「朝にゴミを出すのを見るぐらいで、町内会にも入ってへんみたいやし、全然、付き合いもないからわからんなぁ」
と、近隣の70代の女性は首をかしげる。
自ら交番に出頭
事件現場となったマンションの所有者は渋い表情で、
「毎月、うちまで(家賃の)お金をもってくるんやけど、遅れることもあったし、どうにか払っていた感じやったわ。会うたびに“生活保護が減らされた”“児童手当が減らされた”って嘆いとってね。7月に3万円払ったのを最後に、ずっと滞納しとるんですわ」
11月20日、大阪府寝屋川市の高柳交番に、ひとりの女が出頭してきた。
「午前9時半ごろ交番を訪れ、1992年から'97年にかけて4人の子どもを産み、その子どもをポリバケツに入れ、セメントを流し込んだと話した」
と捜査関係者。出頭を受け自宅を捜索したところ、供述どおりに押し入れの奥から4つのポリバケツが出てきた。
大阪府警は同21日、確認できた1人の遺体を遺棄したとして、その女、同市在住のアルバイト、斉藤真由美容疑者(53)を死体遺棄容疑で逮捕した。
斉藤容疑者は'15年夏ごろ、現在住む3階建てのマンションに息子と2人で引っ越してきたが、以前はそこから約2キロ離れた同市池田旭町のアパートに住んでいた(現在は取り壊され更地)。
当時は2人の息子と3人暮らしの“シンママ”だった。
子ども好きで優しい素顔
息子の同級生の母親は、
「私が24年前にここに越してきたときにはいましたから、それ以前から住んでいたことになります。
上のお兄ちゃんは、今年で24歳。数年前にばったり会ったとき、“おばちゃん、彼女できたんや”って声かけてくれてね。今は結婚しているみたいですよ。下の子は今年18歳ですね」
周囲とほとんど接触せずに暮らしている現在とは違い、以前暮らしていた町内では、周辺との交流もあった。
「確か元夫との間には2人子どもがおったで」と知る古株の住民もいる。すぐ近くでは容疑者の母親が居酒屋を営んでいたが、10年ほど前に他界。母親と弟は、よく容疑者一家の住むアパートに出入りしていたという。
周辺の聞き込みで浮かび上がってきたのは、斉藤容疑者のやさしい一面、子ども好きの一面だ。
「家族は仲よかったな」と話す人もいた。容疑者一家が出入りしていた中華料理店の店主がそう記憶している。
「子どもらは素直で本当にええ子たちやった。“お金足りるかな”って母親にお金もらって2人でよく来てた。真由美さんは、お礼は言うし挨拶はするし、愛想はいい人やった」
近所の駄菓子屋の店主は、「子どもが好きな人で、他人の小さな子どもを見ると“うわぁ、かわいいなぁ”って頭をなでたりしてな」
と記憶をたどりながら話し、
「だから、こんなことしてるなんて思ってもみんかった。今も信じられん……」
と表情を曇らせた。
自宅が近かったという30代の女性は、やさしい一面について証言する。
「斉藤さんの家の向かいにもアパートがあったんやけど、そこに認知症のおじいちゃんが住んどってな。朝5時くらいに大声で叫びながら走り回るんよ。すると斉藤さんが出てきて、“おじいちゃん、大丈夫?”って声かけてな。
私はそれを寝ながら聞いていて、斉藤さんやさしいなぁって。自治会の役員を私がやったときも、“困ったことがあったら何でも聞いてや”って言ってくれてありがたかったんよ」
そこに住んでいた1992年から'99年の間に、斉藤容疑者は計6回妊娠。そのうちの2回は無事出産し2人の息子として育てたが、残りの4回は死産か出産直後に乳児を遺棄したとみられる。
父親の存在
誰ひとり斉藤容疑者の妊娠に気づかなかったのか。
近隣の40代の女性は、
「よう肥えとるしな。妊娠したってわからんねん」
と言い、
「一時期、50代か60代ぐらいの人が一緒に住んどった」
と男の存在を指摘する。
近隣の60代の男性が、男に関する情報を付け加える。
「その人は葬儀屋さんに勤めとったみたいでな。25年か30年くらい前やったか、気がついたら斉藤さんの家に転がり込んどったんやわ。いつの間にかおらんなってたけど5年もおったかどうか……。15年ぐらい前にも斉藤姓以外の表札がかかってたりもしたわ」
斉藤容疑者は逮捕後、「父親はすべて同じ人物」と供述。警察は父親への確認も含め捜査を進めているという。
父親に気づかれることなくバケツに遺棄したわが子の遺体を、現在のマンションに引っ越す際も、斉藤容疑者は手放さなかった。
座間事件の影響か
その理由を、犯罪心理学者で東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授に尋ねた。
「外に遺棄すれば発覚するかもしれない。いつかバレてしまうかもしれないと強い恐怖を感じていたのでしょう」
と指摘したうえでの読み解きは、神奈川の座間9遺体事件の影響だ。
「自首をするのは難しい。自分から刑罰を受けにいくわけですし、社会生活だって失う。よほどのきっかけがないと一歩を踏み出せない。連日報じられた座間市の事件を見て、自宅に遺体を置いておけば、何かしらのきっかけで踏み込まれるかもしれないと自分と重ねたところがあったのだと思います。
また、非常に強い罪悪感もずっと持っていた。だからどこかで、自分の犯罪が暴かれて贖罪したいという気持ちがあったのでは」
斉藤容疑者は取り調べに対して、「金銭的な余裕がなく、子どもを育てられないと思った」と供述しているが、出産前にそう見通せないところが致命的だった。
出口教授が再び指摘する。
「乳児の殺害遺棄事件を起こした女性を分析したことがありますが、共通するのは時間的な展望がないまま出産に至ってしまうこと。つまり自分の先々を予想して、それに対処する行動をとることができない。容疑者も社会生活を営むうえで十分な生活設計ができない人のように感じます」
教授の指摘を裏づけるように、
「生活は苦しかったはずやのに、パチンコ好きやった。子どもほったらかしてパチンコ行ってな。それでいて、元夫はパチンコばっかりするから別れたって。子どもが夜遅く“うちのお母ちゃん、知らん?”ってよう探してた。パチンコ行ってるとも言えんしな」(近隣女性)という証言、
「1か月200円、年間2400円の自治会費を、たいてい一括で払うんやけど、3か月ごとに分割で払ってな」(近隣の男性)という証言が次々と出てくる。どれも斉藤容疑者のいいかげんな“素顔”を裏づけるものばかり。
わが子の遺体をコンクリ詰めにし、20年以上も良心の呵責に苦しみ続けた斉藤容疑者。今やっと、子どもたちの声なき声が届いたのか。