10月11日、お笑い芸人のピース・綾部祐二さんが、米ニューヨークへ旅立ちました。2016年に記者会見を行い、2017年4月からニューヨークに活動の拠点を移すことを発表していましたが、半年遅れての旅立ちです。
綾部さんだけでなく、女優やアイドルグループのメンバーなど芸能人が留学をするという話題を目にする機会も多くなりました。留学の後、復帰し飛躍する芸能人も数多くいます。
お笑い芸人ピース・綾部さんの留学の場合
綾部さんは今年4月に渡米し、5月にはニューヨークのイベントで初仕事をこなしていました。その後、一時帰国。ビザの取得に時間がかかっていることが伝えられていました。予定していたより出発の時期が先送りになってしまうということは綾部さんに限らず一般人の留学でもありがちです。ビザの取得も含めて事前準備は念入りにしておく必要があります。
メディアによる報道を知った一般の方々の反応を見るかぎり、今回の綾部さんの選択が無謀な挑戦に感じる人が多いようです。
綾部さんが取得したビザは著名なアーティストなどに与えられる「O(オー)ビザ」と呼ばれるものです。Oビザは科学や芸術、スポーツ、ビジネスなどの分野で「卓越した業績を残している」人に対して発給される特別なビザといわれています。
就学ビザなどとは違い、より現地での長期的な芸能活動に目的を絞って渡米されたということになります。
しかし、彼の米国挑戦を筆者はけっこう理にかなったやり方と考えています。日本でのキャリアをリセットしてほとんどコネのない海外でチャレンジしていることが特徴です。
綾部さんの挑戦が一般のビジネスマンにも応用できる点としては、自身の専門性(得意分野)を把握して、そのスペシャリスト(専門家)として実績を積み上げていくことといえます。これはグローバルビジネスの分野では成功の方程式に沿ったやり方です。そうすることで海外では、第一人者としてキャリアの評価によりつながってきます。
背景には日本と欧米のキャリアに対する考え方の違いが大きくあります。日本では、まだ安定志向のほうが根強いことは事実でしょう。そのため、ひとつの安定した職業やポジションを磐石にしようと執着する人が多いと筆者も日々留学の相談を受けていて感じています。
ただ、忘れていけないのはそこに至るまでにネイティブに伝わるレベルの英語力が必要不可欠ですし、異文化を理解しておくことも大切です。
一般的に専門留学とは、語学だけでなく海外の高等教育機関などで特定の技術や知識について学ぶことを指し、就職や転職の前にスキルアップを目指して参加する方が多いです。
今回の綾部さんの場合は、(インプット型の)専門留学というより、(アウトプット型の)専門キャリアアップ留学とでもいうべき留学スタイルです。すでに日本でエンターテイナーとして実績を残していることを前提として、さらに米国で活躍することを目的にしているのです。
「専門性の把握→渡航→英語の習得&専門留学→キャリアアップ」というルートは、実際にカウンセリングをしている中でも増えている実感があり、グローバル化に伴い今後さらに増える可能性も高いです。
次に専門留学のようなキャリアだけでなく、帰国後の仕事にも活用できる短期間の「留学」という選択肢は、一般人にもあってもいいのではないかと思います。
やや古いですが、歌手の平井堅さんも2003年に3カ月間、ニューヨークに語学留学をされています。「大きな古時計」の大ヒットの後で、なぜ渡米されたのでしょうか。テレビ番組のインタビューの中で、「当時、歌が思うように歌えなくなった」と告白されるシーンがありました。
ニューヨークの語学学校の中でも、英語を習得しようと教師とも衝突しながら勉強する様は、留学に対する真剣な思いが痛いほど伝わってくるようでした。結果的に、「日本で歌いたい」という新たなモチベーションとともに帰国し、さらなるブレイクにつながっていきます。
これは海外というアウェーな環境で孤独と向き合いながら葛藤することで、日本のよさを再発見し、今後の方向性が決まっていくという事例です。
平井堅さんの場合は、英語を習得するという目的がはっきりしていて努力を怠らなかったからこそ、次の進路が開けたのではないでしょうか。計画性を持って努力を忘れずにいることが成功の秘訣です。
「当初の目標達成→新たな挑戦のため渡航→自己の再発見、日本のよさを知る」というルートは、一見遠回りなようで、帰国後の平井さんの活躍を見ると、決してそうではない気がします。
キャリアリセットが成長につながる例もある
筆者が以前留学を担当した、こんな方がいました。Aさん(26歳女性)は大学を卒業後、大手通信会社の営業をしていたのですが、毎月の残業が100時間近くなることもあり、クレームやノルマに追われる日々でした。
当時お会いする度、いつも疲れ切った様子だったのを覚えています。彼女は退職を機にカナダのバンクーバーに留学し、英語とホスピタリティを現地で学びました。
海外での生活は、彼女にとってみれば日本に比べて時間的にも(精神的にも)余裕があったため、友達付き合いや休日に自然を満喫したりと、一日一日を享受することができたといいます。
帰国後にお会いすると、表情も明るく自信に満ちあふれている感じが伝わってきました。バンクーバー時代に興味を持ったホテル業界に転職することを決意し、その後ホテルで外国人をもてなす仕事を頑張っていらっしゃいます。
今の環境でどうしても行き詰まったときに、海外に行くと人間関係がシンプルになるため、今後の方向性を整理するのには向いているのは事実です。
ですが、仕事の中での問題を海外や留学に行けば解決できるというふうに安易に結び付けるのは危険な考え方です。英語を習得するという目的がはっきりしていて、計画性を持って努力を忘れずにいることが成功の秘訣です。
人生100年時代といわれる中、芸能人の留学事例を参考にしつつ社会人後半のバージョンアップのために「留学」を、節目のタイミングで取り入れてみるのもいいかもしれません。
大川 彰一(おおかわ しょういち)◎留学ソムリエ 国際教育コンサルタント、JAOS認定留学カウンセラー、日本認定留学カウンセラー協会 幹事。1970年京都市生まれ。父親は友禅染の染色家。高校1年生のときに姉妹都市交流の一環でアメリカのボストンに渡米。京都の大学時代はバックパッカーとしてヨーロッパやアメリカを旅する。大学卒業後は、関西の小売業でセールスやマーケティングに約10年間携わり、その後研修のためにカナダに渡航。帰国後は、大手留学エージェントのチーフカウンセラーとして1000人以上の留学にかかわり、在籍中の4年間はトップセールス。紹介した主な国はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど。その後、米国の教育団体のディレクターとして約6年間、日本や東南アジアの教育機関および企業との連携によりグローバル人材育成に尽力。また高校交換留学や東北復興プロジェクト、アジアの新規プログラム開発にも関わる。全国の大学や高校、留学イベントでの講演実績は多数。今までに訪れた国は30カ国以上。趣味は食べ歩きと映画観賞。留学ソムリエの詳細はホームページ、またはフェイスブックをご覧ください。