“黒いダイヤ”と呼ばれるクロマグロ(通称・本マグロ)を求め海に出航する大間町(青森県)の漁師たちの雄姿を見学できるツアーが登場! 大海原でマグロと格闘する漁師の姿に圧倒され、超美味な大間のマグロに舌つづみ。規格外の『大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー』を体験レポート!

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「臨場感がすごい! 一般の船釣りとは違い、津軽海峡の荒波を越えていくので、普通に立っていることさえ困難。こんな環境下でマグロを釣り上げる、大間の漁師のすごさを体験できました」と、興奮冷めやらぬ声で語るのは、大間マグロ一本釣り漁ウォッチングの参加者。

 それもそのはず、“船に弱い方お断り”(!!)と、銘打たれたこのツアーは、大間港から約20~30分かけて沖合約5キロにある、本マグロの漁場にアクセスする大自然型アトラクション。大間のマグロと漁師の真剣勝負を体感できる新感覚のツアーとして、青森県内でも大きな注目を集めているプロジェクトなのだ。

マグロを求め一本釣り漁船が連なっている光景に胸が高鳴る

「大間のマグロがブランド化された大きな要因は、大間の漁師のドラマ性です。マグロに付加価値を与えてくれた彼らの情熱や仕事ぶりを知ってほしかった」と話すのは、ツアーを企画したYプロジェクト株式会社代表取締役の島康子さん。

「これまで味覚として楽しんでいただいた大間のマグロを、今度は五感で楽しんでもらいたい」との思いから、ほかではまねできないツアーが発案されたという。

 マグロ漁の最盛は冬場だが、大間では夏場でもマグロが比較的水揚げされる。山々からなる下北半島の豊かな植物性プランクトンに加え、津軽海峡による海洋性プランクトンとミネラルが豊富な天然の好漁場である大間周辺は、良質な本マグロが集うため、夏場でもマグロツアーが可能というわけだ。

 大間のマグロ漁は、網で捕獲する漁法とは異なる、マグロに傷がつかない“一本釣り漁”と“はえ縄漁”を行っている。ツアー参加者は、大間のベテラン漁師で、自身も夜にはえ縄漁を行う泉徳隆さんが操舵する第58海洋丸(約5トン)に乗り込み、一本釣り漁を行う漁場へ向かう。

「泉さんのご協力なくしてこの企画は実現しませんでした。お客さんを乗せることができる、遊漁船業の許可を持っている漁師が泉さんひとりだったことに加え、地元の漁師たちからの信頼も厚い。生活がかかっている漁師たちの仕事場に近づくことができるのも、泉さんがその道のプロだからこそ。漁師のご理解があるからこそ、リアルな環境をお見せすることができます」(島さん)

マグロの釣り上げに立ち会える確率25%

 マグロが出現したという情報を得るや、前後左右に波がうねる津軽海峡を、一斉に列をなすように何十という数の漁船がマグロを目指して突き進む光景は圧巻! ほかの漁船の邪魔にならないように、それでいて臨場感が伝わるギリギリの距離まで近寄る泉さんの操舵に「おお~ッ!」と、参加者からも歓声があがる。揺れる船上でのハラハラ&ドキドキ体験の共有は、つり橋の理論よろしくカップルにもオススメかも!?

運がよければ超ビッグなマグロを釣り上げる瞬間を目撃できる!

 マグロを引き当てた一本釣り漁船は、マグロに引きずられるように洋上を進むらしく、「1隻だけ不規則な動きをするからすぐわかるんだ」と、泉さんが笑いながら話すように、海の男による生解説も、このツアーの醍醐味だ。

 ただし、すべてのツアーで漁師とマグロの大格闘が見られるわけではない。当然、マグロをばらしてしまう(取り逃がす)こともあるわけで、マグロが釣れる瞬間に立ち会える確率は約25%。

 大間の沖合ではなく、津軽半島側(竜飛崎)にマグロがいることがわかれば、そのぶん、漁船団の数も減ってしまう。大自然という舞台だからこそ“絶対”はありえない。だが、たびたび訪れる“釣れるかも!?”というスリリングな瞬間は、手に汗握る展開になること間違いなしだ。

「NHKの連続テレビ小説『私の青空』(2000年)の舞台に選ばれた大間は、その影響を受け、翌年、釣り上げたマグロが、当時、築地市場でセリの最高値(2020万円)を記録しました。そこから大間という町は変貌していき、観光や食に力を注いでいくようになりました。漁師の存在が、この町にストーリーをもたらし、今も新たな魅力を発信する活力になっているんです」(島さん)

 ’13年には、築地卸売市場の初セリで、大間マグロが1匹1億5540万円の史上最高値を叩き出したのは記憶に新しいところだろう。それゆえ大間の漁師たちは、“黒いダイヤ”を求めて海に出る。厳しい環境下で釣り上げることを身をもって体験したからこそ、見学後に口にする大間マグロが劇的に美味しい。

 ウォッチング後は、別途料金を支払えば、漁港近くにある『浜寿司』で、マグロ料理を堪能できる。マグロのさまざまな部位を余すところなく使って調理した「大間マグロフルコース」(7600円税込み)は、格別。胃袋や血合いの珍味や、メインの小鍋(コラーゲンたっぷり!)、のど肉の焼き物など、刺身だけではない逸品が食べられるのは、目の前でマグロがとれる産地ならでは。

約9品からなる“大間マグロ・フルコース”は、マグロを十分、堪能できる

 どんな結末が待っているかは予想できないし、2つとない状況下だからこそ、面白い大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー。

 大間の魅力を発信する新たな取り組みは、多くの観光客のハートを一本釣りする日も遠くないはずだ。