「水害の観点でいえば、危険な土地は絶対的・相対的に標高が低いところ。安全な土地は標高が周囲より高く、平地が続く土地です」
とは、地盤などの土地の危険度に詳しい大木裕子さん。水害の性質は、山間部と都市部では異なるという。
「山間部の水害は土砂災害。つまり地滑り、土石流、急傾斜地崩壊の3つです。ほとんどの場合、扇状地で発生しているのが特徴です。そもそも扇状地は、土石流によってできた土地。だから扇状地は100%警戒が必要な場所といっていいでしょう。
一方、都市部で警戒されるのは集中豪雨になると、低い地域に水が集中すること。そして河川の堤防の決壊による洪水ですね。急傾斜地の崩壊は、都市部でも起きることを知っておいたほうがいいでしょう」
東京東部には海抜ゼロメートル地帯が広がっている。これはなにも首都圏に限った話ではない。関西圏や中部圏などにも、海抜ゼロメートル地帯は存在する。前出の河田教授が警告する。
「“高層マンションに住んでいるから大丈夫”という人がいますが、まったくの誤りです。住んでいる階数にかかわらず、水害が起きたら真っ先に断水します。さらに停電、都市ガス停止、道路が使えない……となれば、マンションそのものが孤立します」
現在の住まいがどんなに見栄えがよくても、それこそ“住みたい街・第〇位”であっても、その土地が安全とは言い切れない、と大木さん。どういう地盤で、過去にはどんな災害があったのか。多くの人が何も気にせず新居を探していることに警鐘を鳴らす。
「自分の住む町の危険性を知るには、ハザードマップをチェックすることです。水害に関しては、ほぼ100%の自治体がホームページで公開しています。土砂災害危険情報は区市町村単位ではなく、都道府県単位で公開している場合もあります」(大木さん、以下同)
インターネットが使えなくても自治体で印刷物をもらえることも多い。
「(1)自分が被害に遭う可能性は十分にあるという認識を持つこと。(2)警報に従うこと。(3)雨音の異常や河川の水位、斜面の地割れなど、普段とは違うと感じることを“危険のサイン”として認識することです」
そして、古地図を見ることも有効だという。
「水害に関して古地図で気をつける場所は、池・沼・湿地帯・海・河川だった場所が宅地化したところ。田んぼだったところも周囲よりも低い土地にある場合もあるので要注意です」
古地図を見るにはどうしたらいい? 大木さんのおすすめは、
「『今昔マップon the web』(http://ktgis.net/kjmapw/)というサイトは、全国の主要12エリアに限られますが、明治以降の新旧の地形図を比較表示できます。また、図書館などでも閲覧できますよ」
地名は土地の危険度の手がかりになる
「知っている地名を思い浮かべてみてください。山、川、浜……など、地形を表す漢字がよく使われていますよね。地名に入っている漢字は、その土地の特徴を表していることも多いです」
と指摘するのは、名古屋大学減災連携研究センターの福和伸夫教授だ。
「注意すべきは、水辺の地名です。水辺で低い……ということは、水害危険度の高い場所になります」
具体的には、まず、“さんずい”がついている漢字(池、沢、沼など)が挙げられる。
「川、窪、田などがついている地名も、近くにそれらがあるはずです。都市開発の中で、そのような水っぽくて低い土地には、新たに土が盛られました。当然、地盤はやわらかく、沈下もしやすい」(福和教授、以下同)
さらに、谷がつく地名にも注意したい。
「私たちが平らな場所だと思っている場所も、昔は起伏がありました。でも、それでは住みにくいので飛び出している尾根を削り、低い谷を埋め、平らにしてきたわけです。“谷埋め盛り土”は土砂崩れを起こしやすいんです」
詳しくは表にまとめたとおり。
「昔ながらの地名は“ここはこんな特徴のある土地ですよ”と先人が残してくれたメッセージとも解釈できるのですが、都市開発が進む中で、地名が変わってしまうこともあります。でも、バス停の名称には比較的残っていますね」
もちろん、すべての地名が地形に由来しているわけではないが、備えあれば憂いなし。住まいや子どもの学校周辺、夫や自分の職場周辺などがどうなっているのか、チェックしておくといいだろう。
<解説してくれた人>
◎大木裕子さん
地球科学コミュニケータ。地震や地盤災害などに精通。著書に『住んでいい町、ダメな町 自然災害大国・日本で暮らす』(双葉社)
◎福和伸夫さん
名古屋大学減災連携研究センター教授、センター長。安全で安心な国・地域を実現するために災害軽減の研究を行っている。H26年防災功労者防災担当大臣表彰を受賞