「その朝、いつもどおり、犬の散歩をしていたら、道端に紺色か黒っぽいリュックサックがあったんです。中学校のすぐそばなので“生徒が置いたのかな”と思ったんですが、夕方まであったので警察に通報しました」と女性は振り返る。
神奈川県横須賀市内の路上で乾燥大麻を所持していたとして県警横須賀署は8月23日、同県三浦市の中学校教諭・山本真紀夫容疑者(28)を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕した。
県警によると、昨年5月29日夕、横須賀市平作の路上で乾燥大麻1袋を所持した疑い。冒頭の女性は、大麻が入っているとは知らず、リュックの落とし物を通報した第一発見者。「警察から“所有者を逮捕しました”と連絡をもらったけれど、もう1年以上前のことですからねえ」と話した。
全国紙社会部記者は、
「リュックの中から大麻約0・4グラム、末端価格にして約2400円相当が発見されたほか、山本容疑者の証明写真のようなものがあったので1年以上かけて内偵を進めていた。自宅からはパイプや巻き紙が押収された」
山本容疑者は同県三浦市の市立初声中学で英語を教える臨時的任用職員。三浦市教委などによると、昨年4月、産休要員として市内の別の中学で採用され、今年4月に初声中に赴任したという。犯行当時は現場近くに住んでおり、前任校で教師生活をスタートさせたばかりだった。
初声中ではサッカー部の顧問を務め、生徒と一緒に汗をかいていた。
同中の運動部2年生男子は、
「山本先生が顧問になってからサッカー部員は笑顔が増えたと思います。指導は熱心だけど、厳しいやり方ではなく、やさしいんです」と話す。
英語の授業でも、指導に工夫を凝らしていたという。
「英語は長文も文法も全部担当していました。授業の最初にゲームのようなことをしてから、本題に入るんです。最後にまた面白いことやみんなが楽しめることをして、英語に興味を持たせるのが上手でした。やさしい人だったからストレスがたまっていたのかもしれないですね」(同)
昼休みや休み時間、生徒が集まっているとその輪に入っていくことが多かった。気楽に雑談に応じるなど、堅苦しいところはなかったという。
ただ、タバコを吸うためズボンのポケットにいつもライターを入れていた。校舎裏の喫煙スペースでは、ほかの教師たちとスパスパやっていたという。まさか、校内では大麻を吸っていないと信じたい。
「逮捕なんて本当にビックリです。すごくフレンドリーな先生で、授業でわからないことを質問すると丁寧に教えてくれた。でも、私が先生をかばうような話をすると、母は“先生がそんなことしていいのかな”と言って、悪いことは悪いと教えてくれました」(初声中の2年生女子)
大麻のきっかけは何だったのか。容疑者が両親と暮らす自宅を訪ねた。横須賀市内のマンションの一室。インターホンで取材を申し込むと、母親とみられる女性が「少々お待ちください」と冷静な声色で答えた後、親族と名乗る男性が出てきた。
「なぜ、こんなことになってしまったのか……ですか。私もわからないというのが本当のところです。ただ、仕事で朝早くに家を出て、やりすぎってくらい頑張っていたと思います。それでストレスを発散したかったのかもしれないですが、まあ実際のところはわからないんですよ」
─もともと英語教師になりたかったのですか。
「そうです。以前から学校の先生を目指していました。大学時代にはオーストラリアのタスマニア島に5週間の短期留学をしたこともあります」
─変わった言動などはありませんでしたか。
「大麻を持っていたのは事実です。しかし、実際に使ったかどうかは検査してみないとわかりません。変な言動とか行動は、私は見ていないです」
─今後どうしますか。
「週に1回面会し、一生懸命反省して社会生活に復帰するために努力し続けないといけない、と諭すつもりです。タバコもやめさせます」
初老とみられる男性は取材中、終始ボールペンを片手でこねくり回し、必死に動揺を抑えている様子だった。
学校側は、生徒や保護者に事件をどう説明したのか。
初声中の校長は、
「まず8月25日に保護者会を開いて説明しました。生徒には(始業式の)31日、朝の集会で伝えました。それ以上のことは私からは話せません」
生徒らによると、校長は全校集会で「悲しいことが起きました」と切り出し、事件の詳細は語らなかったという。
「生徒や保護者から評判のよかった先生です。保護者会では“子どもたちの不利益にならないように学校は取り組んでほしい”と要望されました」(市教委・学校教育課)
薬物から目をそむけず怖さを教える機会にしたい。