《黒い心を持った人とは絶対に一緒にいたくない。10年の信頼をかえしてください》
6月中旬、ツイッターで自身の心境をこのように綴ったローラ。明るく元気な彼女からは想像できない暗い内容だが、それにはワケがあった。
「暗い内容のツイートをした2か月後の8月22日にローラさんが、20年間の専属契約で不当に拘束されているとして、所属事務所に契約終了を求める申し入れをしたことが報じられました。彼女は10年の長期契約を結んでおり、事務所の社長から“辞めるつもりなら、暴露本を出す”と脅されていたそうです」(スポーツ紙記者)
芸能界にはびこる悪習
ローラだけではない。現在は“のん”として活動する能年玲奈、宗教団体『幸福の科学』に出家し、“千眼美子”として活動する清水富美加、「暴力をふるった」と、事務所から契約を解除されたが、裁判で契約継続が認められた細川茂樹など、最近、所属事務所と契約に関してトラブルになる芸能人が後を絶たない。
公正取引委員会も調査に乗り出したこの問題の根底には芸能界にはびこる“悪習”があった。長年、タレントのマネジメントを担当してきた、ある芸能事務所の幹部は次のように話す。
「なぜタレントとの契約トラブルが起こるのかというと、“事務所がきちんと契約を結んでいないから”というのがいちばんの理由。単純に契約自体を結んでいない場合もあれば、契約を結んでいたとしても、事務所側が細かく内容を説明していない、逆にタレント側が契約書の内容を理解していないままに契約を結ぶことが多いです」
事務所所属なのに契約をしていないというのは、無名タレントばかりの小さい事務所の話……ではなく、規模の大小や歴史は関係ないという。
「在籍は22年になるけど、書類にサインしたこともないし、契約書なんて見たこともないですね」
そう話すのは、老舗芸能事務所に所属する中堅お笑い芸人。なぜ、そのような宙ぶらりんな状態のままで活動を続けるのかと聞くと、
「そういうものだと思っています。大御所が動きだしたら、何か変わるのかもしれないけど……」
と、諦めたように話した。
「芸能の世界では、事務所側とタレント側が、お互いに “こういうものだよな”と、慣習的に契約を結ばないままになっていることが多いです。事務所によっては同じ所属なのに、契約している人もいれば、していない人もいるなんてこともあります」(前出・芸能事務所幹部)
契約トラブルなどから、芸能人個人の権利を守るため、今年5月に立ち上がったのが『日本エンターテイナーライツ協会』。同団体の共同代表理事で、多くの芸能トラブルを担当してきた佐藤大和弁護士は、芸能事務所の契約書の問題について次のように話す。
急増する悪徳事務所
「契約書があったとしても、顧問弁護士が作った契約書をなんとなく使っていて、渡している事務所側の人間も中身を理解していないケースも多い。だとすると、説明もきちんとできないですよね」
なぜ、今になって契約トラブルは表面化してきたのか。
「やっぱり悪徳な事務所が多いからだと思います。契約を結んでいないことが悪いというわけではなく、慣習的に契約書がなかったとしても、待遇などきちんとしているところも多いなか、この慣習を逆手に取って、タレントが著しく不利な契約を結んでいる悪徳な事務所もある。
問題が表面化してきたのは、昨今のネットの隆盛で、タレント個人でもSNSなどを使って声が上げられるようになったことが大きいのではないでしょうか」(前出・芸能事務所幹部)
前出の佐藤弁護士は、悪徳な事務所の違法性について次のように話す。
「さまざまなケースがありますが、芸名を使わせないことについては独占禁止法に抵触しえますし、移籍した際に芸能活動をさせない“干す”行為は、憲法22条“職業選択の自由”に反しています。それにもかかわらず、現状は一定期間“他事務所での芸能活動を禁止します”という文面は、地方の小さい事務所も含めて、私がこれまで見てきた芸能事務所の契約書のうち、6割程度は入っていますね」
しかし、高額なレッスン料を支払わせるなどの詐欺的な悪徳事務所は除き、事務所側が契約書を厳しくするのはしかたがない面もあるという。ローラのように横暴ともいえる契約も耳にするが……。
「ゼロの状態のタレントを仕事が入る状態にするまでには、大変な労力とお金がかかります。売れたからといって、“誘われたから別のところにいきます”では、投資したお金を回収できず、ビジネスが成り立たないからです」(前出・佐藤弁護士、以下同)
タレント側の落ち度
さらに佐藤弁護士はトラブルの原因のひとつとしてタレント側の落ち度も指摘する。
「契約トラブルは事務所が一方的に悪いという問題ではありません。きちんと契約書を読まず、トラブルになってから初めてちゃんと読むタレントがあまりに多い。そこで初めて“この権利は私じゃなくて事務所が持っているんだ”“え、いま辞められないの?”と気づいて相談に来る。事務所に入るときにしっかりと確認していないために、金銭面や芸名、移籍トラブルが発生してしまうのです」
だからなのか、多くの契約トラブルは、事務所を移籍して新たな芸名をつけるなど、ケンカ別れのような状態で終わってしまうそう。
「私どもの団体は、お互いに利益があるような関係性に落とし込めるような提案を、事務所やタレントにすすめていきたいと考えております。ケンカ別れしてしまったら、事務所側は世間から“ブラック事務所”の烙印を押され、頑なに移籍を進めて独立したタレント側もなかなか仕事が来ない。イメージ的にテレビ局やスポンサーも使いづらくなってしまうのが現状ですから」
古い慣習のままの契約がはびこっていては、おそらく契約トラブルはこれからもどんどん増えていくだろう。
「これまでの慣習に則った古い形ではなく、新しいビジネスモデルが必要になってきているのです。そのためにはタレントと事務所が、法律を盾にケンカするのではなく、対話と調和をし、お互いに利益のある落としどころを見つけていくべきでしょう。
例えば、そのままの芸名で新しい事務所にいくのであれば、元の事務所にその使用料を支払うようなライセンス契約を、元事務所と新事務所の間で結ぶなど、今までにない契約が必要になってきています」
情報バラエティー全盛の昨今。タレント、そして事務所も、もっと勉強しなければならないということか。
※2018年3月16日、記事の一部を修正しました。