巡業作りのお手伝い、してきました!
9月場所が終わり、大相撲は秋の巡業シーズン真っ只中。10月4日の千葉・八千代市から始まり、29日の広島県・福山市まで今季は22回開催される。
その後、11月12日からは九州場所が始まるので、おすもうさんは実に忙しい。もちろん、巡業は秋だけじゃなく、冬(12月)、春(4月)、夏(8月)にもあり、大相撲人気故に巡業回数は増えて過密スケジュールとなり、それが9月場所の3横綱2大関がケガで休場というような、“ケガ人続出”を誘発しているのでは、という声もある。
巡業の回数を減らしては? おすもうさんの身体を心配するスー女な私としては、当然ながらそう思ってきたけど、ちょっと考え方が変わった。というのも、10月7日に埼玉・浦和市駒場体育館で開かれた「大相撲さいたま場所」に前日から参加させてもらい、巡業の意義をとっても感じたからだ。
巡業の設営は前々日から始まって、私が行った前日の朝9時にはもう体育館内中央に土俵の土台が築かれていた。
前々日に「男ばかり、ネコ車で何回も往復して土を運んだんだよ」と“工事人風”の男性が言うので「大変でしたねぇ」などと答えたが、工事人さんだとばかり思い込んでいた方が、相撲部屋関係者だと後から知るのが、こういう場所だ。
そして土俵の周りには、これから丸く埋め込む俵が置いてあったりで、”おお!これが噂の!”と、相撲ファンなら興奮する光景が広がる!
とはいえ、見学ばかりしてはいられない。私も手伝うために来たのだ。巡業の設営、やることは山ほどある!
おすもうさんが足を引っかけないように
メインの体育館のほか、普段は柔道場やサブの体育館として使われている場所が、翌日には力士たちの支度部屋になる。そこも含め、廊下も全域に渡って養生シートを敷くのが巡業では決まり。
「お手伝いに来た和田です!」の挨拶もそこそこ、「じゃ、そっちお願いします」と、速行で結構な重さのシートを託され、「どうもどうも」と見知らぬ女性とあいさつを交わし、シートを敷き始める。
柱のある所は切り込みを入れ、空気が入ったり、曲がらないようにビニールテープできっちり止めていく。立ったり中腰になったり膝ついたり、かなりの労働。すぐに汗がぽたぽた垂れてきた。
相撲とは関係のないような地味な作業だが、やりながらずっと尾車親方のことを思い出していた。
嘉風や天風の所属する部屋の尾車親方は5年前、
作業リーダーからも「おすもうさんはすり足で歩くからひっかけやすいんで、よく点検してくださいね」と言われ、みんなで一度貼った上をさらに踏み固めて行く。また、めちゃくちゃ地味!
作業は総勢50人ほどで行った。土俵を作る班は、呼び出し・邦夫さんを中心に土俵築きで土俵を叩きならし続ける。土俵築きのドン~ドン~という音、ああ、これが巡業を作る音なんだなぁと思った。
ゴミ箱も表示もすべて手作り
その周りではメジャーで測りながら、マス席をビニールテープで印をして囲っていく。これ、「すごく大変です」と言われ、私は逃げてしまったが、みなさん地味で大変な作業を丁寧にやっていく。
代わりにやったのがゴミ箱作りと設置。お弁当や飲み物のゴミが大量に出るのが巡業。力士の支度部屋にも置くので、「これ、大関たちの部屋に置いてきて」と言われて、ちょっと興奮して置いたりもして(笑)。100個近いゴミ箱作りという、またすごい地味な作業を黙々とやった。
さらにイスを並べ、マス席に一つずつ座布団を敷く。この座布団、さいたま場所のオリジナル! 巡業はこのオリジナル座布団を持ち帰れる(購入もできる)のが魅力。記念に毎年集める人もいるらしい。
そうして最後に土俵に塩を盛り、お神酒をかけて土俵祭りも全員で行い、午後3時過ぎに作業は終わった。正直、くったくたでお昼のお弁当も食べられなかったぐらいだ。
しかし、地味で大変な作業をしながらも全員が楽しそうだった。休憩時に聞けば、みなさん、
相撲が大好きで、話を始めると止まらない! かつての追っかけ武勇伝を披露してくれた元祖スー女さんや、相撲部屋関係者の方、みんな巡業を楽しみにし、それに関われることを喜んでいるのが伝わった。
そうして翌日、いよいよ巡業が開催。満員御礼! 右を見ても左を見てもおすもうさん! 「いや、もう、どこ見たらいいんだかわからないね!」と、この日はお客さんとなった私と友人は、興奮して大はしゃぎだ。
朝8時に開場、番付下位の力士たちから朝稽古をし、その後に取組があるが、そうした間中、会場のあちこちに力士たちがストレッチをしたり、力士同士でおしゃべりしたりしている。
友人は玉鷲関に“突き押し”を教わる(?)阿炎(あび)関の様子を動画に撮って興奮している。私は9月場所は休場だった横綱・鶴龍がチューブでトレーニングする姿にひたすら萌える!
その鶴竜と稀勢の里の結びの一番は、今年3月場所以来の横綱決戦? 結果、鶴竜が勝ったが、会場は大いに沸いた。ちなみにこの日、取組はなかったが、日馬富士も土俵入りを披露した。
ファンと力士が混在する巡業
とにかく、どこもかしこも笑顔、笑顔!
スー女たちは一眼レフを手に走り、力士たちを撮影してしている。みなサービス精神万点で応えるが、なかでも天風(あまかぜ)関はあらゆる声に返答し、気配りを忘れない、その姿勢には本当にプロフェッショナルだと感激した。
さらにあちこちでファンと力士が2ショットを撮り、サインをもらい、興奮している。誰かが最初にしてもらうと、そこからワラワラと人が集まり騒ぎになるが、昨日、私が一緒に働いたスタッフのみなさんや、そのお子さんたちである地元相撲道場の子ども力士君たちが警備にあたっていて、「おねがいします~」と優しい警備。
だからこそ逆にみんながそれぞれマナーを守り、決して過度な騒ぎにならない。
みなが楽しみ喜び、おすもうが大好き! という愛と祝福にあふれていたのが、本当に心地よかった。相撲は興行だけでなく、実りの秋に神さまに感謝を捧げるために奉納する祭でもあり、村々で集い、みなで祝い、喜び合うもの。そんな昔からある相撲の原点を、私はそこに見た気がした。
巡業とは、本場所とは少し違う。皆で作り上げ、喜びを分かち合い、相撲の元に集って祝福し合う。昔からある相撲の姿が今に生きる、とても大切な場所だと知った。
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。