脳神経外科医として、これまで1万人以上の脳の病気の患者さんたちを診てきた築山節先生。最新著書『定年認知症にならない脳が冴える新17の習慣』では、定年という人生の節目を迎えた人に向けて、「脳が枯れないコツ」をわかりやすく解説している。そもそも“定年認知症”とは、どんなものなのだろうか?
「本書でいう“定年”とは、退職も含め、生活パターンが大きく変わってしまうことです。生活のリズムが変わることが脳に大きな影響を与え、萎縮してしまうケースが多い。例えば、会社を退職して家に入ると何もしなくなる人がいますよね。すると脳の機能が落ちて認知症になりやすい。では、そうなる前にどうしたらいいのか? ということを、“定年”をキーワードにまとめたのが、この本なのです」
退職して1日中、家でゴロゴロしている旦那さんに困っている人もいるのでは? 実は、それはとても怖いことだと築山先生はいう。
「長く仕事をしてきた人は仕事専用の脳が作られています。仕事を辞めるとその部分を使わなくなるので、それにかわる別な仕事で脳を働かせることが必要です。買い物、掃除、なんでもいい。要は、頭を使うことをやめてはダメ! なぜなら、頭を働かせ、常に新しい情報を入れていくことで脳は育っていくからです」
そのために気をつけたいのは、定年になっても、それまでの生活習慣やリズムを変えないことだそう。
「いちばん大事なのは、朝起きる時間、夜寝る時間を変えないこと。旦那さんに合わせて自分の生活が変わってしまう方がいますが、それもいけません。自分の趣味や友達との付き合いは、そのまま続けたほうがいいですね。旦那さんと一緒に甘えた生活をしていると、夫婦共倒れになります。だから、家でゴロゴロしている旦那さんを、奥さんがうまく利用して、使ってあげるといいでしょう(笑)」
脳が枯れないための”3ステップ”とは
築山先生自身も、毎日を規則正しく送っている。著書には、脳が枯れないための3つのステップとして、脳の“守り方”“使い方”“育て方”が書かれているが、それをまさに実践しているのだ。
「まず、ひとつ目は“生活を変えないこと”。僕は、毎朝4時半に起きて、5時に犬の散歩に、6時25分からテレビ体操。これは土日も変えていません。その後の仕事時間は多かったり少なかったりしますが、朝の行動が決まっていれば、多少のズレは大丈夫。自分の生活の時計を持つことが大事なのです。
2つ目は“無理をしない”。私は、肉体的な限界を考えて45歳で外科医の仕事を辞めたのですが、そこから徐々に働き方を変えていきました。若いときには明け方まで働くこともありましたが、いまは無理をしない。夜はきちんと寝て休息を十分にとり、昼間だけ仕事をする。つまり、頑張って働かない(笑)。無理をしてたくさんの仕事をするよりも、そのほうが着実にいい仕事ができるんですよ」
そして3つ目のステップは“新しいものをどんどん取り入れていくこと”だと言う。
「世の中、便利なものがたくさんありますよね。例えばICレコーダーやスマートフォン。僕は、原稿を書くときにスマホの音声アプリを活用しています。電車の中でいい考えが浮かんだら、電車を出てスマホに向かってしゃべるんです(笑)。新しい、いいものをどんどん取り入れて働き続けることが大切です」
脳を守り、適切に扱っていれば“認知症は防げる”“軽度のものは改善できる”という。高齢者の3人に1人は認知症になるといわれる時代にあって、先生の言葉は大きな励みになる。
「昔のように、年をとったら認知機能は下がってくるというのは、常識ではなくなってきています。最近、日経メディカルに『認知症は減らせる』という特集記事が載りましたし、外国にも認知症が減っているという報告が上がってきています。脳にも実は、皮膚や肝臓と同じように、幹細胞(※失われた細胞を再び生み出し、補充する能力がある細胞)があることがわかっています。
私は、適切な診療で元気になった患者さんの症例をたくさん見てきています。だから、あきらめずに努力してください。脳は、大事に使えば、一生、枯れることのない素晴らしい臓器ですから」
<プロフィール>
築山節先生
日本大学大学院医学研究科卒業。医学博士。公益財団法人河野臨牀医学研究所附属北品川クリニック所長。脳神経外科の専門医として数多くの診療治療にたずさわり、’92年、脳疾患後の脳機能回復をはかる「高次脳機能外来」を開設。著書に57万部のベストセラー『脳が冴える15の習慣―記憶・集中・思考力を高める』や最新刊『定年認知症にならない脳が冴える新17の習慣』など多数。