「母校の教師が覚せい剤で逮捕されるのは前代未聞。ちょうど高校のOBが集まった日にニュースで流れとったんじゃけん、ホントに情けのうてのぉ」
と、高校の近所の70代OBは嘆く。
夏休みもそろそろ終わりに近づいた8月18日の午後8時30分ごろ、広島県立竹原高校(竹原市)の教師・飯田一明容疑者(45)は、同県福山市の自宅から徒歩30分ほどの住宅街で道に迷っていた。覚せい剤を打っていたため、ラリってしまったのである。
たまたま通りかかった地域ボランティアの防犯パトロールに声をかけられ、
「自宅がわからなくなってしまった」
と答えた。
足元がフラつき、目も泳いでいたため、パトロールのメンバーはてっきり酒に酔っているのだと勘違いし、最寄りの県警福山東署管内の吉津交番まで付き添っていった。
飯田容疑者は交番でも同様の説明をしたが、警察官は覚せい剤特有の症状を見逃さなかった。所持していたバッグの中を調べてみると、注射器と、覚せい剤を入れていたとみられるプラスチックケースを発見。福山東署に連行した。
東署ではさっそく尿検査が行われ、しばらくすると陽性反応が見られた。
観念した飯田容疑者は、
「覚せい剤を使用したことは間違いありません。8月中旬から大阪府へ研修で行っていて、大阪と広島で打ちました」
と素直に認めたという。
「よって8月19日午前2時30分ごろ、覚せい剤取締法違反(使用)の容疑で署内で逮捕しました。翌20日には検察に送致しています」(福山東署)
おそらく、ベテラン教諭の容疑者は、教壇の上から生徒たちに、
「夏休みだからといって、ハメをはずすんじゃないぞ」
と注意したことだろう。ところがどっこい、ハメをはずしすぎて自爆してしまったのは、ほかでもない先生のほうであった。
飯田容疑者の自宅から電車で約1時間15分(車で約1時間30分)と離れている勤務先の竹原高校。逮捕当時、夏休み中だった同校は対応に追われ、8月20日に全校生徒と保護者を集めて緊急説明会を開いた。容疑者が受け持つクラスの生徒、その保護者、それ以外の全校生徒、その保護者に分けて計4回も行っている。
「説明会の内容は、まず校長の私から謝罪し、事件の経緯、そして今後の対応を説明しました。生徒はすでにニュースで知っていたようで、とりわけ飯田先生が担任していた3年生のクラスの生徒は沈鬱で、下を向いて暗い表情で聞いていました。
担任が逮捕されたショックと、飯田先生は進路指導もやっていましたので、その先生が代わってしまうという不安や動揺があった。それで精神的なケアとしてカウンセラーも設置したのです」
と、同校の校長。
影響はそれほど甚大なものには至らず、8月25日から2学期がスタートしている。
飯田容疑者は同高商業科で商業科目を教えており、女子バレーボール部の顧問を務めていた。商業科目の先生は新たに県から派遣された。かたやバレー部は顧問の逮捕で大会などへの出場を危ぶむ声もチラホラ聞かれたが……。
「いえ、高体連からは“生徒に罪はないので対外試合や大会への出場は問題ないですから”と言われておりますので、それは大丈夫です。コーチの先生は以前からほかにもいますし、どちらかといえばそちらの先生がメインでやっておりますので、それほど影響はないと思います」(同校長)
それにしても、なぜ、覚せい剤に手を染めるようになったのか。犯行動機に心当たりがないか学校側に尋ねると、
「比較的に活発な先生でしたが、とりわけ不審な点とか、問題のある先生ではなかったんです。進路指導などのストレスですか? いや、それはほかの先生にも教えることのプレッシャーやストレスはあるわけで、飯田先生に限ったことではありませんから。いったいどうしてなのかはまったくわからないんですよ」
と校長は唇を噛むようにして話した。
飯田容疑者の人事権を持つ広島県教育委員会に聞いた。
「覚せい剤を使った理由ですか? それはなんとも……。大阪の研修については、少なくとも教育委員会などの公的なものではありません。おそらく商業科目か部活動関係ではないでしょうか」(担当者)
教師としての処分はどうなるのか。
「処分指針では、覚せい剤の使用は懲戒免職に該当します。執行猶予云々といった裁判の結果とは別です。もう少しして面会できるようになったら、飯田先生本人に使用の事実や動機を問いただしたうえで、協議を経て決めることになるでしょう」(同担当者)
飯田容疑者はこの夏を境に、すべての教え子たちにとって“反面教師”になった。