いつのまにか芸能界には「ママタレ」という“ジャンル”があり、育児を全面に押しだしながら芸能活動するタレントが急増している。彼女たちのブログや発言は、多くのママたちの目に触れ、共感や批判を受けながらも成り立っている。そんなママタレの夫について、『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』の著者が、社会学的に解き明かす!
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「ママタレ」はよく話題になりますが、その「夫」についてはあまり語られません。
好感度ランキングの上位にくるママタレントの夫の職業を見ると、なぜか「お笑い芸人」が多いことに気がつきます。これは偶然でしょうか。謎です。そこで、ママタレントの夫の条件について、社会学的に解き明かしてみたいと思います。
オリコン「2016年好きなママタレントランキング」を見ると、木下優樹菜、北斗晶、山口もえ、藤本美貴、渡辺満里奈といった常連の名前に加えて、木村佳乃、篠原涼子、森高千里などメインの活動が女優や歌手である芸能人の名前もあがっています。
彼女たちを「ママタレ」と呼べるのかは意見が分かれるところでしょう。今回は、「育児に携わっていることを前面に押し出している」、いわゆる「ママタレ」に限定したいと思います。
いわゆる「ママタレ」は、バラエティ番組や女性誌、ブログで子育ての様子や手料理を披露し、幅広い層から共感を得ることで人気タレントの地位を確立しています。本人の言動が人気に反映されますが、実は、夫が誰なのかも好感度に影響しているようです。
条件1「セレブ」「金持ち」イメージではないこと
人気ママタレントの夫の職業に「お笑い芸人」が多い1つの理由は、お笑い芸人という職業は庶民的なイメージで、「金持ち」「セレブ」という印象が比較的薄いことがあるからでしょう。
「嫌いなママタレ」ランキングで何度も1位になった神田うのさんの夫・西村拓郎さんは約1600億円の売上高のある企業の経営者です。神田うのさんに対して、「他人を見下している感じ。セレブな生活も嫌みに聞こえる」という声があがっています。
同じく「嫌いなママタレ」によくランクインする紗栄子さんも、ダルビッシュ選手との結婚や富豪・前澤友作氏との交際で知られています。
社会学では「女性は結婚する際、自分の父親と同等かそれよりも若干、上の社会階層に属する男性と結婚する傾向」があるといわれています。これを「上昇婚」と呼びます。だから高収入である医師や商社マンは理想の結婚相手として人気があります。
男性にモテる職業である女子アナは、億単位の収入がある会社経営者やプロ野球選手を狙います。そんな夫を持ち、豪邸や贅沢(ぜいたく)なライフスタイル、ブランド品を披露していると、一般庶民からは嫉妬され反感を買ってしまうのでしょう。
実のところ、人気ママタレントの夫であるお笑い芸人の収入は、一流プロ野球選手並みかそれ以上にありそうです。でも人々が注目するのはイメージのほうなので、「イメージ庶民」で可のようです。
条件2「イケメン稼業」ではないこと
もう1つの理由に、お笑い芸人は「美的労働」をする職業ではないことがあります。「美的労働」という用語は、「外見の美しさ」「感じのよさ」をウリにする仕事を意味します。
たとえば、アイドルやモデルなどの仕事があてはまり、こういった職業は女性ファンの人気を当てにしています。
スーパーアイドル・木村拓哉さんの妻である工藤静香さんは、Instagramに手料理写真をアップして炎上しました。夫がアイドルである場合、嫉妬の対象となるため、ママタレ活動が成り立たないのでしょう。
一般的に、女性は、結婚相手の条件として「外見」よりも「収入」を重視します。でもそれは、女性の収入が低い状況に置かれているからです。
一方、多くの女性がアイドルやイケメン俳優に憧れます。つまり女性も、生活がかかっている結婚と関係のない恋愛であれば、相手の外見を重視する傾向が見られるのです。富も名声も手にしたマドンナやジェニファー・ロペスは離婚した後、稼ぎはなくとも若く美しい男性たちを恋人にしています。
「好きなママタレント」ランキングの常連タレントの夫はたいてい、アイドルのような「美的労働」、つまり「イケメン稼業」をしていません。
もちろん、人気ママタレントの夫であるお笑い芸人やプロ野球選手には、実際には「外見のよさ」を兼ね備えている人もいるでしょう。しかし、彼らはお笑いや野球の実力で商売をしているのであって、女性ファン向けに「美的労働」をしているのではないのです。
ママタレントは、アイドルの夫がいるよりも、むしろシンママとして頑張っている姿のほうが共感を呼ぶのかもしれません。
ママタレもつらいよ、ワンオペ育児
さらに、夫のいる子持ち女性にとって、夫が育児をするかどうかは大きな問題です。「夫の家事育児の参加度が多い夫婦のほうが結婚の満足度が高い」「夫の家事育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高い」という調査結果があります。
お笑い芸人は人を笑わせることが得意なコミュニケーションの達人なので、子どもの相手も上手そうなイメージがあります。夫がお笑い芸人の家族像というのは、女性の共感を呼びやすいのでしょう。
しかし、イクメンで知られる中田敦彦さんの妻・福田萌さんは次のように語っていたといいます。
《「なんで私ばっかり…」という言葉が浮かんできたことは正直に言うと、一度や二度ではありません。最近話題のワンオペ育児という言葉にもつながることかもしれません》
現実にはいろいろな苦労があるのでしょう。
人気ママタレントとしてやっていくのは簡単ではありません。女性たちの願望と欲望が複雑に絡み合って、好感度に影響する大変な仕事なのですから。
著書『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』(毎日新聞出版)は、こういった夫婦や子育ての現状を取材し、ドラマや芸能人の話題に触れながら、わかりやすく解説しています。
▽ドラマ「逃げ恥」と愛情の搾取▽非正規で働くシングルマザーの現実▽高収入男子結婚したい症候群のなぜ▽父親たちは育児を「しない」のか「できない」のか▽ワンオペ育児を乗り切る方法――など。ぜひ手にとって読んでいただきたい一冊です。
藤田結子(ふじた・ゆいこ)◎明治大学商学部教授 東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒、米国コロンビア大学大学院で修士号を取得後、英国ロンドン大学大学院で博士号を取得。2016年から現職。主な著書に『文化移民ーー越境する日本の若者とメディア』(単著、新曜社、2008)、『現代エスノグラフィー』(共編著、新曜社、2013)、『ファッションで社会学する』(共編著、有斐閣、2017)。専門は社会学。調査現場に長期間、参加して観察やインタビューを行う研究法を用いる。日本や海外の文化、メディア、若者、ジェンダーなどについてフィールド調査をしている。