学習院女子大学の品川教授と川村ひかる

世間の物議をかもした給食食べ残し問題。“自分の子どもの学校で起こったら……”と不安になった人も多いはず。なぜ起きたのか? 今後の課題は? 食育研究の第一人者・学習院女子大学の品川明教授と、健康管理士の資格を持つ川村ひかるさんが自らの思いを語った──。

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 生徒からの「まずい」の声や髪の毛などの異物混入が相次ぎ、話題となった神奈川県大磯町の中学校給食。子どもたちを育てる大事な給食が「まずい」というのは深刻な問題だ。

 一連の騒動には、子どもへの“食育”の課題があるという。

川村「まず母親として、美味しい給食が出てこないということがすごく問題だなと思います。本来なら、中学生って“おかわり、おかわり”と言って当たり前の時期ですよね。それが“まずい”なんて……。おかずがまずくても、ごはんだけでも食べるというのは考えられますが、全部残すというのはどういう状況なのかなと思います」

品川「大磯町の場合、業者にも問題があるのかもしれませんが、一概に“残されたからまずい”ということにはならないような気がしています。生徒さんたちが味の濃いものに慣れていて、濃いものは受け入れるけど薄いものは受けつけない場合もあるのではないでしょうか。そうなると、日常的に濃いものを食べさせるのはいいのだろうか? という問題がありますね」

川村「今の時代、共働きでお母さんも忙しいですから、レトルトの食品に頼ることが多いんですよね。私も子どもを保育園に預けるときは給食なのですが、1歳児から驚くほど味の濃いものを食べさせているんです。市販の離乳食を買っても味が濃い。そういったものを食べさせていると、子どもも慣れて味の濃いものしか食べなくなってしまいます。味についての教育も大事ですよね」

品川「味わいを感じるためには、美味しいかどうかだけではなくて、ちゃんと食事の時間をとることも必要なんです。学校給食というのは食育の現場そのものですが、実はそのことを理解している人が教育委員会にも教諭にも多くはいないんですね。なぜかというと、それぞれが教科の先生なので食育について学校で習っているわけではないのです」

川村「非常に困りますね。今後、学校が減っていくなら給食を業者に頼むことが増えていくわけですよね。そうなると、食育自体を学校がもっと理解しないといけない。でもこれは、学校だけの問題じゃないとも思っています」

“食”を学ぶ訓練を大人がするべき

 タレント活動の傍ら、栄養学の講師もしている川村。各家庭での食事のとり方が、子どもに悪影響を与える場合を教えてくれた。

川村ひかる

川村「朝食で子どもに菓子パンを与えたりジュースを飲ませたりすると血糖値がグッと上がります。その後、血糖値が下がると、集中しにくくなるんです。

 また、噛む必要のないやわらかいものばかりを食べていると、脳にも刺激が行きづらくなり、集中力が欠けます。朝から夕方まで続く授業に集中できないわけです。

 そのうえ、給食がおいしくないからといって残すと、1日に必要な栄養素がとれませんよね。こういうことも、親御さんたちが各自、考えていかなければならない問題なのかなと思います」

 学校や家庭での食のあり方を考えさせられる「まずい」給食。一方で、ある食材を変えたことで、子どもたちから大人気になった給食もある。

品川「以前、視察に伺った静岡県伊東市ではセンター給食と自校給食の組み合わせで、センターから来たものを生徒たちが自分でよそう仕組みだったのですが、ご飯が甘くて美味しいと言っていました。土屋米穀店というところの無洗米を使っていたのですが、時間がたっても保水性がよく、固まりにくい影響もあったかと思います」

“新無洗米製法”と呼ばれる製法で作られたこの無洗米はとぐ必要がなく、そのうえ長時間、美味しさを維持できるという。栄養士によると、多くの子がおかわりをするようになったので、以前よりお米が残ることが減ったそうだ。

品川「最初は米が変わったということを言っていなかったようなのですが、子どもたちのほうから“ごはんが美味しい!”という声が出たようなんです。食べて甘みを感じるということは、しっかりと噛んで味わっているということなんです」

川村「実は、私の家でも土屋米穀店の『まばゆきひめ』という無洗米を使っています。まだ子どもが1歳なので、食べるのは離乳食、つまりおかゆなのですが、美味しくて栄養価のあるものを食べさせてあげられるというのが、自分としても満足感がありますね。友達の熊田曜子ちゃんに送ってあげたこともあるのですが、とても喜んでもらいました」

品川「冷たくても美味しいごはんというのはいっぱいあるんですよ。そういうことを含め、考える要素は学校側にも業者側にも、生徒にも親にもある。ですから、“まずい給食”でメディアが業者側だけを攻撃するような状況を傍観するような教育委員会であってはいけないわけで。お互いのコミュニケーションが足りないということが明らかになった気がしますね」

 伊東市の例をとってみても、給食を大切な時間にする可能性はまだまだありそうだ。給食が変わると、子どもの学校生活にもプラスの働きがあると品川教授は語る。

品川「私は、小学校から高校までの中で、給食がいちばん思い出にあるんです。なので、給食が美味しいことがいかに学校、勉強をいいものにするかわかる。次の時間割のために早く食べなさいというのではなく、みんなで食を見つめる時間をもって、じっくり味わう時間を作ったほうがよっぽど教育的な配慮だと思います。そういう意識を持った大人が周りにいっぱいいないと、基本的には食育というのは成功しないですね」

川村「学校にいる時間は長いわけですから、給食が美味しくてリラックスできて、笑顔になって、それで午後の授業が頑張れるっていうのが、学校としてもいいサイクルだなと思います」

 子どもたちへの食育を深めるためにも、今後、学校や親はどんなことができるだろうか。

川村「子どものころに、いも掘りをしましたが、おいもって土の中でこんなふうにできているんだとか、その周りにはこんな虫とかもいるんだとか、子どもには初めての経験ですよね。そのまま持って帰って料理して食べたら、そこで感動があるのでは。

“食って身近なんだよ、もっと知ることがいっぱいあるんだよ”ということを教育としてやっていくと、子どもたちの心も成長するんじゃないかと思います。年に1回ぐらいは親も一緒に食育を楽しむ授業をすれば、食に対する知識も増えるかもしれませんね

品川「そうですね。周りの先生や親も作る過程をこどもたちに見せたり、食べるときに“いただきます。ごちそうさま”という文化をちゃんと見せることによって、改善されることはすごくあると思う。栄養的なことだけではなく、文化的な価値や美味しさとは何かということを学ぶ訓練は子ども以上に大人がするべきだと思いますね

<プロフィール>
川村ひかる◎以前はグラビアアイドルとして活躍。現在は健康管理士一般指導員や野菜ソムリエなど多数の資格を取得し、美容学校で栄養学の講師もしている。’16年に結婚し1児の母

品川明教授◎農学博士。学習院女子大学教授。専門分野は味わい教育(フードコンシャスネス論)、環境教育、水圏生物化学・生理生態学、コミュニケーション論など