「タバコミュニケーション」という言葉が死語となる日も遠くないかもしれません

 喫煙者が黙認されている「たばこ休憩」。勤務時間中に度々席を外すことに、快く思わないノンスモーカーもいるのではないでしょうか。

 一方、分煙・禁煙の流れが加速し、喫煙者は肩身の狭い思いをすることが多い昨今、「たばこ休憩まで奪われたら、仕事がはかどらない」という意見もあるでしょう。

 企業は喫煙者と非喫煙者、双方の立場にどう配慮するべきなのか。ワークルールの観点から、職場の喫煙問題について考えてみます。

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30~40代男性の喫煙率は4割超

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、政府は「健康増進法」の法改正を含め、受動喫煙防止対策を強化する方針です。

 しかし、規制強化については賛否が分かれ、都の受動喫煙防止条例の制定に反対する署名活動が起こるなど、慎重な議論が求められています。

 喫煙率は男女ともに減少傾向であるとはいえ、男性30~40代の喫煙率が4割超(厚生労働省『平成28年国民健康・栄養調査』)と、依然として高い水準であることが背景にあります。

 健康増進法では、受動喫煙の被害における責任を、たばこを吸う人ではなく、その場所を管理する事業主としています。そのため、今や「職場では全面禁煙」が当たり前になっていますが、一方で喫煙者のために喫煙スペースを確保している企業が多いのも実情です。

 分煙を徹底するために、喫煙場所をデスクから離れた場所に置くのは珍しくありません。そのため、「たばこ休憩」に要する時間もそれなりにかかり、一日に何度もあると、なぜ喫煙者ばかり休憩を多く取ることが認められるのか、不満を持つノンスモーカー社員もいます。

星野リゾートは喫煙者の不採用を明言

 ホテル大手の「星野リゾート」は、他社に先駆け1994年から喫煙者の不採用方針を明確に打ち出し、現在も取り組みを続けています。その理由として、「ニコチン切れ」による集中力の低下や喫煙スペースの無駄、非喫煙社員の不公平感を挙げています。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 これらが「企業競争力に直結する」問題として捉え、採用サイトでは喫煙者に対し「入社時にたばこを断つことを誓約して頂ければ、問題なく選考に進んでいただくことは可能です」と明記するといった念の入れようです。

「喫煙者を不採用とすることは、問題ではないか?」という意見もありますが、企業が誰を採用するかは、基本的に企業の自由といえます。「喫煙の有無」を採用の選考基準とすることは、法的に問題ありません。

 募集・採用について差別に当たるものとして挙げられるのが、性別と年齢制限です。男女雇用機会均等法において、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」とされています(同法第5条)。

 また、労働者の募集・採用の際には、原則として年齢を不問としなければなりません(雇用対策法第10条)。例外的に年齢制限を行うことが認められる場合もありますが、具体的な事由が定められているため、都合のよい勝手な解釈で年齢制限を設けることはできません。

 喫煙者へのルールを作る企業が多い中で、非喫煙者を報いる制度を設ける企業も少ないながら存在します。マーケティング支援会社「ピアラ」(東京都渋谷区)は、2017年9月からたばこを吸わない社員に年間最大で6日間の有給休暇「スモ休」を与える制度をスタートしました。

 きっかけは、「たばこ休憩は不公平」という社員からの意見。オフィスのある29階には喫煙所がないため、たばこを吸うには地下1階まで降りなければならず、喫煙1回あたり10~15分の休憩を取っているのと同じだと、非喫煙者から不満の声が上がりました。

 そこで導入されたのが、「スモ休」なる有給休暇制度。過去1年間にたばこを吸っていないことが条件で、労働時間の不平等感の解消と禁煙促進を図るためにスタートされ、社内では好評だそうです。

公務員のたばこ休憩は「税金の浪費」か

公務員によるたばこ休憩に関しては、その間の給与が税金で賄われていることになり「税金の無駄遣い」という別の議論も起こっています。

 横浜市では2016年、「市職員の喫煙者約4000人が1日35分のたばこ休憩(移動時間含む)を取った場合、年間で約15億4000万円の損失になり、時間にして計19日間休んだことに相当する」という試算が予算特別委員会局別審査において市議によって提示され、波紋を呼びました。

 市職員の勤務時間中の喫煙に関しては、休息の一部として度が過ぎていない限り認める自治体が依然として多いものの、禁止する自治体は増加傾向にあります。

 就業時間中において、会社が喫煙を禁止するルールを設けること自体は、職務専念義務もあり、違法ではありません。たばこ休憩を認める場合でも、1日の回数を設けることは可能です。

 一方、本来の「休憩時間」は、自由利用の原則がありますので、本人の休憩時間までも禁止することは難しいといえます。ランチタイムの一服でリフレッシュされる方もいるでしょうし、同僚とのコミュニケーションを図るために必須と考えている方もいるでしょう。

 ただし、他の社員にも悪影響を及ぼすような場合は、休憩時間であっても職場内における喫煙を禁止することは可能です。

 言うまでもなく喫煙はさまざまな疾病の危険因子です。従業員の健康管理を戦略的に実践する「健康経営」を経済産業省が企業に促していることもあり、禁煙を呼びかける企業の動きは加速していくものと思われます。

 社員が健康になれば、生産性の向上や企業のイメージアップ、社会保険料の削減など経営面のメリットも多くあります。企業においては、禁煙に向けたサポート策をはじめ、健康への取り組みがますます求められていくでしょう。


佐佐木 由美子(ささき ゆみこ)◎人事労務コンサルタント/社会保険労務士 グレース・パートナーズ株式会社 代表取締役。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、同社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に『採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本』をはじめ、新聞・雑誌等多方面で活躍。グレース・パートナーズ社労士事務所の公式サイトはこちら