東京・永田町の衆院第一議員会館。立憲民主党の枝野幸男代表(53)は10月27日午後、本誌の独占取材に答えた。
枝野氏は対面するや、「今日はよろしくお願いします」と腰を折って頭を下げた。旧民主党政権で官房長官まで務めたのにこの腰の低さ。まず選挙戦を振り返ってもらった。
「大規模集会を開くたび集まってくれる人が増え、その都度びっくりしました。いちばん驚いたのは結党の翌日、JR有楽町駅前で街頭演説をしようとしたら、ものすごい人だかりができていたこと。ほとんど告知せず、動員もなく、演説の3〜4時間前に急きょお知らせしただけでしたから。短期間でSNSでの広がりがすごく大きかった」
公示前は15議席。ないものづくしで現状維持が精いっぱいのはずだった。結果は自民党に次ぐ55議席を獲得し、野党第1党に躍り出た。同党はどのような社会づくりを目指すのか。
「僕らの軸のひとつは多様性を認め合うこと。例えば、女性活躍といっても、バリバリとキャリアを目指して働く女性もいれば専業主婦もいる。いろんな生き方、生活スタイルがある。どの生き方をしても制度的に不利がない社会を目指していきます。
それと、困ったときに寄り添うこと。子育て中は“困ったとき”です。仕事をしながら子育てをするとか、仕事をしていない場合でも子育てについて知恵やノウハウを得られる場がない。人生の中で、自分の力だけでは対応しきれないことが多い時期にいかに寄り添うか。お互いさまに支え合う社会にしたい」
子育て中の母親は待機児童問題に直面する。あるいは両親などの介護に追われる現実もある。寄り添う道をどう切り開くのか。
アベノミクスはパフォーマンス
「保育士や介護士は、人件費が顕著に低い公的サービス業の代表格です。人手不足の原因は低賃金ですから、賃金を上げるしかない。賃金を上げるには税金を流すしかない」
多くの国民がアベノミクスの成果を実感できないでいる。どのような経済政策で暮らしを立て直すべきか。
「所得の低い人の賃金を上げれば、基本的には上げた分だけ消費が伸びる。保育・介護分野だけでなく、公に関わる低賃金の仕事はたくさんある。最先端の研究開発をサポートする国立大学のスタッフや消費者センターの職員は非正規で低賃金です。賃金が上がれば、市場原理で同程度の賃金水準を持つ民間企業は人が集まらなくなり、ほかの仕事の賃金も上がっていく。
格差の是正は結果ではありません。是正することで消費が増えて経済の回復につながる。お金のバラマキでは持続可能性がないので、必要なサービスを担っている人の賃金で所得格差の是正を図っていく。これは経済対策です」
安倍首相は経済界に賃金引き上げを要請してきたが、私たちの給料はいっこうに上がらない。枝野氏は「しょせんパフォーマンスにすぎない」と切って捨てる。
「日本は社会主義国ではないので、民間企業が総理から言われたからといって賃金を上げられるわけがないんです。民間企業が上げざるをえない状況に追い込むしかない」
原発ゼロをどう実現するのか。改憲勢力が国会発議に必要な3分の2を大幅に上回ったのも心配だ。
「原発を本当にやめたと宣言するには、使用ずみ核燃料の処理や原発立地地域の雇用を含めた地域づくり、廃炉を進めるための技術者や財源を確保しなきゃならない。リアルな工程表を示していきたい。
憲法は良い方向に変わるならば改正を否定しない。いわゆる護憲とは違うのですが、自衛隊を明記することは、明記しただけで何も変わらないならともかく、今は安保法制で自衛隊が海外に行けることになっているので、追認すると軍隊と変わらなくなってしまう。それはとても賛成できないという立場です」
安倍政権の何が特に許せないか。野党第1党としてどう存在感を示すのか。
「国会で数を持っているから何をしてもいいという姿勢が非常に露骨。権力は憲法に縛られるのが立憲主義です。SNSを含めたやり方で国民に訴え、世論を喚起していくのが大事だと思っています」
野党再編が噂される中、枝野氏は永田町の権力ゲームに参加しないと述べた。「国民の多くが政治を遠く感じる理由はそこにある」と考えるから。数を増やす努力もするが、国民の誤解を招かないやり方を心がけるという。
エダノンパパはカラオケがお好き
素顔はどんな人物なのか。政治家になる前は弁護士だったが、小学校ではブラスバンド部、中学校では混声合唱部で、現在もカラオケを得意とする。
「得意というか大好きです。赤坂界隈のカラオケボックスはなじみになっていますね。党関係者やメディアのみなさんとだったり、家族でも行きます。AKB48や乃木坂46、欅坂46を歌います。最近の歌でいちばん自信があるのは乃木坂の『インフルエンサー』。歌いやすい。欅坂は音楽的に難しいけれど、デビューのときから注目していて『サイレントマジョリティー』から『不協和音』まで全部歌えます」
11歳になる双子のパパ。ひょっとして、ノリノリで踊っちゃうのだろうか。
「さすがに踊りはしませんが、タンバリンは叩きます。採点システムにチャレンジすることもあります。子どもと一緒のときは親父の権威をみせないといけないので、点数の出そうな歌で95点ぐらい出して(笑)。野口五郎、郷ひろみ、近藤真彦は30年ぐらい歌っていますからね」
選挙戦では「エダノン」とニックネームで声がかかることがあった。SNSでも定着しつつある。あだ名で呼ばれて嫌じゃないのか。
「いえ、すごくうれしいです。政治家はあだ名で呼ばれるようになったら一人前って思っていますから。もっと呼んでほしいです。ゆるキャラ的ネーミングなんでしょうね」
3・11では不眠不休で踏ん張る姿が話題に。現在も多忙な日々が続くが、寝なくても平気な人なのか。
「寝ないことにはどちらかといえば弱いほうです。休日があれば、寝ます」
エダノンの寝不足はまだ続きそうだけど……。