フィフィ・佐藤大和弁護士

芸能人の権利を守る「日本エンターテイナーライツ協会」の発起人でもある佐藤大和弁護士とフィフィが、今後の芸能界について考える「どうなる、これからの芸能界」。従来の芸能界のパワーバランスが変わっていくなかで、タレントや事務所は今後どうなっていくのか意見を交わします。

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ーー近年の芸能界で見受けられたSMAPの元メンバー、のんさん、ローラさんらの事務所とのトラブル、あるいは柴咲コウさん、山田孝之さんらの“社内独立”ともいえる動き(※注1、2)。事務所とタレントさんの関係性が徐々に変わってきているようにも思われますが、こうした動きをおふたりはどのように捉えていらっしゃるでしょうか?

フィフィ:柴咲コウさんのような、新会社を自ら起業するという動きは新しいですよね。でもこういうのってだいたい後ろ盾がいてね。ちょっと危ない香りがするのよね。日本の芸能人っていろんな意味で知識がないし、慣れていなかったり、自立できていなかったりするから、うまく使われてしまっている側面があるようにも思えます。

佐藤:タレントさんには良くも悪くも集客力がありますから、いろんな人が寄ってきますよね。なかにはタニマチ的な人も寄ってきますし、そういう人たちが酒の場などでうまく「これからはビジネスの時代だ」とささやくことも多いかと。

 ちなみに、そのような場合、芸能事務所はタレントさんの行う別ビジネスについて、法律上、口は出せず、タレントさんの自由となっています。

フィフィ仕事もとりにくくなっているご時世、トラブルが生じる可能性がありながらも、事務所もタレントさんの生活を保障してあげられないから、強く口を出せないということもあるかもしれませんよね。

佐藤:タレントさんのアルバイトもそうですよね。重要なのは、そのビジネスを持ちかけてくる人に騙されているのかどうかをしっかりと判断することなんですよね。そのためにも良い弁護士さんと知り合って欲しいと思います。

ーーもしトラブルが起こった場合、一流の事務所では顧問弁護士さんが対処してくれるのでしょうか?

佐藤:各タレントさんについては、あまり口出ししないでしょうね。もちろんトラブル発生時に違約金や示談金の交渉などはしますが、あくまで事後対応といった感じで、あまりタレントさんのプライベートなどに踏み入らないと思います。

 だから僕は、関わり合いがある各芸能事務所の社長さんに、普段からタレントさんの教育を分野ごとにリテラシーの高い人たちにさせた方が良いと訴えているんですけどね。

フィフィ

フィフィ知識をつけると表現を気にし過ぎてしまう、タレント性のためにも少し尖っていた方が良いなどと、いまだに日本の芸能界では思われてしまうんですよね。

佐藤:そうなんですよ。だけどこれからのタレントさんは、ビジネス意識やコンプライアンス意識をもっと高めていかなければならないと思います。

フィフィ:リテラシーは高めていかないといけないですよね。

 SMAPの元メンバーの3人も、これまでいたジャニーズ事務所さんでは、個人の発信を抑制していましたが、独立することによってSNSも開設しましたよね。

 SNSはトラブルになる可能性もありますけど、いくつものチャンネルを持つことで自分の武器にもなる。そういう時代だからこそ、メディアリテラシーをどんどんつけていく必要性は感じます。

佐藤:ウェブメディアには、テレビのようにBPOが働かないので、テレビでは放送できないような番組も配信していますよね。テレビだけではなく、ウェブという選択肢もあるということは、タレントさんが独立しやすい土壌作りに一役買っていると思います。

 ただ、だからこそ僕は勉強会をするべきだと思っています。セルフコントロールできるタレントさんをしっかり作っていくべきだと思うんです。いまでこそウェブメディアは自由ですが、あまりにも自由が行き過ぎてしまうとトラブルが発生して、規制が入ってくる可能性もありますから。

 自由の裏には義務があるというのをしっかりと伝えるべきでしょうね。これからタレントさんの教育というのをかなり重要視していく必要があると思います。

フィフィ:元SMAPの3人も、AbemaTVを皮切りにSNSを展開したりして、どんどん情報を発信していますが、結局はその人の魅力ですからね(※注3)。タレント性、需要ってところは大きいと思う。元SMAPという肩書きもある人たちだから、ファンだけじゃなく、世間から注目されて数字が伸びたって思うのね。じゃあ、ピンの子たちがいきなりと出てきてうまくいくかというと、そうではない。

 それに加えて、バックにブレーンがいないとうまくはいかないですよね。「新しい地図」は完全にバックに飯島さん以外にもしっかりとブレーンがいる。中国資本を引っ張ってくるし、SNSでの戦略もうまく機能していると思う。ちゃんとタイミングも狙いながら、情報露出しています。これは独立組3人が考えてやっているわけではないと思いますからね。

佐藤:いままさに3人はテレビとウェブとの狭間で闘っているような感じを受けますが、これはあくまで幕開けというか、これからの5〜10年でインターネットメディアこそが主役になる時代がくるでしょうね。今の時代、若い子たちはテレビよりもインターネットを見ていますし。

 そこで問題になってくるのは、この3人のケースのように、きちんとマネージメントできる方がどれだけいるかですよね。

フィフィ:私自身、喋るのが自分の売りだと思っても、テレビだとすぐに発言をカットされてしまう。でも、ツイッターや週刊誌メディアだと、テレビで無理なことも喋れるから良いのよね。事務所はヒヤヒヤしていると思いますけど。

 だけど同時に、事務所やテレビを作る側も、視聴者をヒヤヒヤさせないとダメだというのをわかり始めています。だから『バイキング』はうまくいったと思うんですよね。ヒヤヒヤしていますよ。ですよね?

佐藤:たしかに出演しながらすごくヒヤヒヤしていますね(笑い)。

フィフィ:メンバーも変わりながらやっているんですけど、みんな本音で喋っていますよね。だからウェブメディアだったとしても、イメージを優先させて本音をいえなかったら、うまくいかないんじゃないかと思う。

変わってくる芸能事務所の勢力図

ーーウェブメディアの台頭によって、いままで成り立っていたパワーバランスがこれからの5〜10年で変わるとなったとき、新たにできあがるパワーバランスはどのようなものだとお考えですか?

佐藤大和弁護士

佐藤:今後はインターネットメディア側に流れていくタレントさんも増えていくでしょうね。そして、そうしたタレントさんを管理できるところが力を持ち始めると思います。

フィフィ:UUUM(ウーム※注4)とかもですよね。

佐藤:ええ、インターネットに特化した芸能事務所が増えてくると思います。大手事務所さんも、徐々に変わり始めているところではありますけどね。

フィフィ:本当は芸能界って芸がないとダメなのに、これまでのパワーバランスのなかでは、コネだったり、枕だったりで出ている人が多かったわけです。本当の実力で番組に出ていなかった。

 なんだか「空っぽ」の芸能界で生きてきたような感じがするんですよね。

 いまの時代の需要に応えていくためには、ユーチューブをはじめとする細分化するメディアに対応する必要がある。それは決してテレビに敵対しているということではなく、そうした世間の需要に応えていないテレビが置き去りにされているだけ。新たな需要に対応するためには、どうしていけば良いのか、それを考えるべきですよ。

佐藤:そういう意味でも良い刺激になるんじゃないでしょうか。適切な競争環境ができてくるかと。同時にそれが、海外に対峙できる力にもなってくると思うので。海外は競争が重要なので、必死で演技の勉強や外国語を学ぼうとするタレントさんたちも出てくると思います。

フィフィ:すでに起こってきている変化としては、文化人の枠も増えましたね。佐藤先生のように、弁護士さんの出演も増えていますよね。

佐藤:番組もコンプライアンスがあるので、法律的な話は弁護士に話させようと考えています。でも、弁護士が出演して、責任がある立場から、わかりやすく視聴者に伝えることは、すごく大事なことだと思います。

フィフィ:専門家を集めた事務所がさらに増えていくような気もします。

佐藤:実際、医者だけを集めている芸能事務所もあります。そのうち弁護士専門の芸能事務所というのも出てくるでしょうね。

フィフィ:芸能事務所にしても、いろんな人を抱えるのはリスクですからね。専門の方ばかりを集めた方が扱いやすいのかもしれません。

 逆にタレントさんにしても、自分に合った芸能事務所に入る方が良いでしょうね。私の場合でいえば、これまでサンミュージックのお笑い班にいたんですが、いまは文化人枠に移動したんですよ。

 それは、ほかのタレントさんでも一緒で、ユーチューバーとしてのウケがよければ、そちらに特化した事務所さんに入ったほうが良いわけで。

佐藤:いずれは芸能事務所の細分化・専門化が起きるんでしょうね。

フィフィ:いくら大きい事務所に入っていても、仕事が入ってこなければ意味がないわけですから(笑い)。才能をわかって行動してくれる事務所さんの方が良いと思いますね。

※ 注1 昨年11月、女優・柴咲コウさんがEC事業、メディア事業、音楽事業を展開する新会社「レトロワグラース株式会社」を設立、代表取締役社長CEOに就任。
※ 注2 今年9月、俳優・山田孝之さんがライブコマース事業を手がける新会社「ミーアンドスターズ株式会社」を設立、取締役CIOに就任。
※ 注3 11月3〜5日にかけてAbemaTVで行われた、元SMAPの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんによる72時間生放送番組「稲垣・草なぎ・香取3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」は7400万超の視聴数を記録。
※ 注4 ユーチューバーの育成・管理に特化したタレント事務所のこと。

<構成・文/岸沙織>