今や3組に1組が離婚し、4組に1組が再婚するといわれ、子連れでの再婚も増えている。血のつながりが親子であった時代から、再婚によって血縁のない親と子が家族になる“ステップファミリー”の時代へ。「子どもがいても再婚したい」「しかし、子どもにとって幸せなのか」「みんなが幸せになれるのか」……。ステップファミリーを待ち受ける現実と未来予想図は──。
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バツイチ再婚同士のステップファミリーを描いた映画『幼な子われらに生まれ』が注目されている。「ステップ」とは「継(つぐ)」という意味で、夫婦の一方あるいは双方が、前の配偶者との子どもを連れて再婚したときに誕生する家庭のこと。日本では認知度はまだ1割強であるが、欧米では広く使われていて、パッチワークファミリーともいわれる。直訳すれば「つぎはぎ家族」となる。
自身も3度の離婚、再婚経験がありステップファミリーだった経験もある作家で家庭問題カウンセラーの新川てるえさんは「現在、120万世帯がシングルマザー、ファーザーです。ちょっと前までは離婚したらひとりで子どもを育てていかねばならないという強い責任感と縛りで、恋愛や再婚を躊躇する人が多かったんです。しかし今の時代はシングルマザー、ファーザーも恋愛、再婚に積極的で、ステップファミリーが増えていますね」(以下、会話文はすべて新川さん)
子どもの気持ちを考えると再婚は慎重にという考え方もあるが、「子どもがかわいそうという考えに私は反対です。親が幸せになれば子どもの幸せにつながっていくと思います。新しい人生を前向きに、つかみ取ってもいいんじゃない」と子連れ再婚を積極的にすすめる。「ただしね、子連れ再婚をすると、子どもだけでなく、再婚した相手の元妻、元妻のおじいちゃんやおばあちゃんの影もついてくることがあるのね(笑)。1対1の結婚とは違って、好きだからという気持ちだけで再婚すると、あとで思ってもみなかったいろんな問題が起き、こんなはずではなかったということがある。だから、どういうことが起こるのかをちゃんと学んでから恋愛をし、幸せに結びつくツレ婚をしてほしいと思うんです」
芸能界では竹内結子などがカッコいいシングルマザーとして活躍している。子連れ再婚し、現在の夫との間にも子どもに恵まれた山口もえ(元夫の子2人、現在の夫の子1人)や土屋アンナ(1人、1人、1人)、広末涼子(1人、2人)など、ステップファミリーも多い。離婚がリスクではなくなり、子連れ再婚がしやすくなり、人生の選択肢が広がり、幸せになれる時代になってきているといえるだろう。
子どもの反抗で継母がうつに
しかし、ステップファミリーが抱える問題もある。映画では、再婚同士の夫婦に新しい命が宿ったのを知った多感な娘が継父に「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」と叫ぶ……。映画の中ではあるが、同じ経験をしたという再婚夫婦は少なくない。
シングルマザーも恋愛をし、再婚しやすくなってはいるが、子どもの気持ちが複雑なのは、今も昔も変わらない。
こんな実例がある。
夫の連れ子が、継母の財布からお金を盗む。それで継母は強く叱り、さらに夫に報告するが、「そんな子どもではなかった、お前の教育が悪いんだろう」と逆に非難をされてしまい、「もう死にたい」と口走り、うつ状態に。これでは何のために再婚したのか。
「ここには3つの問題があります。まずお金を盗む行為の裏にある子どもの気持ちを見抜けなかったこと。時間はかかっても子どもは必ず心の安定を取り戻します。あわてずに4年くらいかけて見守ってほしいですね」
反抗する子どもを目の前にして、4年は長すぎる気がしないでもない。ステップファミリーは、違った経験や習慣を持った大人と子どもが、新しい家族として自分たちの歴史を作っていく時間と考えれば納得だ。
「2つ目は、夫婦のコミュニケーションがちゃんととれていたかです。日本には“口で言わなくてもわかるだろう”文化がありますが、ステップファミリーは細かく話し合いをしないとうまくいきません」
アメリカではステップファミリーとして結婚するのに、コミュニケーション・プログラムを受けるという。
「3つ目は、周囲の理解です。この継母の場合は、自分の状況を話し、相談できる場所がありませんでしたね」
子連れ再婚をした者に対して周囲の目は意外に厳しく、不満や愚痴を吐き出そうものなら「それくらいわかって結婚したんでしょう」と返されてしまう。他人の親になるために頑張っているのに世間は認めてくれず、自己評価が下がり、ストレスを抱え込む。
「私の主宰するM-STEPは、ひとり親家庭の恋愛と再婚を支援しています。SNSなどでも仲間探しはできるので、ひとりで悩まないことが大切です」
ひとつ屋根の下で生活を積み重ねていくことが大事
声優の上田みゆきさんが、同じく声優で歌手のささきいさおさんと子連れ同士のバツイチ再婚をしたのは36年前。ささき長男・13歳、上田長男11歳という多感な時期でステップファミリーの大先輩だ。
「それぞれが、“こういう家族が欲しい”と思い描くわけで、特に長男は父親は今までどおり自分の父、自分を大切にしてくれる母、言うことをきく弟ができると期待したんですね。でも、父親は弟の父になり、母親も自分だけを見ていてくれるわけではない。それで気持ちが不安定になりました」
それでも乗り越えられたのは?
「ささきは私の話をよく聞いてくれたし、子どもとも一対一で話しました。一対一の関係を充実させることが大事。それから、無理にいい関係を築こうと焦らない。ひとつ屋根の下で暮らすことで、家族になるのだと思います」
ステップファミリーは血縁ではなく、ハートで結ばれた家族の形。「うちはステップファミリーです」と普通に言える世の中ももう近い!?
<作品情報>
■映画『幼な子われらに生まれ』
一見どこにでもいる普通の家族は、バツイチ同士の再婚夫婦。夫(浅野忠信)は、よき父親を装いながらも妻(田中麗奈)の連れ子とうまくいかず、元妻との間にもうけた娘に会うのを楽しみにしている。そんな中、新しい命が宿り……。血のつながらない家族の心の揺らぎを繊細に描くヒューマンドラマ。原作は直木賞作家の重松清。8月26日からテアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国公開中。(配給:ファントム・フィルム)