テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
『コウノドリ』の出演陣。左から、坂口健太郎、吉田羊、松岡茉優、綾野剛、大森南朋、星野源

オンナアラート#3
ドラマ『コウノドリ』

 産科医療の現場の声をがっつり救い上げつつ、丁寧なつくりで話題になっているドラマ『コウノドリ』(TBS系・金曜22時)。命の尊さを訴えるドラマは重くて、正直、苦手という人も多い。子育て中の友人は、「経験したけど過去のことだし、いまさら見たくない」という。

 ただし、アラートはちょいちょい鳴るのである。特に、2015年に放映した前作よりも、このシーズン2においては「出産育児に理解のない家族」の登場が多い。

 前作は交通事故で妊婦だった妻を失い、シングルファザーとなった小栗旬がメインディッシュで、アラートの鳴らしようがなかった。頑張れとしか言えなかった。いい人にならざるを得なかった。観ている側も演じる側も。でも今シーズンは、いい感じでアラート案件が入れ込んである。

 まず、第3話で産後うつに陥る高橋メアリージュンの夫である。ナオト・インティライミが演じたのだが、「仕事復帰に焦り、保活で苦しむ妻の気持ちをくみとらず」「育休は取らないクセにイクメン気取り」「育児はすべて妻まかせ」

 放送後、ツイッター上では「#うちのインティライミ」が盛り上がり、出産育児に非協力的な夫への呪詛(じゅそ)が飛び交った。ナオト本人に罪はないし、気の毒だが、それだけメアリージュンの鬼気迫る演技が、母になった人々の胸に突き刺さったのだろう。

 もうひとつ、メアリージュンの実母のセリフにも、全国の女性たちが一斉アラートを鳴らした。メアリージュンの子どもは心臓に病気を抱えているのだが、「あんたが最後まで仕事してたからこういう病気になったんじゃないの?」と言い放ったのだ。

 産後で心がアンバランスなうえに、休職によって自分の居場所が奪われる焦燥感に駆られている、キャリアウーマンの娘に対して、「仕事であんたの代わりはいるけれど、母の代わりはいないのよ」と追い詰める。実母ってこういうこと言うよね。世代が違う女ほど厄介。余計な一言の天才だよ、実母は。

 もうひとり。帝王切開でひとり出産した後、ふたりめを出産予定の安めぐみ。「下から産まないと愛情がもてない」というとんでもない妄信に踊らされ、経腟分娩を希望する。その夫を演じたのが前野朋哉。auのCMで一寸法師と言ったら、顔が思い浮かぶかな。

 さすがにツイッターで「#うちの前野」とはならなかったが、妻が陣痛で苦しんでいるときに「いつ産まれますか? 時間がわかれば。今夜同僚と屋形船なんですよ」と言って、助産師の吉田羊に激しく呆れられたのだった。

 その後も、まあ役に立たない感じを好演し、陣痛に苦しむ妻からは「黙ってて!」と言われる始末。

 妊娠・出産・育児に関して、非協力・無神経だった夫への恨みは積もり積もっているようだ。たぶん死ぬまで言われ続けることだろう。

出産と子育てに理想を押し付けてくる人々

 コウノドリのもうひとつの特徴は、母になる人への「覚悟の教育」でもある。未受診妊婦や軽挙妄動の妊婦が案外登場する。人手不足の医療現場からすれば、ここは釘をさしておきたいところだろう。

 たとえば、第4話で木下優樹菜とパーマ大佐が演じた夫婦は、子どもをNICU(新生児集中治療室)に預けたまま、無断で1泊旅行に出かけてしまう。私は観ていたとき、一瞬「そりゃお母さんも息抜きしたいときもあるだろうなぁ…」と思ってしまった。素直に。

 が、やはり無責任という声も大きいし、新生児科医の坂口健太郎がビシッと苦言を呈してくれたおかげで、そりゃそうだなと思い直した。寝る間も惜しんで身を粉にして働く医者たちからすれば「ふざけんな」という話である。これは一般人よりも産科医や新生児科医がアラートを鳴らすところだろう。

 一方、迷信や都市伝説を信じきっている妊婦も登場する。「無痛分娩だと愛情がわかない」「帝王切開だと愛情がわかない」。ハイ、ここでアラート。そういう迷信を妊婦に吹き込んだ人物の存在が、気持ち悪いのである。

 こういうことを言ってくる人間は誰なのか、考えてしまう。たいていが自分の正義をふりかざす経験者だったり、根拠のないガセネタをまき散らす厄介な人ではないか。あるいは見ず知らずの赤の他人で、一生関わることのない人だったりしないか。

 劇中でもセリフにあったのが、「当事者じゃない人は理想を押し付けてくる」。押し付けられた理想にもがき苦しむ母がたくさん生まれていく様子が目に浮かぶ。ただでさえ、「女はこうあるべき」で苦しんでいるのに、さらに「母はこうあるべき」と重ねられる。

 つうか、私も当事者ではないので、本当の意味で妊婦や母になった人の気持ちを理解しているとは言い難い。また、妊娠・出産・子供に興味のない人や、過去につらい思いをしたことがある人がこのドラマを観たくない気持ちもよくわかる。

 経験はしていないけれど、肌で感じる&脳に伝わる「コレは嫌だなぁ」を今回きゅっとまとめてみました。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/