古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第36回は樋口卓治が担当します。

タカアンドトシ 様

 今回、私が勝手に表彰するのは、漫才コンビ・タカアンドトシである。

タカアンドトシ

 日曜日ののどかな夕方の時間帯、テレビ朝日系で『帰れまサンデー・見っけ隊』(毎週日曜 16時30分)という番組の構成をしている。

 タカトシの二人が、ゲストとのどかな風景を歩いたり、地元のグルメを食べたり、一見、絵柄は平和そうに見えるのだが、実は日曜のゆったりした時間には似つかわしくない超過酷なバラエティーなのだ。 

 例えば「無人駅で飲食店を見つける旅」という企画がある。ローカル線にはいくつもの無人駅がある。始点から終点までをスゴロクのマスに見立て、サイコロの出た目の数だけ進み、無人駅に下車。そこから飲食店を探し、食事をすればクリア。シンプルな企画に見えるが、無人駅なめんなよ! と言わんばかりに近くに飲食店などないことが多い。その場合、タカトシはひたすら歩く。何キロも歩き、やっとたどり着いた店が休みだったり、まさかの撮影NGだったりする。

 都会でも、お腹すかせてお店に行って、そこが休みだったら、へこむことあるでしょ。そのサバイバル版なんです。

 かつて『帰れま10』で人気店の人気メニューベスト10を全部当て、食べ尽くすまで帰れない過酷ロケを長年やってきたタカトシが、また過酷なロケに挑んでいる。

 これが日曜の夕方にしては驚異的な視聴率を取っている。(せめて視聴率くらい良くなければ、タカトシが報われない……。)

 ロケ時間に比べ、オンエア時間が圧倒的に短い。「俺たちの苦労が全然伝わってねーじゃんか!」という声が聞こえてくるくらい、きれいに削ぎ落とされている。削ぎ落とされても過酷に見えるロケなのがすごい。1万個ドミノを並べオンエアが5分、みたいな感じの怒りだと思う。

 働き方改革とかいろいろ言われてはいるが、タカトシは本当によくやっている。またうんざり気味の同録(トーク)が面白いのは、腕のある漫才師の証でもある。

 この番組の本当の面白さは過酷さでなく、普段、テレビじゃ見られない出会いだ。いきなり山深い村にタカトシが現れる。

 ばったり会った人の「なんで?」という顔が素敵だ。子供の頃、芸能人を見て、大興奮したことを思い出す。あの顔が見たくてチャンネルを合わせる。

 紹介し尽くされたグルメ番組のお店ではなく、地元の人しか知らないお店に新鮮さを感じる。何キロも歩いた果てに食べる飯はまずいはずがない。

 出会い、ふれあい、美味しい顔、それを見たくてチャンネルを合わせている。ナレーションでうまさを煽(あお)ったりしないし、タレントの手垢にまみれた食レポもない。すべてがリアルなのだ。

 ただ一つだけ心配なことがある。

 これから冬がやってくる。いや、もうやってきている。雪も降るだろうし、北風もビュンビュン吹くだろう。その時、タカトシがマジでブチギレないか、今からそれが心配なのである。見てみたいけど(笑)。

<プロフィール>

樋口卓治(ひぐち・たくじ)

古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。