教育評論家の尾木直樹さん(左)と「不登校新聞」編集長の石井志昴さん(右)

学校に行くのが100%正解ではない

「子どもには学校を休む権利があるんです。無理してまで学校に行くのがいいわけではなく、“疲れたら休む”。そして元気になったら、また通いだすのもいいし、学校以外の別な方法で勉強をしていくという選択肢もあります」(尾木ママ)

 尾木ママの言う学校を休む権利とは、今年の初頭(2017年2月)に施行された「教育機会確保法」に明記され、法律で認められた権利なのだ。

 文部科学省の調査によると昨年度、30日以上、学校を欠席した不登校の小中学生(病気と経済的理由は除外)は12万6000人を超えている。子どもの数は減っているのに、3年連続で増加していて、中学校はクラスに1人は不登校の生徒がいるという現状の中で、休んでもいいと法律が認めたのだ。

「学校に行くのが100%正解ではないのね。文科省は『不登校はどの児童生徒にも起こり得る』とし、これまでの“学校に通うのが当たり前”で“不登校になるのは特殊な子どもであり不登校の児童生徒が悪い”という偏見を払拭してきたのだけれど、この法律によって、親も学校に対して“子どもを休ませます”と堂々と言えるようになりました」(尾木ママ)

 子どもが学校に行きたくないと言いだしたとき、慌てふためき、古い価値観で無理に学校に行かせるのではなく、「休ませようか」と言える余裕を保護者には持ってほしいと尾木ママ。

 それにしてもなぜ、不登校は増え続けるのか。昨日まで元気に学校に行っていたと思っていた親にとって、それは青天の霹靂なのだが、「実は学校に行けなくなったときは、子どもはもうストレスのキャパシティーを超えてしまっている」と語るのは、不登校新聞編集長の石井志昴さん。

 大人はガス抜きができるが、子どもは満タンにまでためこんで苦しんでいる。親が思っている以上に状況は切迫している。

親の対応、3つのポイント

 ここで間違えてはいけないのが親の対応。次の3ポイントを胸に刻んでほしい。

(1)原因を究明しない
 子どもが不登校になると100%の親が「何で」と聞き、原因を探し出して取り除こうとするのだが、これが原因であると説明できる子はいない。子どもに聞くのは「今はどんな気持ちなのか」、本人の気持ちを受け止めてあげるだけでいい。

(2)安全第一
 子どもは苦しんでいると、気持ちを抑えきれずに、家庭内暴力や物を壊す、さらに体調不良を自ら引き起こし、自分の髪の毛を抜いたり、摂食障害が始まる。ここまで追い詰めてはならない。

(3)責めない
 
可愛いわが子である。学校に行かなければ、将来はどうなってしまうのか。親は心配のあまりつい「このままで、将来どうするの」そして、「将来はもうないわよ」と冷酷にも責めてしまう。

 しかし、当事者の子どもがいちばん、自分はどうなるのか心を痛めているのだ。それなのに親が子どもの傷に塩を塗ってしまうことがある。

親はわが子の身に何が起きているのかを考え、安心して過ごせる環境を整えてあげてほしい。学校に問題があるのなら、教科書なども目につかないところにしまうとか。それだけでも気持ちはラクになるものです」(石井さん)

「子どもが学校に行きたがらなくなったら、まずは保護者が学校に子どもの様子を見に行くことをすすめたいですね。また友達とのトラブルがないかをママ友に聞いてみましょう」(尾木ママ)

 誰かとケンカをしているとか、給食を無理に食べさせられて苦しがっていたとか、子ども自身から親に言えないまさかというようなことが起きていたり、いろいろな事情がつかめるはず。

「よくいじめが問題にされますが、決定的な要因となるのは少数です。取材してみると、1つの事柄ではなく、いくつかが重なっていて、中でも3つの要素が大きく影響していると感じています」(石井さん)

「行きたくない」という声を受け止めて

 1つ目は学力競争にさらされ、友達は全員ライバルの中で蹴落とし蹴落とされて毎日を過ごしていることでストレスフルになっている。

 2つ目は親子関係の歪み。親は子どもが学校で勉強して、いい成績をとり、社会に出ていい仕事に就いてほしいと願い、期待する。子どもはそれに応えようとするが、応えられなくなったときに、苦しくなり、学校に行けなくなる。

 3つ目は子ども間の人間関係だ。子ども電話相談では、この6年間ずっと1位が続いている。スクールカーストといわれ、自分より上位からいじめられ、自分より下の者をいじめる。大人の目にはなかなか映りにくいが、そんな緊迫した関係が子どもの社会にあるのだ。

 だからこそ親は、

「目の前に見えることだけで解決しようとしないで、ゆっくりと話を聞き、行きたくないという声を受け止めてあげてほしい」(石井さん)

「教育機会確保法・不登校対策では“休むこと”の権利を認めると同時に、“すべての子どもたちが安心して学べる環境を作ること”も定められています。ただ具体的な支援はこれから。

 今は教育委員会などが設置している教育支援センターや、民間のフリースクールが、不登校の子どもたちを受け入れていますから、そういうところに通うのもひとつの方法です」(尾木ママ)

 フリースクールは全国に400以上もあると言われている。NPOが運営しているところもあれば、不登校の子どもの親などが自宅を開放しているところもある。

 フリースクールに通っても学校に通ったことにはならないが、もともと通っていた小中学校の校長先生の判断で、出席扱いができるようになっている。

親も不登校の当人も、学校に行かなくてもいいと思っている人は少数です。フリースクールから、通信制の高校に通うこともできる。僕自身も、不登校になった中学時代から高校にかけて“もう自分の人生は終わった”と思っていたときもありますが、フリースクールに通っているうちに道が開けました。

 自分の可能性を信じていい。そこは声を大にして不登校の子どもたちにも、親たちにも伝えたい」(石井さん)

芸能界にも不登校経験者は多い

 実は芸能界にも「不登校だった」と告白している人は多い。演出家の宮本亜門は、不登校新聞のインタビューで高校生時代の体験を語っている。不登校新聞では「不登校50周年プロジェクト」を昨年から継続していて、多くの不登校経験者の声を集めて紹介している。

 またマルチな才能を発揮している星野源も高校で登校拒否に。芸人の千原ジュニアは進学校の雰囲気になじめずに、AKBの指原梨乃、タレントの中川翔子は、無視されるといういじめにあって中学時代に不登校になったとテレビなどで語っている。

 こうした経験者の声は、大いに参考にしたい。

「不登校の子どもが大人になって、引きこもりになりやすいとも言われています。でもその一方で、アメリカの大学に入り、国連で働いている人もいます。どっちの道を進むのか、それは親の力が大きいと思います」(石井さん)

 親が子どもの気持ちに寄り添い、どこまで子どもと向き合えるか。そのためにも、関係者の話を聞き、情報を集めることが大事だと尾木ママも石井さんも声をそろえる。

「欧米やカナダでは、学校に通わずホームエデュケーション(家庭で学習する)という選択肢もあります。学校が合わない子どもたちのためにも日本でも認めてほしいわね。そういった点についても議論していきたいと思っています」(尾木ママ)

「親の会やフリースクールには不登校の子どもたちと向き合った、プロフェッショナルがいます。これまで積み上げてきたことをシェアすれば参考になることがたくさんあるはず。具体的なアドバイスが聞けたり、仲間づくりができたり、ときには愚痴の捌け口にもなっている。そうして親が元気になると、子どもも変わるようです」(石井さん)

 最後にフリースクールの月謝の全国平均は3万3000円。高額なところはよく検討して。相談に行くときは、親だけでもOKで、親の気持ちをよくわかってくれるところを。そして「壺を買え」といった霊感商法に巻き込まれないこと。冗談のようですが、悩んでいる親の心につけ入る商売があることを告知しておきたい。


石井志昴 全国不登校新聞社発刊の「不登校新聞」編集長。中学受験の失敗、いじめなどにより中2から不登校に。フリースクール「東京シューレ」に入会。17歳から同社で編集に携わり、2006年に編集長に就任。

尾木直樹 教育評論家、臨床教育研究所「虹」所長、法政大学特任教授。子どもと教育、いじめ問題、メディア問題を中心に調査・研究、講演活動、執筆、メディア出演など幅広く活躍。「尾木ママ」の愛称で親しまれている。