べらんめえ調&胡坐(あぐら)! 見たことのない宮崎
世界一有名な日本画家、葛飾北斎。彼の娘のお栄(葛飾応為[おうい])は、天才画家の父・北斎を陰で支えつつ、自らも絵を描き“おんな北斎”“江戸のレンブラント”と称される画家に。そんな父娘ふたりの生きざまを描いたのが、9月18日(月)放送の特集ドラマ『眩(くらら)~北斎の娘~』(NHK総合 夜7時30分~)。原作は、直木賞作家・朝井まかての同名小説。主人公のお栄に宮崎あおい、北斎を長塚京三がそれぞれ演じる。
「北斎のドラマを作りたいと思っていたのですが、北斎は天才。天才を主人公にすると、見ている側が感情移入しにくいという問題がありました」
と、『植木等とのぼせもん』『あさが来た』『篤姫』などを手がけた佐野元彦プロデューサー。
「北斎の娘の目線からなら描ける、と思っていたら、まさに葛飾応為の生涯を書いた朝井先生の原作と出会ったのです。読みながら、お栄は宮崎さん、北斎は長塚さんをイメージしていたので、おふたりに出演を快諾していただけたときは、うれしかったですね。
宮崎さんがこれまで演じてこられたのは、はかなげだったり健気(けなげ)だったりする女性が多い。でも、本作は違います。べらんめえ調で、胡坐(あぐら)をかいて絵筆をとっています!(笑)。見たことのない宮崎さんの姿ですが、すごくカッコいいんです」(佐野P、以下同)
宮崎は、原作を読んで感動、ぜひ演じたいと意欲を見せたそう。
「“(お栄が)はかなげでないところが面白い”と、私と同じ感想でした。新たなチャレンジをしようと思っていたところにオファーできたようです。今作は、宮崎さんの新境地になっていると思います」
そんな宮崎と『篤姫』で親子役を演じた長塚については、
「朝井先生に北斎はどんな人だと思うか尋ねたら“背中の大きな人”と。私のイメージも同じで、それが長塚さんでした」
北斎の三女・お栄は、町絵師と結婚するが、箸より絵筆を持つのが好き。そのため早々に離縁。出戻り、北斎の絵の手伝いを始めた。北斎の弟子の善次郎(溪斎英泉/松田龍平)に、ひそかに恋心を抱きつつも父の背中を追いかける日々。やがて、お栄は“色”に執着し、鮮やかな北斎の代表作『富嶽三十六景』の完成にもかかわっていった──。
「父と娘の物語。ジャンルでいうと、ホームドラマですが、ちょっと違います。お栄、北斎、善次郎と、絵に取り憑(つ)かれた3人が、互いの才能を値踏みし合い、絵の世界での存在価値に傷ついたり頑張ったりする。彼らの葛藤(かっとう)する姿を、まるでヨーロッパ映画のような美しい映像のなかで描いています。“目がよろこぶ”映像のグレードにも、驚いていただけるはずです」
光にこだわり、色の美しさを表現した最新技術の4Kカメラを使った作品。映像美に加え、1台のカメラで、じっくり時間をかけて撮影したそう。
長塚がヒントの北斎像、“天才”宮崎の演技
「出演依頼でお会いしたとき、長塚さんが“北斎は娘(お栄)に嫉妬していたのかもしれないね”と、おっしゃったんです。なるほどな、と思い、劇中に取り入れました。気づくかどうかは、ご覧になる方次第なので、お見逃しなく」
物語が進むにつれ、北斎が描いている絵もだんだん仕上がりに近づいてくる。そのため、描きかけの絵を何十枚も用意、シーンが変わるごとに差し替え、時間のかかる撮影となった。
「俳優さんを待たせてしまうんですが、長塚さんは、“あおいちゃんとの芝居だから全然疲れないよ”と。
宮崎さんは、正面からお栄という役をつかまえていて、まったくブレません。撮影を見ていて、“そうだよね、人ってこういうとき、あんな顔するよな”と、感動することが多々あり、演技の微妙なさじ加減が素晴らしいです。北斎も天才だったけど、宮崎さんも天才といわざるをえない。
(撮影の空き時間は)ぼうっとしているか、一心不乱に刺しゅうをしているんですけどね(笑)」
お栄、北斎、善次郎の個性は、衣装でも表現されていて、見どころのひとつ。
「お栄は、女性の画家がまだ少ない時代に誕生した。堅苦しい江戸時代の風習や、しきたりを気にもせず、自分の生き方をすがすがしく貫いていった女性の魅力を感じてください。そして、本作を見ると、北斎関連の知識が増えるので、北斎専門家になれるかもしれませんよ(笑)」
裏方が支えた200枚以上の名画
北斎が絵を描く部屋は、描きかけの絵だけでなく、描き損じも大量にあって散らかり放題!
「描きかけの絵だけでなく、描き損じも、すべて、東京芸術大学の助手、院生の方に描いていただきました。描き損じだからと、和紙にカラーコピーですませると、(4Kカメラで撮影すると)インクだとわかって、墨のニュアンスがなくなってしまう。映像美にこだわった作品なので、ひとつも手を抜きませんでした。裏方のお力添えがなかったら、今作は成立しなかったと思います」(佐野P)
お栄、北斎の分も含めて200枚以上は描いてもらったという絵は、描き損じも含めて、見逃せない。