「送料無料」を掲げるネット書店の隆盛で、書店数の減少が叫ばれる昨今。書店ゼロの自治体が2割を超えるなかで、独自のコンセプトや新たな取り組みで奮闘する個性派書店が続々と登場。まだまだ頑張る町の本屋さんの“いま”を徹底調査した。
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7月下旬、東京・目白駅前の書店が69年の歴史に幕を下ろした。店頭には、感謝の言葉が書き込まれた付せんがびっしりと貼られていた。長年続いた町の書店が消えていく──。
’00年に2万1654店あった書店数は、’17年には1万2526店に減少。書店が地域に1店舗もない「書店ゼロ自治体」も増えている。
アマゾンをはじめとするインターネット通販と電子書籍の普及が影響しているといわれているが、一方で、新しいコンセプトの書店も各地に誕生している。
「ここ40年で新刊の点数は4倍になったのですが、売り上げはほぼ同じ。つまり、これは産業としては成立しないレベルなんですね」
と語るのは、出版事情に詳しい著述家の永江朗さん。
「雑誌は厳しい。紙である必然性のないものは、ほとんどがデジタルに置き換えられてしまった。一方、書籍の状況は悪くないのです。デジタルの時代にあって、紙に優位性があることに注目している出版社や書店は活気がありますね」
そのヒントは、「アマゾンになくて、書店にあるものは何か」という発想だという。
「ひとつはリアルな空間。その空間を使って客にどう楽しんでもらえるか、そこに気がついた書店は盛り上がっています。例えば、『森岡書店』(東京・銀座)は、アマゾンの逆張りで、1冊の本しか売らない。一定期間、1冊の本と付随するさまざまを展示する画廊のような書店。1冊の本から立ち上がる3次元的な空間を味わえるんです」
永江さんが続ける。
「アマゾンにできないことのもうひとつが“セレクト”。本を選ぶ目、つまり編集力があれば人を呼び込める。町の本屋さんでも、例えば京都の『誠光社』のように、たった19坪の店でも独特のセレクトで人気を集めることができる。本以外の商品も本との親和性を重要視して選んでいる。こうした新たな試みも始まっています」
永江さんは、書店の変化に加えて本に触れる場所も多様化していると言う。
「出版不況が叫ばれる一方で、ここ10年、ブックイベントはすごく盛んで読書会も各地で行われています。書店は、ただ生き残りをかけるのではなく、どれだけ積極的に本をおもしろく、そして大事にできるかが問われているんです」
“新たな取り置き”とコンシェルジュ
老舗大型書店・紀伊國屋書店新宿本店ではネット利用の新サービスが評判らしい。同店の店長代理・丸山裕子さんが言う。
「それは当社ウェブストアで注文して店舗で受け取るサービスです。図書カードや一部電子マネーでも支払いができ、お勤め帰りなどに立ち寄りたいというニーズにお応えしています。ご注文の本プラス、店頭で思わぬ1冊と巡りあう場を提供できればうれしいです」
もうひとつのサービスの目玉がコンシェルジュだ。
「探している本の案内が主ですが、贈り物にどんな本がいいのか相談を受けることも。本との出会いを少しでもお手伝いできればと思っています」(丸山さん)
そのために、広い店内の棚の場所や新刊情報などを常に頭に入れ、ほかの書店員からの情報も絶えず吸収している。ときにはこんなことが。丸山さんが言う。
「エンディングノートを探しているおばあちゃんを案内していたら、人生相談が始まることも(笑)」
お客様と本との出会いを演出するため各売り場の担当者は売れている本、売りたい本を選んで手作りのPOPで棚や平台を飾りフェアやイベントを企画、HPやツイッターで情報を発信している。コンシェルジュの池上晃子さんが言う。
「当店で人気なのが2階の詩歌俳句のコーナー。担当はこの世界では有名人で、ネットでも売っていない句会の本やフリーペーパーも独自に調達して置いている。だからトークイベントもいつも盛況。俳句のオフ会なのか、棚の前で待ち合わせしている方も結構います」
電子書籍購入でポイントや割引も
Amazon.co.jpでは、どんな本や雑誌が購入されているのか。
アマゾンジャパン合同会社のメディア事業部・種茂正彦さんは、
「紙の本も電子書籍も安定して売れています。実は、雑誌も売り上げが好調です。ここ数年、ニッチな専門性の高い雑誌が売れています。これらはコンビニが扱わないうえ、書店のない自治体が増えている事情もあるのでしょう」
電子書籍の売り上げを、アマゾンジャパン合同会社のKindle事業本部の友田雄介さんが説明する。
「電子書籍の事業を始めて5年ですが、当初5万点だったラインナップが現在は60万点。新刊が紙と同時に電子も出されるようになりました。ポイントや割引キャンペーンも積極的に実施しています。以前は電子書籍が紙の書籍を食う、なんて言われていましたが、そんなことはない。マーケットが広がっただけなんです」
売れ筋にはネット書店ならではの傾向も。紙では『うつヌケ』や『夫のちんぽが入らない』など書店では買いにくい本もよく売れている。
「テレビを見ながら、スマホですぐ注文というのが日常化してますね。だから、常に在庫のある状態を目指しています。そしてそれをできるだけ早く届けたい。出版不況といわれていますが、データによると読者人口は増加しています。本を読みたい人はたくさんいる。そんなニーズに今後も対応していきたいですね」(種茂さん)