「お世話になる人には、きちんと“ありがとう”っていう気持ちをもって接しなさい、飲食店に行ってもきちんとごちそうさまって言いなさいって。お礼を言いなさい、友達を大切にしなさいってことを口を酸っぱくして言ってきたんですが……」
容疑者の母は言葉をかみしめるようにそう明かした後、少し涙声になりながら、
「人に後ろ指をさされるようなことはしなさんな、ということもずっと言ってたことだったのに……」
と言葉をのみ込んだ。
年の離れた男女が知り合いになれる場所
人気アニメの登場人物と同じ衣装を着て、ウイッグ(かつら)をかぶり、メイクを施すなど、すっかりキャラクターになりきるコスプレ。
アニメ関連イベント会場などに足を運ぶと、若い女性を中心としたコスプレイヤー(以下、レイヤーと表記)が自慢のコスプレでポーズを決め、その周りを大勢のカメラマンが取り囲む風景を目にする。今回の事件は、そんな場所から発生した。
スマートフォンの通信アプリを使い、当時13歳の女子中学生にわいせつな行為を斡旋したとして、警視庁少年育成課は8月21日、児童福祉法違反と児童買春・ポルノ禁止法違反などの疑いで、住所不定・無職、山下有瑠人(あると)容疑者(21)を逮捕した。
被疑者は昨年9月ごろ、売春させる目的で被害少女を友人宅に住まわせ、アプリで募集した神奈川県横浜市内の客の自宅でわいせつな行為をさせた疑い。今年6月、同容疑で逮捕された千葉県市川市の三浦一成市議(29)らにも、同じ女子中学生を斡旋していたもようだ。
山下容疑者が女子中学生と出会った場所が、東京・池袋のコスプレイベントだった。
事情を知るコスプレ関係者が解説する。
「まず相手の好きな作品の話で盛り上げて、自分もその作品好きなんです的なアピールをするんですよね~。で、相手がノッてきたところで、SNSでつながりませんかって。基本、よほどじゃないと拒否りませんから、案外、年の離れた男女が知り合いになれる場所なんです」
なかには「君子危うきに近寄らず」で、未成年レイヤーと知った瞬間に即ブロック、つながりを拒否する人もいるが、山下容疑者は違っていた。
ツイッターで《中学生レイヤーの何が悪い?(中略)リスク回避はわかるけど除け者にするみっともない大人には僕はなったつもりはないぞ。皆平等です》、《一部レイヤーさんは“責任とれないからそもそも関わらない”といい、未成年成年・大人子供関係なく仲良くできないものですかねぇ~》とつぶやき、未成年者との接触をよしとしていた。
さらに《たしかに目の前で(中学生に)迫られたら断れる自信ないけど》と書き込むなど、淫行に対する遵法意識はまるで欠如。犯行の土壌がすでに見てとれる。
逮捕のニュースが流れるとSNSでは、《コスプレ界隈で中坊集めて売春斡旋してた馬鹿》、《あの人中学生に売りやらしてもらった金で生きているからな。中3のとき私もそういう誘い話されたり、無理やりラブホ連れていかれたり、きもかった》と書き込まれるなどコスプレ愛好者の間の評判はさんざんだ。
『週刊女性』が接触したある女性は、「未成年のときにツイッターで《ひと目惚れした、会いたい》と言われ、断ると《お前は精神病か》と豹変。とても不快でした」とエピソードを明かした。
本人が楽しんでいるからいいかなと
山下容疑者の地元、福岡県で、母親に話を聞くことができた。逮捕直前の7月にも帰省し、勤務先のコールセンターの人事異動で北海道旭川に転勤になるかも、と報告したという。
逮捕の一報には「びっくりはしました」と胸の内を吐露し、中学生のころから山下容疑者がコスプレに関心があったことについては、
「知っていました。昔からそういうのが好きだったと思いますけど。地元でもそういうイベントがあって、私が車で送り迎えとかもしていました。息子の知り合いには、男の子も女の子もいました。
本人が楽しんでいるなら(コスプレも)別にいいかなと。それで友達が増えたりとか楽しみができたりとか、人様に迷惑をかけなければ別にいいと思います」
被害少女に関しては、「女の子が虐待されていて、それで自分のところに逃げ込んで匿っていたっていうのは知っていました」と、山下容疑者から聞いていた話を伝える。
虐待されている女子中学生を匿っている、という話に、母親は疑いを持たなかった。そう思わせるだけの理由は、山下容疑者の性格にあった。
「年齢が上の子も下の子も、相談事があるとよくうちに来たりしていました。息子は、誰かがからまれていたら、“そういうのはよくない”ってはっきり言っちゃうので、逆に、人から悪く言われることもありましたし、叩かれることもありました……。とにかく変な正義感が強いんです。
(女子中学生の虐待相談にも)深入りしすぎて、今回こういう事件になっちゃったのかもしれないですね」
逮捕された息子とはまだ、会っていない。
「面会はちょっと遠いので行けないですから、手紙で」
したためたという手紙の内容は、
「うちの子はもう成人です。ただ、相手の女の子は中学生って聞いたので、だからあなたの問題よりも、その女の子が今後、しっかり幸せに生きていってくれるにはどうしたらいいかをいちばんに考えなきゃいけないことじゃないの、と手紙を通して伝えました」
母親の思いを、遠く離れた留置場で、山下容疑者はどう受け止めているのか。
声を震わせる母親
「悪いことをしたら、きちんと反省すべきです。うちの子だけ助けてくださいなんて言うつもりはありません。私はきちんと責任は果たすべきだと思っていますし、とにかくまだ若いですので、今後しっかりそのことを、悪気がなかったにせよ(女子中学生を)助けようとしたにせよ、その方法が間違っていたのならそれはきちんと反省してほしいと思うし、私の願いは女の子が今後も幸せに生きていってくれることだけです」
と息子の立ち直りに、母親として期待を寄せる。息子がどんな悪いことをしても、せめて母親として寄り添ってあげたい。そんな親の情が見え隠れする。
中学生に売春をさせていたという許しがたい犯罪に手を染めてしまった息子に代わり、母親は声を震わせる。
「女の子は本当に虐待されていたらしいんですけど、でもそれから解放はさせられたらしいので、それだけが救いですね。ただ間違った方向に行ってしまったのなら、本当に申し訳ないと思います」
コスプレを純粋に楽しんでいたはずの息子が道を踏みはずし容疑者になってしまったことを母親は謝り続けた。