にぼし 様
この連載が始まって初めて人間以外の方を表彰する。今回、勝手に表彰するのは猫のにぼしである。
もちろん、にぼしはただの猫ではない。映画『猫侍』やNHKの朝ドラ『花子とアン』『まれ』などに出演している、ZOO動物プロ所属の売れっ子の女優猫である。「にぼし」という名前も、映画『猫侍』に出演した際、主演の北村一輝さんが「毛の色がにぼしに似ているから」と付けたそうだ。
にぼしは僕が構成担当する『The Covers』(NHK-BSプレミアム 毎月最終週金曜 午後10時)のリニューアルに伴い、今年4月から新レギュラーに加わった。
音楽番組の出演者に猫。その思いつきは面白かったが、正直なところ最初の収録を終えるまで、スタッフ一同不安だった。ずっと鳴いていたらどうしよう。暴れまわってゲストの斉藤和義さんの高級なギターを傷つけたらどうしよう。
しかしすべてはいらない心配に終わった。暴れることもなく、常にいい感じで画面に映り込み、さらには猫好きの斎藤和義さんの心をくすぐるように甘えるなど、さすがプロと感心させる仕事ぶりを見せた。
だが、その時、我々はまだ知らなかった。そのしおらしさには秘密があることを。
マネジャーも知らなかったのだが、実はにぼしのお腹には赤ちゃんがいたのだ。
ということで、いきなり2回目の収録は産休。これが人間だったら大スキャンダル。『週刊女性』も飛びつくところだが、猫なのでそんな事にはならず。そして猫だけに、翌月の収録には早くも復帰を果たした。
ここでにぼしが本性を現した。
セットの中を走り回る。突然、行方不明になる。と思っていたら、テーブルの上に飛び乗り、ゲストのコップに入った水を堂々と飲む。トークの間に勝手気ままに鳴きまくる。MCのリリー・フランキーさんいわく、
「長屋で話してるみたいだ」
初回のにぼしは猫をかぶっていたのだ。まんまとだまされた。
それ以来、スタジオでは、
「今日のにぼしはどんな状態?」
「今、にぼしががいい感じだから(カメラを)回そう」
といったスタッフの声が飛び交うようになった。
「猫本位で番組収録が進んでいる」
これもまたリリーさんの弁だ。
最初のようなしおらしさこそなくなったにぼしだが、レギュラー出演者の仕事は今でもちゃんと果たしている。猫好きのアーティストは多く、彼らはにぼしがそばにいると、いつもとは違った表情を見せる。今後のゲストの中には「にぼしに会うのが楽しみ」と言ってくれている方もいる。ゲストの宮藤官九郎さんが、
「猫の手を(比喩ではなく)本当に借りている様子は初めて見た」
と驚いていたが、確かににぼしは今や番組には欠かせない存在となった。
ドラマや映画だけではなく、仕事の幅を広げトーク番組でも活躍するにぼし。そんなにぼしには今回、「優秀エンターテイにゃ~賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。
<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。