2017年9月1日、コストコ浜松倉庫店がオープンした。日本国内ではこれが26店目となる。
コストコホールセールの日本での初出店は1999年というから、18年も前にさかのぼるわけだ。有料会員制をとり、大量の商品がうず高く積まれた倉庫型の店内を、巨大カートを押して買い回るスタイルをテレビで見た時は、アメリカ式の大量投下・大量消費の物珍しさはあったが、日本の消費マインドに合うのかといぶかしく思ったものだ。
しかし、根強いコストコファンに支えられ、18年過ぎた現在も休日はどこも混雑しているという。コストコを利用するには年会費4400円(税抜)も払うというのに、だ。
クレジットカードの年会費すらなるべく払いたくないという声が多いのに、不思議ともいえる。それだけの金額を出しても会員になるメリット、つまりオトク買いができるのか、今改めて考えてみたい。
ディナーロールはまるでサンタクロースの袋入り
コストコの特徴は、なんと言っても販売単位が大きいことだ。誰もがカートに入れている人気のディナーロールは、サンタクロースが抱えているような大袋に36個も入っている。
洗剤もドラッグストアでは見かけない大容量パックだし、トイレットペーパーだって車のトランクをずっぽり占拠しそうなパッケージだ。そして、いつもの買い物とは圧倒的にボリュームが違うのが食肉で、キロ単位のパックをどんどんカートに入れている家族が多いことにあぜんとする。
筆者は、トク値ウオッチャー・節約愛好家としても活動しているので、これまで多くの激安店を見てきたし、地方に赴けば必ずスーパーに立ち寄り、現地価格をチェックするようにしている。そういう目から見ると、コストコが必ずしも最安値(年会費分も含め)とは思えなかった。
しかも、コストコが日本に上陸した18年前とは著しく消費環境が変わっているのはネットショッピングの隆盛で、最安値はネット検索で簡単に見つかり、しかも、かさばるものや重いものは自宅まで届けてくれる。安さ面だけで考えれば、コストコがいまだに根強く支持されるのは不思議な気がしていた。
しかし、この大容量のスケールが、割安だと感じさせる要因のひとつであることは間違いない。ではその割安、本当にトクなのだろうか。
割安=必ずしもオトク買いとは言えない理由
セオリーどおりにいえば、割安は必ずしもオトクとは言えない。その理由はこうだ。
(1)どの程度安いのか、一見イメージしにくい
大量買い=割安になるという図式は正しいとしても、それがどの程度オトクかは一瞬ピンと来ない。大量になればなるほどそうなり、これは買いなのかそうでもないかのジャッジは難しい。
たとえば、パスタ5キロ入りが870円、という値段がついていたとする。これを見て安いとすぐに判断できるだろうか。通常スーパーなどで売られているメーカーのパスタ1袋は500グラム入りが多い。5キロということは10袋相当となり、1袋当たりで計算すれば87円になる。
1袋100円を切る価格はかなり安い。同じ価格なら6キロ入りで1044円という計算になるが、こうしたキロ入りの袋を前にして、暗算がつねにぱぱっとできて、お得かどうか即座に判断できるだろうか。
(2)適正な量以上に買ってしまう
食べきれない量、使い切れない量を買うと、残念ながら廃棄したり、人にあげたりすることになる。有効に使いきれないなら、それは払ったおカネのムダになる。もっとまずいのは、もったいないと無理やりお腹に収めて、あとからダイエットに悩むケースだ。
1袋50個入りの餃子を見て、これだけの数が最終的に家族の胃袋に入るのだと思うとげんなりする。また、買ってきた後の収納場所にも頭を抱えるはめになるので、ここは慎重にしたい。
(3)無駄に使いすぎる
(2)とも関連するが、大容量のものを買い、在庫があると気が緩み、人間はつい使い過ぎるものだ。家に30ロールもトイレットペーパーがあれば節約しようとはなかなか思えない。大量に買うとつい消費するスピードが速まり、安く買っても節約効果が薄れる。
(4)支払う金額が大きいため、その月の支出予定を狂わせる
大量まとめ買いをすると支払う金額も大きくなるため、そのあと使えるおカネの管理がしにくくなる。これはひと月分の買い物なのか、それとも数カ月これで持たせるのか、なかなか計算できないだろう。食品の大量買いも、これを1週間で食べきるつもりか、それとも半月分なのか、そこで正しくジャッジしないと、その月にあといくら使えるのかわからなくなる。
ここまで「大量買い」に関する懸念を述べてきた。筆者自身は、大量買いによる割安は金銭感覚を鈍らせ、ムダ出費の言い訳にもなり、節約に逆行するという立場をとる。
コストコの商品は、食品でもおおむね1品1000円以上の値段がついていて、通常のスーパーなら手に取るのを躊躇するのに、なぜかお客はどんどんカートに入れてしまう。この時点でおカネを使い過ぎているのでは……、という罪悪感はすっかり消えている。それは危険だ。適量を適価で買うことが、王道のおカネの使い方なのだ。心底節約したい人は、コストコには近づかないほうがいいだろう。
しかし、これだけの人気があるということは、知恵を絞れば利用術もあるはずだ。せっかく年会費を払ってコストコ会員になった人向けに、どんな物を買えばいいのかを考えてみた。コストコファンが大好きな商品は出てこないかもしれないが、悪しからず。
目新しい商品に飛びつくのはキケン
ムダ買いにはならないと筆者が考えるのは、以下のものだ。
●普段から使っているおなじみの商品を選ぶ
コストコにはわれわれがよく目にするナショナルブランドの商品も多く並んでいる。いつも自分が他の店で買っている商品なら値段が頭に入っているので、大量パックの価格が妥当か肌感覚でわかる。さらに、消費するペースも想定できるから、使い切れる量かどうかも判断しやすいだろう。
ちなみに筆者がこの前買ったのは、「ミツカンの味ぽん」1リットル入りペットボトルだった。値段が399円だったのだが、普通のスーパーでは360mlで198円程度だから、これは十分安い。
しかも、わが家ではポン酢は大活躍する調味料で、ごま油と合わせれば中華風ドレッシングができるし、餃子や焼き肉のたれとして使ったり、煮物の味付け調味料にも使うので、十分使い切れると判断した。物珍しさやパッケージの華やかさに惹かれて初めての商品を大量に買うのは、失敗のリスクがある。おなじみの物をまずは買うのがベターだろう。
●イベント用と割り切る
コストコで人気のデリは、確かに華やかだ。鶏1羽を丸ごと焼き上げたロティサリーチキン、トルティーヤを使ったハイローラーBLTにボリュームサラダ。絶対このままでは冷蔵庫に入らない巨大なピザやチーズケーキも、ホームパーティや親戚一同が集まる場ならおおっと言ってもらえるし、話も盛り上がる。
デパ地下で、こうしたデリをこれだけの量購入するとなると、コストコよりはるかに高くつくだろう。相手がデパ地下なら、コストコもいい勝負ができるというわけだ。
なお昨今、共働き家庭が増えたことで、作り置きおかずがブームとなっている。週末に約1週間分のおかずを作って保存しておくわけだが、この手間を惜しまなければ大量パックの食材も意義はある。
たとえば、キロ単位で肉を買ったとしよう。メインの肉おかずを作るには、大人2人分でだいたい150~200g使う。小さい子どものいる家庭なら1食300g使用するとしようか。すると2キロを買っても1週間分の計算になる。1食分ずつ小分けして、下ごしらえする時間をかけることができるなら悪くはない。
他の業務用スーパーと比べても大して安くないが…
大容量で安い、というだけではコストコ人気は説明できないと考え、ほかにも大容量の業務用食材を扱うスーパーにも顔を出してみた。
「業務スーパー」(神戸物産)と「肉のハナマサ」(花正)を回ったが、どちらも調味料や粉類、冷凍食品は大袋だし、もちろん食肉も1キロ前後のパックで売られている。単価に直すとコストコよりも安いだろうと思われる商品もあった。
年会費も払わずに済み、普段の食卓に上る食材がより手ごろな価格で買えるのだから、わざわざ車を出してコストコまで行かなくても十分では、と思えてしまう。
しかし、何か物足りない。たぶん、これらのスーパーは日常の買い物の延長にあり、想像の範囲なのだ。それに比べ、コストコの店舗であの圧倒的な物量感を見ると、ははあ恐れ入りましたとひれ伏したくなる。あまりに大きいもの、あまりに多いものを見ると、日常にはないアドレナリンが出てくる気がする。いわば大仏みたいなものだ。
これでもかという巨大スケールの商品が鎮座する異空間に置かれた時、人はある種のトランス状態に入り、興奮して買い物をしてしまうのかもしれない。コストコ=大仏だとすると、年会費は拝観料ということか。拝観料なら仕方ない。謹んでお支払いしよう。
松崎 のり子(まつざき のりこ)◎消費経済ジャーナリスト 20年以上にわたり、『レタスクラブ』『レタスクラブお金の本』『マネープラス』『ESSE』『Caz』などのマネー記事を取材・編集し、お金にまつわる多くの知識を得る。自分自身も、家電は買ったことがない(すべて誕生日にプレゼントしてもらう!)、食卓は常に白いものメイン(もやし、ちくわ、えのき、豆腐)などと徹底したこだわりを持ち、割り勘の支払い時は、友人の間で「おサイフを開くスピードが遅い人」として有名。「貯めるのが好きなわけではない、使うのが嫌いなだけ」というモットーも手伝い、5年間で1000万円の貯蓄をラクラク達成した。また、「節約愛好家 激★やす子」のペンネームで節約アイデアを研究・紹介している。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)、『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金がたまらない』(講談社)。