「早く(給食が)なくなってほしいです。人間の食べ物じゃないです」と、中1の男子生徒は切実な表情で訴え、
「味がうすい、ないんですよ。まずいから全然食べられない。お腹はすいて授業に集中できないし、部活もあるから本当につらいんです。みんな、お腹すいたって言っています」と、中2の女子生徒はひもじい学校生活を力なく吐露する。
4分の1が廃棄
小学校でも中学校でもみんなが大好きなカレーでさえも、
「固くなっていたし、野菜も固かった」と、中1の男子生徒は絶望的な表情でダメ出しする。3月まで通っていた小学校の給食がおいしかっただけに、よけいにつらい。
給食がまずい学校として、不名誉な名を全国に轟かせてしまったのは、神奈川県大磯町にある町立大磯中学校と国府中学校。2016年1月から、外部の民間業者に委託するデリバリー方式を採用し、工場で製造した給食を配送して生徒に提供しているが、これがまずいと悪評だらけ。
生徒たちの絶望的な気持ちは数字にも。全国の小中学校の残食率は平均6・9%だが、大磯町の町立中学2校の残食率は約26%。つまり毎日、給食の4分の1が残され、廃棄される。
まずいだけではない。導入当日から髪の毛やビニール片などの異物混入が報告され、大磯町によれば今年7月までに確認されただけで84件。そのうち15件が、業者の工場で混入していたとされる。
保護者からは「給食費を払っているのがバカバカしいですよね」(30代母親)、「育ち盛りだから食べないっていうのが心配です。容器が臭いって話していましたね」(40代母親)、「お弁当にするか給食にするか選択できる余地があってもいいと思う」(30代母親)など。子どもの身体、健康に直結するだけに関心は高い。
デリバリー方式の学校給食に当初から反対していたという鈴木京子町会議員は、
「これだけの異物混入があったことを考えれば、業者との契約を解除するのが当然でしょう。子どもに被害があってからでは遅いんですよ」
と訴え、疑問を投げかける。
「学校給食法の基準に基づいてやっているはずですから、町内の小学校と同じ塩分量のはず。味がうすいのは調理段階で何か問題があるのでは」
同町教育委員会の仲手川孝教育部長は、「異物混入も原因が特定されていないため、現時点では業者の変更は考えていない」(※一部報道では、22日に同町が契約解除も含め検討に入ったとも)。
おいしいと自信を持つ工場責任者
今年2月にやっと工場査察を行った対応の遅さが際立つ。
製造元の工場の責任者も、
「私が入社して20年、提供している給食を食べてきましたが、まずいと思ったことは1度もない。9月16日には、記者さんたちにも食べていただきました。教育委員からは、おいしいと評価をいただいたと聞いています」
と、給食のおいしさに自信を見せる。大人たちは食べられるが、生徒は「食べ物じゃない」と吐き捨てる味。この格差をどう埋めればいいのか。工場の責任者が続ける。
「当社では大磯町さんの指示のもと製造しています。大磯町の栄養士さんが献立を立ててくださいますが、やはり煮物や野菜とかバランスのいい食事を作ろうとしていますので、中学生には好まない内容になっているのでは」
と話し、味のうすさについて、「料理を1度冷ますのですが、その際に塩分が飛んでしまう。さらには時間がたつと野菜からも水が出て塩分がうすれてしまうことは考えられます」と説明する。
しかし、料理研究家で栄養士の今別府靖子さんの見解は少し違う。
「料理は冷めると塩味はより強く感じるものです」
と話し他の可能性を続ける。
「学校給食法の基準の塩分量は決して多くないんです。あえ物を作るとき、ほうれん草をゆでたらしっかりと水をしぼる。これをキチンとやらないと、もともとうすいのに味はさらにうすくなってしまうことはありえます。野菜を洗ったときに水をしっかりきってないとかね」(今別府さん)
そして給食直前にひと手間加えることを提案する。
「カレーやシチューなどが出ていることを考えると、冷たいことを前提とした献立が立てられていないのかもしれません。ハンバーグも、冷めたら脂が固まって見栄えも悪いし、おいしくもない。給食を温める設備は絶対に必要です。給食を軽視しないでほしい」
と今別府さんは訴える。
「やっぱり冷たいのがダメ」
同じ業者での異物の混入は相模原市内の中学校でも発見された。'16年度には28件、今年度に入って9件の異物混入が報告されている。同市教育委員会は、
「'16年度に生徒に提供した給食数は26万3千食です。そのうち異物が混入していたのが、28件。これが多いか少ないかという議論は難しい」
これに対し工場の責任者は、
「誠に申し訳ないという気持ちです。しかし異物混入に関しては、他社さんもゼロではないはず。永遠の課題といったところですね。容器も教育委員会が用意したものですので、臭いと言われても……」
と、どこか他人事というか対岸の火事というか。
食品加工工場などの衛生管理のコンサルタントを行うジャパン・フードセイフティードクター株式会社の池亀公和代表取締役は、
「混入の件数も間違いなく多い。ちょっと考えられない。大手スーパーなどでは、異物などが入っている不良率は、100万食作って3個というぐらい厳しいんですよ。よほど管理がずさんなのではないでしょうか」
とバッサリ切り捨てる。
味のまずさと異物混入を受け、当該中学校では9月20日から弁当の持参を認めた。6割近い生徒が、弁当を持参したという。同日には学校で、温かい豚汁が提供された。
「豚汁はみんなおいしいって言ってました。やっぱり冷たいのがダメなんですよ」(中2女子生徒)という声こそが、温かい給食を求めているまさに生徒の声だ。大人に届くか。
中崎久雄町長は、'14年の町長選の公約に、中学校の給食の実施を掲げて再選した。
前出・鈴木町会議員も、
「私も学校給食には賛成です」
と給食導入を支持するが、
「私は自校方式にするべきだと訴えてきました。最初の導入コストは高くなるかもしれないが、学校は災害時の避難所にも使われるわけです。プロパンですから、非常時でもガスが使える。少子高齢化社会を受け、老人向け施設になったときもそこでご飯を作ることもできる。ゆくゆくは町の財産になるものなんです」
20日の会見で、中崎町長は
「本当に子どもたちのことを思って考えてやってきたが、申し訳ない」と行政の不備を謝罪した。子どもの声に耳を傾け、改善に取り組む必要がありそうだ。