’70年代に国民的アイドルとなった男女5人きょうだいグループ『フィンガー5』。そのボーカル晃は当時のきょうだい仲をこう振り返る。
「仲がいいというより、いちばん上の一夫兄ちゃんの言うことが絶対でしたね。親は、長男が家を守っていくという考えで、目上を敬えと俺たちに常日ごろ言っていたから、きょうだいの力関係も年功序列。フィンガー5のマネージメントも全部引き受けてくれ3ていたから、威張っているのも当然だと思っていたね」
四男の晃には発言権はほとんどなし。それでも、人気が出るにつれて、自分の考えを持つようになる。
「光男兄ちゃん(次男)も正男兄ちゃん(三男)もマイペース。妙子はムードメーカーだから、ぶつかることはなかったけど一夫兄ちゃんと僕はしょっちゅうケンカしたね」
例えば、音楽でミスをするのは圧倒的に一夫のほうが多かったが、たまに晃が間違えると一夫から怒られる。
「“僕に文句を言っているけど、あんたもよくミスしているじゃないか”と反抗すれば、兄貴は“生意気言うな”って。だからケンカになる」
グループをまとめて引っ張っていく堅実派の兄と、それに従うきょうだいたちに対して、晃は新しいことをドンドンやりたい異端児タイプ。
「違うと思えば僕だけは兄貴に口答えしてたからさ」
血の気の多い2人は、取っ組み合いのケンカもしたし、刃傷ざたのケンカになったことも!
コンサートの前の楽屋でのこと。テーブルはひっくり返り、窓ガラスは割れ、一夫は果物ナイフを振りかざして「ぶっ飛ばしてやる!」と迫れば、「やれるもんならやってみろ!」と晃も引かない。いつもは止めに入る妙子までが逃げだした。
「それでどうなったかというと、“始まります”って声が入って、コンサートが開始になってね。しこりなんて何もなくなっちゃうわけ。ステージから下りるときには、寸前まで怒鳴り合っていたのが笑顔になって。ケンカのことは忘れてしまう。大ゲンカしたけど、本音をぶつけあっていたのは、お互いを認めていたというか……、そのときはわからなかったけれど、仲がよかったのかもしれません」
きょうだいは血肉、全員が身体の一部
フィンガー5解散後、彼らはそれぞれの道を歩き始めた。
晃は、あれほどケンカをしていた一夫の不動産業を手伝うことに。そして、きょうだいの絆の強さを感じる事件が起きた。
「兄貴が、仕事に出てこない。身体の丈夫な人だけど、なんか気になって家に駆けつけたら、倒れていたんです。ろれつの回らない口で、“大丈夫だから”なんて言ってるから“俺の言うことを聞け”って、ケンカ以外で、兄貴を怒鳴りつけたのは初めてだったんじゃないかな」
脳内出血だった。病院に運び込むと、すぐに手術が行われ、一命を取り留めた。
「手術中に、きょうだいに電話をしたら、すぐ全員駆けつけてね。普段はほとんど行き来していないけど、こういうときに駆けつけるのがきょうだいなんだって」
障がい者になった一夫は、みずからの体験からバリアフリー社会の実現を目指して参議院選挙に立候補するのだが……。
「選挙運動をやったのは僕ですからね。選挙カーに乗り、全国を回りましたよ。どうしてなのかなあ、ケンカしても、腹を立てても、いつも兄貴のために何か手伝ってるんだよね(笑)」
ぶっ殺したいほど大嫌いで、でも大好きでもある複雑な思いを晃はこう語っている。
「兄貴に押さえつけられて反発しながら、僕も頑張ったし努力もしました。気がついたら、僕がここまでやってこれたのは兄貴のおかげだってわかる。“晃、無理しなくてもいいから”という兄貴だったら、僕も“うん、無理しないよ”と流されただろうな」
最後にきょうだいとは? と尋ねてみた。
「血肉っていうか僕の身体の一部だよね。手や足がないと困るでしょう。それと同じなんですよ、きょうだいは」
<プロフィール>
晃(あきら)/ミュージシャン。1961年生まれ、沖縄県出身。フィンガー5のメインボーカルとして『恋のダイヤル6700』『学園天国』などの大ヒットを飛ばす。現在も活躍中。
https://ameblo.jp/t-akira5/