「タダで市有地をあげて、施設整備にかかるお金も半分出してあげて、そこまでして私立大学を建てにゃいかんのか、と思う。これだけ国会で疑惑が取りざたされていて、まさか認可されるとは思わなかった。疑惑が晴れないまま開学させるなんて、今治市民はバカにされとる」
と、今治市内で建設業『森建設』を営む森政行代表(73)は憤る。
認可前から進む工事
大学建設の仕事は1つも入ってこなかった。工事を請け負うことができた市内の同業他社はごく少数で、それも期待したほど儲かるレベルではないという。
森代表は、工事のため学校用地に出入りする岡山ナンバーのトラックを見るたび、「情けない気持ちがこみ上げる」日々を送っている。
林芳正文科相は14日、加計学園が国家戦略特区制度を使って愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画を認可した。同省の大学設置・学校法人審議会(以下、設置審)が9日付で開学を認めるよう答申したことを受けたもので、来年4月の開学が決まった。
前出の森代表は「認可を受けるずっと前から工事は進んどって、最初からこうなると決まっていたとしか思えない」と振り返る。
「最初は“今治に大学が来るのはええことじゃなあ”と、みんな言いよった。でも工事業者を選ぶのは加計学園だから市内の業者は1社を除きほとんど選ばれなかった。
メインは岡山県の業者で、今治市の業者に与えられたのは生コンクリートを打ち込む作業ぐらい。一定時間以内にやらないと強度が低くなるので現場に近い地元業者に任せたんだと思う」(森代表)
どれだけ国民から疑惑の目が向けられても、工事が止まることはなかった。外観上は完成に近い。市内の業者は不思議に思っていたという。
「どうして今治市民の税金を使ってヨソの業者を儲けさせないといかんのか。安倍首相が疑惑を責められていても工事は止まらんかった。もし認可が下りなかったら森友学園の小学校の二の舞いになっとった」(森代表)
ちょっとした観光名所に
今治市は加計学園に大学用地を無償提供するほか、施設整備費として最大96億円を供出するとしている。
同市選出の愛媛県の福田剛県議(民進党)は「そのうち32億円は誰が出すか決まっていない」と打ち明ける。
「市は最大64億円までしか出さないと市議会答弁で約束しており、残りは愛媛県に出してもらうつもり。県は加計学園を支援するつもりはないが、県と友好関係にある今治市を支援する気はあるというスタンスです」(福田県議)
愛媛県民の血税が今治市を経由して加計学園につぎ込まれるのであれば、結局、同じことではないか。
福田県議は、
「今治市長は認可が下りると自分のことのように“ありがとうございます!”と喜んだ。市の公共事業ではないのに。今治市では小学生の医療費が有料なんです。小・中学生で無料化している自治体もあるのに予算をつけない。もっと福祉にお金を回すべきです」
と訴える。
同県議によると、市民は獣医学部新設について「ようわからん」「勝手にやっとる」などと思いつつも、表立って怒りの声をあげる人は少ないという。自虐まじりにこんな話をしてくれた。
「もともとはタオルと造船の街ですが、“加計学園の今治市です”と言えば通りがよくなった。以前は『いまじし』と誤読されることもあったけれど間違える人が減った。
獣医学部が新設される学校用地は山の上で、人が寄りつかない場所なんですが、いまはちょっとした観光名所です。せっかくだから……と県外から見に来る人もいる。少しでも地元にお金が落ちるのであれば大歓迎ですが……」
と福田県議。
シュールすぎて愛想笑いもできなかった。
最終的に獣医学部新設を「可」と答申した設置審は、3月に加計学園の認可申請を受けてから実習計画の不十分さや高齢の教員が多いことなどについて“ダメ出し”をしてきた。
5月に是正意見7件の警告、8月に同1件の判断延期を経て、11月の答申でも8項目の留意事項が付記されている。“熟度の高い計画”ではなかったのか。
実験施設の真下は……
今治市に市民から寄せられている開学をめぐる意見の賛否と実数を質問すると、
《このたびの認可を受け、祝福の声が多く寄せられています。今治市民は圧倒的に開学賛成だと認識しています》(同市企画課)
と文書で回答。意見を集約していないのか、数字は示さなかった。
卒業生は今治市、愛媛県、四国に住みついて地元で活躍してくれるのか。同課は、
《公務員獣医師をはじめ、先端ライフサイエンス研究の推進による関連企業や研究機関の誘致、食の安全、品質保証分野、ブランド畜水産物の開発なども見込まれ、地元定着にも大きく貢献できるものと考えています》
とほぼ大学任せの姿勢といえる回答にとどまった。
同市の松田澄子市議(共産党)は「地震が怖い」と話す。
「感染症の病原体を扱う『BSL(バイオ・セーフティー・レベル)3』という実験施設が、10数年前に大地震が発生した場所に建設される。市内でも震度5強を観測したほど。工事は急ピッチで進んでいるけれど強度は大丈夫か」
と松田市議は心配する。
しかし、そんな地元の声に耳を傾けることなく、15日の衆院文部科学委員会の審議は堂々巡りに終わった。「総理の意向」が働いたのか解明されず、性善説の言い訳ばかり。それどころか一部の与党議員の質問内容はマスコミ・野党批判だった。
ジャーナリストの大谷昭宏氏は次のように指摘する。
「委員会は質問する場所であって、演説する場所ではありません。与党は質問時間を増やせと言っておきながら、とんでもない話です。安倍首相は加計孝太郎理事長を国会に呼べばいい。ゴルフに誘えば来る人なんですから。それとも来られては困るのか」
安倍首相は17日、所信表明で加計学園疑惑に一切触れなかった。衆院選前は「私の友人が関わることだから疑念の目を向けられるのはもっとも」として丁寧に説明すると話していたのに……。