本氏はアリラン食堂で働いた後に大陸を開店、それぞれの冷麺を別府市民たちへ提供していくこととなる。北朝鮮の郷土料理である冷麺は、満州を経て2人の男に託され、別府の地に根づいた。別府冷麺各店の1杯には、東アジアに生きた男たちのドラマが凝縮されていた。
薄味ソース焼きそばにパスタソースをON、その大胆さ!
■イタリアン(新潟県全域)
蒸した中華麺をソースで味つけし、具のもやし、キャベツとともに炒める。トマトソースなどパスタ風のソースをかけるのが基本だが、カレーソースも王道の1つ。
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トマトやクリームなどのパスタソースをかけた焼きそば『イタリアン』は、新潟県民の日常食。部活帰りの学生が、日曜日の買い物に来た家族が、ちょっと小腹を満たすための一品。立ち位置的にはたこ焼きやたい焼きに近いが、もちろん全国区ではなく、あくまで新潟限定の食文化だ。
イタリアンを提供するのは『みかづき』『フレンド』という2大チェーン。前者は新潟市を、後者は長岡市を中心に展開し、’60年代からじわじわと県民食としての地位を確立していった。勢力圏が違うこともあり、両チェーンの仲はいい。いがみ合うこともなく、ほのぼのと商売しているところもイタリアンという料理にふさわしい。
そう、イタリアンの根底に流れるのは「ゆるやかな安心感」だ。駅やスーパーのイートインコーナーに、当たり前のようにたたずむ店舗。そこでは誰ひとりとして気取らず、ただ日常の食事を楽しんでいる。これは褒め言葉だが、両チェーンで提供されるイタリアンの最大の魅力はお手ごろ価格と安定の味わい。
決して驚くほどおいしいわけではないが、初めて食べる県外民はみな、「ああ、こういうことね!」と納得する。
日常食とは、驚くほどうまくても、まずくてもダメ。友人や家族と当たり前のようにイタリアンを食べる日々は尊い。それこそが真のソウルフードではないか。
その他のご当地麺料理
■ジャガイモ焼きそば(栃木県)
「栃木市、足利市の栃木南部ではジャガイモ入り焼きそばがソウルフード。戦後の貧しい時代に生まれた炭水化物イン炭水化物のカロリー食。栃木南部には駄菓子屋ファストフード『いもフライ』があるが、この余りを有効活用するため焼きそばに入れたのが発祥とも言われる」(ソウルフードに造詣の深い怪談研究家の吉田悠軌さん)
■ローメン(長野県)
「伊那市で生まれた『チャーローメン』、略称ローメンは羊肉と野菜を炒め、蒸した太めの中華麺を加えたもの。 ラーメン用のスープを加えるタイプと加えないタイプがある。羊肉のしっかりした存在感があり“信州の山奥に来たぞ!”と実感させる味」(トラベルライターのカベルナリア吉田さん)
■ごまだしうどん(大分県)
「えそという魚の焼いた身をほぐし、みりん、しょうゆ、砂糖に、たっぷりのごまを加えたペースト状の調味料・ごまだし。佐伯市の特産品で各家庭でも手作りされている。そしてこれを素うどんにかけるだけの極めてシンプルな料理だが、本当にうまい!」(フードライターの白央篤司さん)