考え方ひとつで何でも面白くなる
“♪ヨーでるヨーでる”という歌い出しでおなじみの『妖怪ウォッチ』の『ようかい体操第一』の振り付けを担当したラッキィ池田さん。そのブームの最中、“ダイエットや妖怪ウォッチについての本を出しませんか”という出版社からの話が引きも切らなかったそうです。
「僕は本を読むのは好きなんですけど、自分が本を出すこともダイエットにも興味がなかったんです。でも新潮社の方は、“踊りたくなっちゃう発想の秘訣を書いてほしい”と言ってくれたので、日ごろ感じている“子ども力”のことを書いたら面白いかなと」
本書『「思わず見ちゃう」のつくりかた 心をつかむ17の「子ども力」』(新潮社)では、ラッキィさんがダンスの仕事で接している、子どもたちが持つ前提をはずし、常にしがらみや意味のない上下関係を超える、自由で無邪気でまっすぐな力を“子ども力”と命名。どうやったら毎日をドキドキワクワク楽しく過ごせるかを思い出させてくれるエピソードが充実だ。
「職業体験ができる『キッザニア』へ行く子どもはウキウキしているけど、大人は仕事に行くとなるとドンヨリしてる。大好きなアイドルに会えるイベントだと早く行きたいけど、出張に出かける人はドンヨリしてる。その差はなんなんだろう、と。ウキウキスキップしながら仕事することができないかな、アミューズメント感覚で日常を過ごせないかな、と思って、“子ども力”を取り戻すようなことを書いてみたんです」
ところが「子どもたちも小学校4年生くらいでドンヨリしはじめるんですよ」と言うラッキィさん。子ども力を失ってしまうのって、けっこう早い?
「もう子どもじゃねぇぞという、大人になりたいという気持ちが芽生えるんでしょうね。その目指す大人がアキラ100%ならいいんですけど、世の中で力を持っているような人を目指して、馬鹿なことをやらないようになっていくんです。でもそれって、ちょっともったいないなと思うんです」
またバックダンサーをやった高校生を指導した際、あまりにドンヨリしていたので楽屋で延々と“しりとり”をやらせたところ……。
「徐々に子どもに戻っていくんですよ。キャッキャ言いながら。やっぱり自分が子どものころを思い出すっていうのはものすごい有効なことで、考え方ひとつで何でも面白くなるんです!」
もらった愛情を次の世代にバトンタッチ
本書はラッキィさんが長年ラジオでお世話になった、故・永六輔さんに多大な影響を受けているそうです。
「永さんが、スタジオで考えてものをしゃべるのではなく、ラジオの電波が届くところに自分から行って、ラジオを聴きながら働いている人や、街の声を聞いて、それをスタジオで話しなさいと教えてくださったんです。だから永さんの『大往生』じゃないですけど、いろんな情報を集めて、それを面白く伝えるような本になればいいなって」
その言葉どおり、永さんをはじめ、関根勤さん、片岡鶴太郎さん、毒蝮三太夫さんなど“子ども力”にあふれた人たちのエピソードもたくさん出てくる。
「そういえば、あの人たちって自分勝手で面白いな、紹介したいなと思って(笑)。
例えばこれは、ゆずの北川悠仁くんがラジオで言ってたことなんですけど、“テクニックだけで曲は書けるようになったけど、今回は気持ちが高ぶるまで待って曲作りをした”という話をしていたんです。やっぱり、そういうアマチュアリズムを大事にしていたり、時々出てくるエラーも取り込むから、みんなが注目するものができるんですよ。
ゴールデンボンバーも8秒だけの曲とか、CDではなく雑貨として売るとか、そういう今まで誰もやってないことをやって、テンションを上げて楽しんでるんですよね。
踊りも人間の手足、胴体ですから動きが限られていて、この次はこうなる、という順列組み合わせだけでできちゃったりするんです。でも、そうやってできちゃったりするものは、人々をハッとさせたり、驚かせることは難しいんですよ。
何か突拍子もないものがポンポンポン! と来るようなものだったり、落差だったりがないとダメなんですよね」
しかし大人の世界には約束事があって、しがらみや忖度などさまざまな障壁が立ちはだかり、なかなか思うようにいかないもの。
「最初は体当たりして壊そうとするんだけど、どうしても破れないものが見えてきて、無理だって思っちゃうと枠組みに収まっちゃう。それでも諦めないのが“子ども力”なんですよ」
では、子ども力を大人が取り戻すにはどうしたら?
「簡単です。“知らなかった子どものころの自分”を思い出すだけでいいんです。大人ってだいたいのことは経験したり、見聞きして何となく知っているみたいになってる。でも子ども力には、知らないから知りたいという気持ちが大事で、その“知らないこと”が興味を持続させて、仕事でも何でも楽しくするんです。
子どもは大人よりも劣っているわけではなく、みんなすごくいいものを持って地球に生まれてきてるんです。だから成長するのも大事だけど、そのまま取っておく部分っていうのも必要だよ、ということなんですよね」
ということで最後はラッキィさんが振り付けしたジャニーズWEST『おーさか☆愛・EYE・哀』のポーズで撮影、子ども力全開で締めくくっていただきました!
<著者プロフィール>
らっきぃ・いけだ 振付師、タレント。1959年、東京都生まれ。'80年代からテレビ、映画、CM、舞台などで振付師、ダンサー、タレント、コメディアン、俳優として活動。現在は『いないいないばあっ!』『にほんごであそぼ』(いずれもNHK Eテレ)で振り付けを担当。吉本総合芸能学院(NSC)で講師を務め、作詞家、雑誌連載などマルチに活躍中。
取材・文/成田全
この日の取材場所はイカキックスタジオ。名前に既視感が……と思ったら、ラッキィさんが出演した『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』のコントで繰り出していた技の名前! 「イカのフニャフニャしたしなやかな感性と、バチーンとキックするロックなものを結びつけた」そうで、イカにリスペクトしたネーミングなのだそうです。