あなたのまわりに、「なんだかハナにつく、人望がない人」はいませんか? そんな人たちに共通するのが「匂わせ」のしすぎであることだ。
たとえば、「彼氏に大事にされている」ことをことさらに強調してくる人がいる。こっちは何も興味がないし聞いてもいないのに、
「彼ったらね、こんなこと言うの」
「どんなに仕事で疲れていても、かならず家まで送ってくれるの」
などと、いかに自分が大事にされているかを強調する人がいる。
『「上から目線」の構造』『薄っぺらいのに自信満々な人』(ともに日本経済新聞出版社)などがベストセラーとなり、現代の人間心理をずばりと読み解く手腕に定評のある、心理学博士の榎本博明氏。氏の新刊『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』(サンマーク出版)は、発売と同時に大きな話題となっている。
本書から、心理学者の榎本氏の目線で見た「自慢せずにいられない人」と「他人の匂わせに過敏に反応してしまう人」の心のメカニズムを紹介していこう。
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「いい人がいる」匂わせ
自分にはいい人がいるのだと、言葉の端々で匂わせたり、SNSの投稿写真で匂わせたりする人がいる。
デートをほのめかすコメントをつけて、おいしそうな料理の並んだおしゃれなレストランのテーブルの写真や、ムードのあるラウンジのソファー席の写真をアップするなどの、手の込んだことをする人もいる。
たとえば、そのような写真にさりげなく男性の存在を匂わせる。テーブルの隅に男物のハンカチが写っていたり、男物の財布が写っていたりする。男物の腕時計をした腕がチラッと写った写真や、わざと恋人の家で撮った写真をアップするという女性もいるようだ。このような写真を「チラ写り」というらしい。
そのような投稿には、自分にはつきあっている異性がいると誇示したい気持ちがあからさまに漂っている。
そうした投稿をくり返し、つけている腕時計が違っていたり、明らかに違う男性の腕だったりして、いかにも複数の異性とつきあっていることをほのめかす場合もある。そこには、自分は異性にモテモテだと誇示したい気持ちが漂っている。
だが、そのような「匂わせ」は、本人が望むような効果を発揮しないことが多い。
なぜなら、ほんとうにいい人がいて幸せなら、そんな「匂わせ」をしようなどとは思わないからだ。
あまりにわざとらしいため、
「どうせ一人芝居でしょ」
「そこまですると、なんか見苦しいね」
「必死すぎて“痛い”って感じ」
などといった反応が多い。
匂わせることで、「孤独なんだなあ」と見抜かれてしまう。それでも「いい人がいる」匂わせをしてしまう。やらずにはいられないのだ。
劣等感を人間の成長の根源とみなす心理学を打ち立てたアドラーは、自分を大きく見せようという動きの中に、「劣等コンプレックス」を見ることができるという。
劣等コンプレックスは無意識のうちに作用している。
自分が他者に対して優越しているのを見せつけるように振る舞う人たちの心の中には、劣等コンプレックスが潜んでいるのである。劣等コンプレックスの強い人ほど、過剰な「匂わせ」をしてしまっているのだ。
結婚したとたんに福山雅治を攻撃したファンたち
それでも自分は「匂わせ」をされている、自分を見下している……と過敏に反応しすぎてしまう人もいる。
人気絶頂の福山雅治が女優の吹石一恵と結婚したのが大きな話題になったとき、福山と親しい間柄のお笑いタレント今田耕司が、福山から結婚はどうするんだと心配されたというような話が伝わった。すると、ネット上で、
「結婚したら急に上から目線になった」
「余計なお世話だ」
などと、福山に対する批判が殺到したという。
福山ロスと言われるほど、福山の結婚はファンにとって大きな衝撃となったのは間違いない。好きなタレントを奪われたかのような気持ちになるのはわかるが、好きならその人の幸せを祝福してあげようという気持ちになってもいいだろう。手のひらを返したように攻撃するのはどうだろうか。愛と憎しみは紙一重というように、ちょっとしたことで反転してしまうこともある。
だが、もしかしたら、とくにファンではなく、結婚願望が強いのに相手がいないという人たちが、今田のエピソードに反応したのかもしれない。
「結婚したら急に上から目線になった」
というように感じるのは、感じる側の心の中に、結婚できないことに対する焦りや引け目があって、それでつい幸せな結婚をしたように見える人物に対して攻撃的になってしまう、ということなのではないか。
男の子を出産したモデルの蛯原友里のブログに、批判がつぎつぎに書き込まれたこともあった。
蛯原は、お腹にいた赤ちゃんが自分の胸ですやすや眠っている寝顔を見ているととても愛おしく味わったことのない幸せな気持ちに包まれ毎日感動しているというように、自分の幸せな気持ちを書いただけで、別に、誰かを攻撃したわけではない。
では、攻撃的な気持ちはどこからわいてきたのか。それは、蛯原を批判した人たちの心の中である。
「赤ちゃんを抱いて見つめていると幸せな気持ちになる」という言葉から、「子どもを産めない女は幸せになれない」という攻撃的なメッセージを深読みしてしまう。
なぜ「幸せそうな投稿」にイラッとしてしまうのか?
そこには、「投影」という深層心理メカニズムが働いている。
投影というのは、たとえば、自分が相手を妬み、自分がそういう醜い気持ちになっていることを認めたくないとき、それが相手に投影されて、相手が醜い気持ちを持っていると思い込む心理メカニズムのことである。
こちら側にある画像をプロジェクターで向こう側のスクリーンに映し出すように、自分の中にある醜い気持ちを相手の中に映し出す。つまり、自分が相手に対して向けている妬みとか攻撃的な気持ちを、相手がこちらに向けていると思い込むのである。
この心理メカニズムには2つのメリットがある。ひとつは、自分自身の醜い攻撃的な気持ちを認めずにすむことである。もうひとつは、相手が醜い気持ちを持っていると非難することで、一見正当な理由のもとに相手に対する攻撃衝動を発散できることである。
「いつも高級な服ばかり着てるね。自分が裕福だって、そんなに見せびらかしたいの」
と、心にもないことを言われ、ものすごくショックを受けたという人がいる。
「どうせ私は学歴がないし、頭悪いけど、自分の頭の良さをそんなにひけらかしちゃって。人をバカにして気持ちいいの?」
と非難されたが、ひけらかすようなことを言ったつもりはないし、バカにするようなことも言ってないし、なぜそんなことを言われるのかわからないという人もいる。
こちらは見せびらかすつもりなどないのに「見せびらかしている」と言われる。
こちらはけっしてバカにしていないのに「バカにしてる」と責められる。こちらは自分の嬉しい気持ちを表現しただけなのに、「見下した」といわれる。
それは、まさに無意識のうちに働いている、投影の心理メカニズムの仕業といえる。
自分より恵まれた相手に対する憎たらしい気持ち、つまり妬みからわいてきた攻撃的な気持ちを、そのまま認めるのは辛い。だから、相手が「見せびらかしている」「バカにしている」「見下している」と思い込むことで、自分の中にある攻撃的な気持ちを正当化するのである。
その場合、相手の態度に問題があってイラッときたように本人は思っているが、じつは相手には何の悪意も落ち度もないのに、自分が勝手に妬んで攻撃的になっているのである。
匂わせる側と匂わせに反応する側にはこのような心理メカニズムが働いている。自分自身がイヤな気持ちになりすぎず、さらに相手もイヤな気持ちにさせずに生きていくための参考になれば幸いだ。
(文/榎本博明)
<プロフィール>
榎本博明(えのもと・ひろあき)◎1955年東京生まれ。心理学博士。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『「上から目線」の構造』『薄っぺらいのに自信満々な人』(ともに日本経済新聞出版社)、『カイシャの3バカ』(朝日新聞出版社)などがある。