周辺住民と共有する私道。わきには水路が流れ、駅に行くにはこの道を通らないとかなり遠回りすることになる。
「私は悪くありません」
その私道近くに白いペンキで「私有地」と書き、通行を妨げていた“通せんぼおじさん”こと無職の平野保生容疑者(79)が今月8日午前7時6分、現行犯逮捕された。
「傷害の容疑での現行犯です。自転車で通行していた20代男性に対して、通行できないよう身体で防ぎ、自転車を倒しました。被害者はひざなどの打撲で全治10日のケガです。警官が駆けつけた時も被害男性の胸ぐらをつかんで、フェンスに押しつけていましたからね」
と大阪府警西堺署。
「逮捕される2か月前だから、9月から11月にかけて20件くらい平野容疑者に対する110番通報がありました。(容疑を)まったく認めていませんよ。“私の私有地に勝手に入り通行しようとしたので立ちふさがっただけです。私は悪くありません”とずっとこればっかりです」
平野容疑者は2015年にも私道に植木鉢などを並べ通行を妨げたとして妻とともに往来妨害容疑で逮捕されている。妻も「私有地」に対するこだわりは根強く、
「“通りたいんやったら金払えや”って感じでしたね」
と、捜査関係者の記憶は鮮明だ。
近所の住民も、トラブルの経緯をしっかり記憶している。
「判決が出たのが昨年の11月17日ですね。1年2か月の懲役で執行猶予5年になったんですよ。だから今回は実刑だと思うんですけど」
と近所の主婦。トラブルメーカーの逮捕に胸をなでおろす。
前回の逮捕から学んだのか、「私有地」と書いた部分にイスを置いて座り、2リットルのペットボトルを並べるという陣形を敷いた。またいで通行することはできるため、往来妨害では捕まらない。悪知恵を学習しているのか。
平野容疑者の通せんぼを目撃したという60代男性は、
「朝の9時くらいから11時くらいまで、座っていましたね。通ろうとする人に大声で怒鳴るんですよ。誰も通さない。でもトイレとかもあるからずっとは外にはいないです。体格もよくて、力ずくで止めようとするのでトラブルになります。しかも通ろうとする人の写真を撮りますしね」
その結果、前記のように110番通報が増えたのだが、
「押し問答をしているので、それを止めるしかないんです。あとは写真を撮ったものを消させたり。警官が行っては注意をする、その繰り返しですね」と前出・捜査関係者。
包丁を持って脅すことも
平野容疑者への不満は周辺に渦巻いていて、
「だいたい200メートルくらいの遠回りになるんですよね。あの抜け道を通らないとね」(近隣の女性)
「あの道は通らないっていう人はいっぱいいますよ。僕も1度、口論になったことがあるんですけど、本当に話が通じない。それ以降通らないようにしてます」(近隣の男性)
「私は自転車をよく使いますが、もう自然とあの道を通らないように身体が覚えちゃってます」(40代女性)
「そこを通らないようにって、学校の先生が立っていたこともありましたね」(30代女性)
「通れないですね。だからいつも大回りしています。正直しんどいですね。今は(逮捕されて)いないので通りますけど」(男子高校生)などなど。
「15年ほど前から私有地を主張するトラブルはありました。包丁を持って脅すこともありましたね。でも引っ越してきたころの平野さんは挨拶もしっかりしていたしいい人だったって声もある。ワンちゃんが平野さんちの前でおしっこしてから変わったのかも」
と古株の住民は推測する。平野容疑者が「私有地」と主張する自宅前道路。なぜトラブルのもとになっているのか。堺市役所の担当者は、
「建築基準法上、建物を建てるときに原則として道路に建築物の敷地が接していないといけないんです。あの道路は沿道の人々の共有の私道なんですけど、個人でそこの部分を持っているという形態ではないんですね。みなさんに権利はあります。平野さんにも10分の1の権利はあります」
とはいえ、宅地のような「私有地」ではなく、建築基準法上は道路にあたるため、堺市が固定資産税を支払っている。
「それを平野容疑者が、“ここは俺の私有地だ”って言っているんですよ。主張は、通るなということですが、“土地を買い取れ”とも言うので」と前出・捜査関係者もあきれ果てる。
2年前の逮捕で、執行猶予がつき「しばらくおとなしかった」という声もあったが、「“あの工事”からまたスイッチが入った感じ」と近隣の住民たちが指摘する工事がある。
「3か月くらい前に、家の前の水路の防護柵を高くするっていう工事をしてから、平野容疑者が口うるさく言うようになったんです。それでまともに進められなくて。“(工事を)やるな!”とすごく怒鳴ってましたね。
警察が1日がかりの見守りでなんとか夕方には終わりました。でも、それから見張りがエスカレートして、通る人みんなに“通るな!”って言ってましたね」(前出・古株の住民)
工事が終わり1か月たつと、道路に「私有地」の文字が書かれ、トラブルが増え、今回の逮捕案件の勃発となった。
市・警察・自治会が今後の対策を
現在、平野容疑者が逮捕されたことで、町内は静けさを取り戻している。平野容疑者の妻に話を聞くため訪ねたが、応答はなかった。
「根本的に解決するために、今年になって2回ほど堺市、警察、地元の自治会と、今後どうしていくかという話はしていたんですけどね」
と前出・捜査関係者。
自治会関係者も、「平野さんの対策に関して前向きに検討するということで、ようやく市が動き始めましたよ」と、安堵の表情を見せる。
「平野さんが帰って来るまでには市も何とかするということでした。これまで、水路に橋をかけるなら費用は自治会が負担してくださいと言われてましたが。
警察と自治会と市が協力して、ようやく大きな一歩を踏み出したと思います。何らかの解決策を打ち出し安心して暮らせるようにとのことでした」と抜本的な解決策に期待を寄せる。
大回りの道は車の通行量が多く、お年寄りや小学生にとっては危険度が増す。たまたま通りかかる人もいる。いきなり怒鳴られれば大ゲンカに発展することだってある。
トラブルを防ぎ誰もが嫌な思いをすることなく通れる道路を実現するためにも堺市の一刻も早い対策が待たれる。