水遊びをしているとき、地下街にいるとき、住宅街にいるとき、車に乗っているとき──さまざまな場面で遭遇する可能性のある、豪雨そして浸水。もしも水害が我が身に差し迫ってきた場合、具体的にどのような行動をとるのが賢明なのか解説していきます!
時間雨量30ミリを超えたら「災害になるかも」
「’08年7月に兵庫県神戸市で起きた都賀川水難事故を覚えていますか? あれは、都市部で起きる水害の恐ろしさを象徴する事故でした」
とは、危機管理アドバイザーの国崎信江さん。ゲリラ豪雨のため都賀川の水位が急上昇し、水遊びをしていた児童16人が激流にのまれ、5人が死亡した。
「神戸市のホームページにはこのときの動画もアップされています。普段の都賀川の水位は、足首くらいまでしかないんです。この日は晴れていて、14時には子どもたちが川辺で遊ぶ姿が見られました。14時半を回ったあたりから雨が降り始めて、数分後には豪雨で画面は真っ白に。すさまじい激流になりました。そして、90分後の16時には、まるで何事もなかったような穏やかな都賀川に戻っているんです」(国崎さん、以下同)
映像にある場所は阪神・淡路大震災後に、河川を整備してできた市民の憩いの場だという。
「都賀川のように、河川に気象警報を知らせる設備がないと警報が伝わらないこともあります。避難勧告や避難指示を待っていたら逃げ遅れてしまう可能性も。だから、目の前の現象から自分で危険を察知して行動しなくてはいけません。大雨のときは下の図の“自主避難の目安”を参考に、たとえ避難所が開設されていなくても、自主的に避難するようにしましょう」
雨は1年中、いつでも降っている。どこからが“災害の恐れのある雨”だと判断すればいいのか。
「1時間に20ミリの雨が降る場合、雨の音で会話がよく聞き取れなかったり、寝ている人が気づくようなレベル。これが時間雨量30ミリを超えたら“災害になるかもしれない”と思ってください」
加えて、時間雨量50ミリを超えたら“必ず冠水する”と思うべき、と国崎さん。
「時間雨量50ミリは、バケツをひっくり返したように降り、傘をさしていても濡れるほどの大雨。特に都市部では、雨水の処理能力の限界に達します。さらに連続雨量100ミリとなったら、必ず水害は起こります」
危険度をリアルタイムでチェック
最近は、災害情報がリアルタイムでわかるホームページやスマホのアプリも充実している。地盤などの土地の危険度に詳しい大木裕子さんが絶賛するのは、
「気象庁の『洪水警報の危険度分布』というサイトです。降雨の危険度や土砂災害の危険度がリアルタイムで更新されます。自分のいる場所が、紫や赤などの危険カラーに変わったら避難するといいと思います」
’99年6月の福岡水害では1時間に79.5ミリの大雨が降り、博多駅前が水没。地下街にも大量の水が流れ込み、地下室に閉じ込められた1名が死亡している。
「地下への浸水はあっという間。とにかく浸水前に上の階に避難すべきです」(国崎さん、以下同)
住宅街ではどうか?
「大雨で排水処理能力を超えると側溝やマンホールから汚水があふれ出します。住宅内が浸水するのはもちろん、汚水が逆流して風呂場や台所の排水口から流れ出てくる場合もあります」
下水には、生活汚水と雨水を別々の管路で送る“分流方式”と、同じ管路で送る“合流方式”がある。どちらを採用しているかは、自治体によって異なる。
「合流方式の場合、汚水……つまりトイレの汚物も一緒に逆流してくるわけです。浸水時の水は雨水だけだと思っている人もいますが、大間違い。何が流れてくるかわからない、とんでもなく汚い水です。よく水害のニュース映像で、水の中をジャブジャブと歩く人の姿が映し出されますが、足をケガして破傷風になる可能性もあります。水が引くまでは、出歩かないのが鉄則です」
被害に遭ってしまう前に、どんな備えをするべき?
「水や食料、ライトなどを入れる地震用の非常用持ち出し袋と基本的には大きく変わりません。水害の観点からいうと、すべてのものが防水仕様になっているのが好ましいですね。レインコートや長靴もあるといいでしょう」
車が水没したらどう対処すべき?
豪雨で道路が冠水して川のようになり、自動車がプカプカ浮く衝撃映像をテレビで目の当たりにする昨今。そんな雨に見舞われたとき、ドライバーはどう行動するべきなのか。
モータージャーナリストの丸山誠さんによると、
「ワイパーでも視界の確保が追いつかない場合は、むやみに運転せず、安全なところに停車させます。ゲリラ豪雨は1時間~2時間も続かないので、雨がやむのを待つのが得策です」
注意すべきは、立体交差で地下を通る“アンダーパス”構造になっている道路。
「どのくらいの雨がたまっているかは、目で見てもわかりません。来た道をバックしましょう。イチかバチかで突っ込んで、水没してしまうケースは多いです」(丸山さん、以下同)
そもそも、車はどのくらいの水深まで通常走行が可能なのか?
「下の写真は水深30センチです。水しぶきはかなり上がりますが、ちゃんと走ります。ひとつの目安はタイヤの真ん中と言われています。それ以上だと浮力がついてしまうので、たとえエンジンがかかっていても、タイヤが路面に接していないので、浮いて流れてしまう可能性があります」
車内に閉じ込められ、水が入ってきたり、水没したりするのも心配……。
「まずは冷静になること。ひざ下くらいの水深ならば、ドアは開けられます。ダメだった場合は、窓から脱出します。基本的に、最近の車は水没してもパワーウインドーは動くよう設計されていますが、ダメだったときには窓を割ります」
ほとんどの車のサイドウインドーは強化ガラス。割るには、ちょっとした道具とコツが必要だという。
「車用の緊急脱出ハンマーで、サイドウインドーの“隅”を軽くたたくだけ。女性でも簡単に割ることができます。緊急脱出ハンマーはホームセンターのカー用品売り場には必ずあり、1000円前後。いつなんどきも、ドライバーの手が届く場所に常備しておくのがオススメです」
<解説してくれた人>
◎国崎信江さん
危機管理教育研究所代表、危機管理アドバイザー。女性&生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱。国や自治体の防災関連の委員を多数務める
◎大木裕子さん
地球科学コミュニケータ。地震や地盤災害などに精通。著書に『住んでいい町、ダメな町 自然災害大国・日本で暮らす』(双葉社)
◎丸山誠さん
モータージャーナリスト。試乗インプレッションや新車解説など、幅広く取材・執筆。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員