「どこにいても居心地の悪さはまったく感じないですね。むしろ居心地の悪いところに飛び込んでいきたいタイプ。そういう場こそ、力をつけさせてもらえるという発想なんで」
大学在学中にスカウトされ、モデルとしてデビュー。その後、映画『ワンダフルライフ』でいきなり主演を務め、唯一無二の存在としてメジャー作品からメッセージ性の強い作品まで引っ張りダコの井浦新(43)。最新作である主演映画『光』では、東京の離島で閉塞感を感じながら日々を過ごしていた少年の25年後を演じている。
「役者志望でこの世界に入ってきたわけではなかったので、最初は演技の仕事は記念のつもりぐらいでやっていたんです。だから俳優という立場に自分の気持ちが追いつけなかったという意味では、閉塞感に近いものはありました。
始めたばかりのころは、芸能という仕事を知らなすぎて違和感があったというか。例えば、作品を撮り終わったあとに、こうして宣伝活動をするということも想像もつかなかったですし。もちろん作品に出させていただいた喜びや感動もあったけど、自分の居場所はここではないんじゃないかな、って思った時期もありました」
是枝裕和や蜷川幸雄など、そうそうたるクリエイターたちと仕事をすることで、役者としてもポジションを確立。そんな彼が、役者として愛してやまないと語り、共演を熱望していた瑛太と念願の初共演!
「瑛太くんは自分がイメージしていた以上に表現力のある役者でした。まだまだ演技の幅の広さや底知れなさを感じました。今回はお互いが本能のままに演じ、キャッチボールができたのもうれしかった。本能のままに演じるというのは、もろくて壊れやすい側面もあるので、危険な行為だと思うんです。でも、お互いが直感のままに感じたことをやり、作品として成立できたことは感動ですね。またどこかで一緒に仕事をしたいなって欲も湧いたけど、この“強烈な一発”を残せたことに喜びを感じています」
’11年、芸名をARATAから本名に改名して再出発
今回演じた信之は、島を襲った大津波がキッカケで再出発をすることになるが、彼自身も芸名をARATAから本名の井浦新に改名。’11年に再出発をした過去が。
「いつでもアルファベット(ARATA)に戻してもいいし。名前に関してはまったくこだわりはないです」
そう言いつつも名前を変えたのは、恩師のような存在だと語る故・若松孝二さんが監督を務めた映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』で三島由紀夫役を演じたことがキッカケ。《エンドロールで三島さんを演じた役者の名前がアルファベットで表記されるのは美しくないと思いました》とインタビューで語っている。
「若松監督の作品への思いに敬意を表すために、名前を変えさせてもらいました。いまだに“井浦さん”って言われるほうが気恥ずかしいし、慣れない。今回の現場でも瑛太くんにそう呼ばれて、“恥ずかしいからやめてください”って言ったほど」
劇中では父親役を演じているが、プライベートでも2児の父。普段はどんなパパですか?
「特別なことはしていないですよ。公園に行って遊んだり、子どもに向き合うべきことは全部やっている普通の父親だし、普通でありたいと思っています。子どもにもできるであろう趣味を一緒に共有して一緒に遊ぶことで、子どもの感性を知ったり、逆に自分も子どもにしかない感性を教わったりしています」
そんな家族の存在は、彼にとっての“光”になっているようだ。
「この作品の“光”はいろんな見方があると思いますが、僕にとっての生きる意味での“光”はやっぱり家族ですね。家族とは一緒にいるだけでも幸せなんですが、みんなで笑っていられるときは特にそう思います。
仕事で数日間、会えないことも多々あるんですけど、家族そろって子どもと身体を動かして、成長を感じながらどんなことを感じているかを知れることに“光”を感じます」
暴力的表現も含むためR15+指定となっている作品だが、素直に見てほしいと語る。
「芝居などの力が強いぶん、見る人によっては一見難しく感じてしまうところもありますが、ものすごく優しく作った作品だなって思っています。
この作品の本質はものすごくシンプル。ひとつのヒントとして、劇中に岡本太郎さんなどの芸術作品が出てくるのですが、登場人物たちが織りなす関係性と芸術作品をすりあわせると、ものすごくわかりやすいことがわかります。素直に楽しんでいただければ、見る人にとっての“光”も浮かび上がってくると思います」
<映画情報>
映画『光』
妻子とともに暮らす信之(井浦)の前に、25年前に犯した事件の秘密を握っていることをほのめかす輔(瑛太)が現れ……。出演/井浦新、瑛太、長谷川京子、橋本マナミ。11月25日(土)~東京・新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。