古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、テレビ業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第30回は樋口卓治が担当します。

広瀬すず 様

 今回、私が勝手に表彰するのは、女優の広瀬すずさんである。

広瀬すず

 今日、書きたいのは広瀬すずの娘力(ムスメリョク)についてだ。

 娘力を垣間見た番組があったので、まずその説明をすると、先日、フジテレビのトーク&音楽番組『ウタフクヤマ』(9月15日OA)の収録があった。

 リリー・フランキーが店主のスナック『泣かせて』という飲み屋があり、そこのママが蒼井優、常連さんが福山雅治という、夢のような酒場。

 出会ったお客さんたちと、とりとめのない話を肴(さかな)に酒を酌み交わし、笑ったり、しんみりしたりもして、その夜の出来事を即興で歌にしたりする番組である。

 そんな大人の酒場を再現しようと、フジテレビ美術部が酒場を巡り、最高のセットを建て、六本木で知る人ぞ知るBarの店主にバーテンダーをお願いしている。

 カメラより内側が酒場、その外がスタッフというまるで結界のような境界を挟んで収録が行われた。

 今回のお客さん(ゲスト、以下敬称略)は、秋元康、是枝裕和、ヒャダイン、三沢またろう、そして広瀬アリス、広瀬すずが姉妹で訪れた。

 今回、番組のテーマは「クリエイターの脳みそを覗こう!

 作詞家、映画監督、音楽プロデューサー、ミュージシャン、小説家、シンガーソングライターと、これでもかという多彩な顔ぶれによるクリエイター話が繰り広げることを期待した。
 
 だいぶ前置きが長くなったが、ここでやっと広瀬すずの娘力の話となる。

 大人ばかりの酒場に紛れ込んだ19歳の少女が隅にちょこんと座っている。少し猫背、あどけない瞳で、大人たちの話を聞いている。うなずくでもなく、はしゃぐでもなく、まるで違う生き物でも見るように彼女は存在していた。

 隣のリリーさんがちょっぴり下ネタを言うと、まるで外国人が通訳に意味を聞くように姉のほうを見る。その時のポカンとした表情が、下ネタをマイルドにする。

 子供の頃、眠いながらも大人たちの酒盛りにいた時を思い出す。

 苦い泡のお酒、茶色いお酒、あんなものが何故うまいのか? と思ったり、真面目な親戚より、自由気ままなおじさんの話のほうが面白かったりとか、昭和の時代の飲み会がよみがえる。

 クリエイティブな話をしろ、と言われてもなかなか話しにくいものだ。自慢話に聞こえるし、手の内を明かすことになるからだ。しかし、クリエイターたちは親戚のおじさんと化し、彼女にわかるように優しく話す。 口数も多くなりネタの撮れ高もバッチリ。普段聞けない貴重な話が聞けた。

 ママの蒼井優ちゃんがものすごくいいタイミングで、『海街diary』で、すずが桜の木の下を自転車で走っていると、桜の花びらが一枚おでこに付いて、カメラが寄ると、花びらがどこかに飛んでいく、というとても情緒のある話をした。みんなそのシーンを思い浮かべながら酒を飲む。

 最後に、今宵の話を歌にしようということになり曲作りが始まる。その歌のモチーフは広瀬すず。

 秋元さんを中心に作詞が始まり、福山さんがそれに曲をつけ、いよいよ歌のお披露目。

 曲のタイトルは『おさがりの制服』

 演奏に広瀬すずも参加。彼女の手にはしっかりと鈴が握られていた。


<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。