子どもにとってはもちろん、大人にとっても“給食”は大きな関心事。昔と比べ、どんなふうに変化しているの? そこでここでは、懐かしの学校給食定番メニューだった“鯨”に注目。捕鯨禁止も叫ばれるなか、果たして“今”の学校給食に鯨は登場しているのか調べてみました!
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『週刊女性』本誌の読者世代にとって給食の定番メニューといえば、やっぱり鯨。ニュースサイト『週刊女性PRIME』ほかで行った給食に関するアンケートでは、330人中、半分強の178人が給食に“出た”と回答。20~30代もいれば、逆に50~60代が出なかったと答えていたり、予想外に年代はバラバラだ。
「鯨の竜田揚げは、理由なしにおいしかった!」(福岡県・40代=会社員)
「鯨のノルウェー風、おいしかったです」(兵庫県・40代=会社員)
「鯨の竜田揚げは固くて、食べにくかった」(埼玉県・40代=会社員)
その調理法は、圧倒的に竜田揚げが多数! さらにはオーロラ煮、カツレツ、大和煮などの声も聞くことができた。
学校給食歴史館の大澤次夫館長によると、
「昭和40年代までは、間違いなく鯨の竜田揚げは学校給食のエースでした。当時の児童たちには、貴重なタンパク源。ときどき固い肉があって、昼休みまで噛んでいる子がいたりね(笑)。今はほとんど給食で出されてないのではないでしょうか?」
給食から鯨は本当に消えてしまったのか? この問いを考えるには、商業捕鯨の現状を知る必要がある。
「IWC(国際捕鯨委員会)のモラトリアム決議によって、1987年から商業捕鯨が一時停止になっているのは、みなさんご存じですよね? 商業捕鯨を継続したい日本は、当時、異議申し立てをしました。
しかし、アメリカから“反対するなら、アメリカの周辺の海でタラをとらせない”と圧力をかけられました。それは困るということで、異議申し立てを撤回せざるをえませんでした」
そう話すのは、日本鯨類研究所の広報課。ちなみに、決議を留保したアイスランドやノルウェーは、現在も商業捕鯨を続けている。
’87年当時、シロナガスクジラやナガスクジラなどの大型鯨類は、実際に頭数が減少していることがわかっていた。そこで日本は“数の少ない大型鯨類ではなく、比較的数の多いミンククジラをとらせてほしい”と交渉したのだが、結果はNG。反捕鯨国から、感覚論にすぎないと一蹴されてしまった。
「ならば、日本が実際に調査して、“たくさんいることが科学的に証明されたら、商業捕鯨を認めてくださいね”と、’87年から始めたのが調査捕鯨です。国の事業として、日本鯨類研究所が科学的データを収集しています。
最終目標である商業捕鯨再開のために、資源数や資源動態をしっかり調査研究して、鯨を持続的に利用できるようにしたいと考えています」(広報課、以下同)
・学校給食週間にはよく出ます
IWCが管理対象としているのは、約80種類いる鯨のうち、シロナガスクジラやザトウクジラ、ミンククジラなど13種類。
「日本の調査で捕獲する鯨は、その中のイワシクジラとミンククジラです。調査後の鯨は、可能な限り加工して利用するよう国際捕鯨取締条約で定められているため、鯨肉は副産物として持ち帰ります」
つまり、食べてもいい?
「はい、もちろんです」
と言うのは、日本鯨類研究所から鯨肉の販売委託をされている共同販売の大川敏弘執行役員。
「鯨肉は、中央卸売市場などの市場用、加工業者などの一般用、公益用の大きく3つに分けて販売しています。公益用は、食品アレルギーで畜産品などが食べられないお子さんに向けた医療用や学校給食用などを指します」(大川役員、以下同)
’86年の最後の南極海商業捕鯨で、約1万トンの水揚げがあったミンククジラだが、調査捕鯨となった’87年には約1000トンにまで激減したという。
「当時、鯨肉の末端価格が極端につり上がってしまったんですが、公益用には特別価格での提供を続けてきました。今は年間100~200トンくらい、給食用に振り向けています。学校給食週間(1月24日~30日)にはよく出ます。
あとは、鯨にゆかりのある自治体ですね。主に、北海道の網走、釧路、函館、浜中町。東北なら宮城県の女川町や石巻市。そして、南房総市(千葉県)、太地町(和歌山県)、下関市(山口県)、長崎市などです。なかでも和歌山県は、県としても盛んなほうだと思いますよ」
・鯨ゆかりの自治体に状況を聞いてみた
地域の伝統として鯨文化を今に伝える自治体は数多くある。やはり、給食に鯨肉が登場している?
まずは、古式捕鯨発祥の地・熊野地方が有名な和歌山県に尋ねてみた。
「本県では昔から鯨肉を食する文化がありますし、鯨肉はタンパク質や鉄分が豊富な栄養価の高い食材。平成28年度は、30あるうち22の市町で鯨の献立の給食を実施しました。1校あたり年間1〜5回程度で、メニューは主に竜田揚げです」
栄養面ばかりでなく、教育的要素も大きい。
「伝統食材である鯨肉を給食で提供することで、子どもたちが県の伝統的な捕鯨文化への理解を深め、後世に継承し、郷土愛や食に対する感謝の心を育めると考えています」(和歌山県教育庁学校教育局健康体育課)
続いては釧路市。国が行う調査捕鯨は釧路沖でも実施されていることから、今も鯨にゆかりがある。
「年2回ほどの実施で献立としては竜田揚げです。給食で子どもたちに食べてもらうことで、鯨肉を食べるという文化自体をなくさないようにしています。
もし今後、商業捕鯨が再開され、自由に鯨肉が買えるようになったときに、食べ方や料理の仕方がわからないということがないようにしたいと考えています」(釧路市水産港湾空港部水産課)
かつて捕鯨基地のあった下関市は、市の動物も鯨。今年3月には、南極海での調査を終えた捕鯨船が下関港に帰港するなど、歴史的な捕鯨文化を持つ。
市に、給食の状況について尋ねると、
「平成28年度は年12回、月1回の割合で実施しました。12回のうち半分は全市一斉で、残りの6回は各地域ごとの実施になります。鯨給食は’87年ごろに1度中止になったんですが、’98年から再開し、今に至っています。1番人気のメニューは竜田揚げです。鯨カレー、鯨の炊き込みごはんなども提供しています。
給食は学校保健給食課の管轄で、本来は水産課が関わるところではないんですが、学校給食で鯨肉を食べてもらいたいとの思いから、水産課で鯨肉購入などの支援をしています」(下関市農林水産振興部水産課)
最後に県民1人あたりの鯨肉消費量が日本一といわれる長崎県。県庁所在地の長崎市では、
「年に1~2回の実施で、好評。楽しみにしている児童が多いです。メニューは鯨の竜田揚げを筆頭に、鯨汁、鯨のごまみそがらめ、揚げ鯨のマリネ、鯨の甘辛煮、鯨のオーロラソースがらめ、鯨じゃが、鯨カレーなど。
高学年の児童は、“鯨はめったに食べられない”と聞くと大事そうに、そしておいしそうに食べています。低学年の児童は、見た目がレバーに似ているので最初は少し警戒しますが、ひと口食べると“おいしい!”と笑顔を見せます」
長崎と鯨の関係は縄文時代に遡る。
「江戸時代は古式捕鯨の中心地でした。壱岐、対馬、五島、平戸の各地に漁場が点在し、多くの鯨組(捕鯨を行う組織)が操業していました。沿岸住民に多くの雇用を生み出したため、“鯨一頭で七浦が潤う”と言われたほどです」(長崎市水産農林部農林政策課)
自分の生まれ育った地域の伝統や文化を知る──。
鯨の給食は、重要な食育も担っているのだ。