このところ、よく耳にする新型栄養失調。現在、多くの日本人が老若男女を問わず、無自覚のまま、栄養失調状態に陥っているという。もしかすると、あなたの不調は栄養不足が原因かも? たくさん食べているのに栄養が不足するメカニズムとその解決法をお教えします。
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貧血やむくみ、疲れやすいなどの体調不調があり、受けた診察の結果はなんと栄養失調! 毎日しっかり食べているのに、なぜ!? そんな驚きの事態に陥っている人が、最近増えています。
「量は十分摂取していても、さまざまな原因により必要な栄養をとれていない。近年増えているのは、“隠れ栄養失調”とも呼ばれる、新しいタイプの栄養失調です」と語るのは、理学博士で栄養士の八藤眞さん。その原因とは、食べ物のとり方。
「バランスが悪く偏っているんです。また、消化・吸収がうまくできていなかったり、必要以上にカロリーをとりすぎている場合も。こうしたことがすべて栄養失調につながります」
そう言われると、自分の食生活にも思い当たる原因があるような……。そこで、老化や不調を招く隠れ栄養失調を予防・改善する方法を解説します!
食べているつもりでも栄養が十分でないカラクリとは?
身体に必要な栄養として、タンパク質、脂質、糖質(炭水化物)の「三大栄養素」というのは、誰しも1度は聞いたことがあるはず。
「三大栄養素は、身体をつくる原料となったり、エネルギーを生み出す燃料として、とても大切な栄養素です。しかし、三大栄養素だけをとっていれば健康を保てるとはいえません。三大栄養素の働きを調整し、助ける役割を果たすのが、ビタミン、ミネラル、そして繊維。この3つを合わせて六大栄養素といいます。
これらがそろわなければ、三大栄養素はエネルギーや身体の原料として上手に働くことができず、結果的に肥満や不調を招くことになるのです」
その点を踏まえ、現代の日本人の食生活を見てみると、問題点が浮き彫りに。
「食べる組み合わせが悪く、栄養価のバランスがとれていない。タンパク質、脂肪、糖質の三大栄養素はコンビニ食でも十分にとれますが、それを左右するミネラルとビタミンが足りていないために、結果的にとった栄養が無駄になってしまっているんです」
つまり、カロリーは足りていても、代謝に関わるビタミンやミネラルが不足している“高カロリー低栄養素”な状態に。
さらに、タンパク質は肉や魚や豆類、脂質は油類、糖質はパンやご飯、麺類と、食品が目に見えて過不足がわかりやすいのに対し、ビタミンやミネラル、繊維は野菜、果物、海藻をはじめとするさまざまな食品に少量ずつ含まれているため、バランスよくとるのが難しく、不足しても自覚しにくいのも厄介な点です。
食事のベストバランスへの近道
六大栄養素も上手に生かすには、とり方にポイントが。
「1日2食や1食主義という方もいるようですが、1日24時間という地球の生理と人間の身体のサイクルから考えると、1日3食とるのがいちばん効率よく身体に吸収され、健康を保てる食べ方といえます。また食べる量は3食とも同等のカロリー、量で分けるのがおすすめです」
栄養の割合では、炭水化物を全体の60%、残りの40%がタンパク質と脂質というのが基本。ただし、これも正しくとるには調整が必要。
「例えばタンパク質なら、必須アミノ酸が多いものを一緒に食べないと、十分に吸収されずに流れてしまいます。脂質もとりすぎれば悪者になりますし、ビタミン・ミネラルも、摂取のバランスによって働きが変わってしまいます。
つまり、栄養は複合的に成り立っているためバランスが重要。ですから、単品ではなく、なるべく多くの食材をとるのが効率のいい食べ方といえます」
そんな中でも、年代別の傾向として40代までの女性は鉄分、50代以降はカルシウム、60代以降はタンパク質が不足しやすいので、補給を心がけたい。
【健康につながる栄養素の組み合わせ例】
★炭水化物×ビタミンB1
ビタミンB1を一緒にとることで、糖を効率よくエネルギー源にできる。
★鉄×ビタミンC
ビタミンCが鉄の吸収をサポート。貧血の予防、改善に役立つ。
★カルシウム×ビタミンD
ビタミンDが不足しがちなカルシウムの吸収を助け、骨の代謝にも関わる。
食事内容を書き出してマンネリ&偏食を自覚する
日々の食生活のバランスを整えていくにあたり、まずやってみてほしいのが、食事メニューを書き出す方法。
「まずは1週間、朝、昼、晩に自分が食べたメニューを記録してみてください。すると、たった7日間でも、同じものを何度も食べていることに気づくと思います。そこでピンとこない人は、2週間から1か月続けてみると、自分の食の傾向がより顕著に見えてくるはずです」
これまでなんとなく食べていた食事内容の偏り具合が、文字にすることで明確に。
こうして現状を自覚することが、隠れ栄養失調予防&脱出の第一歩!
掛け合わせでバリエ広がる“3×4=12調理法”
改善が必要だと自覚できたものの、食材の栄養バランスを調整して調理するのはなかなか難しいもの。
「毎日、食材ひとつひとつの栄養まで考えて、ぴったり栄養をコントロールしようとするととても大変ですし、それだけで疲れてしまいますよね。細かい分量や割合は気にしなくていいので、とにかく1か月間、同じ料理を食べないようにしてみましょう」
1か月分のメニューを考えるなんて無理!! と、思わず投げ出したくなった方に、八藤先生が提案してくれたのが『3×4=12調理法』。
「和風、洋風、中華風、3種類の味つけに、焼く、煮る、揚げる、蒸すという4種類の調理法を掛け合わせれば、1つの食材だけで12種類。さらに調理法に生を加えれば15種類のメニューが作れます」
和、洋、中の味つけは、調味料の使い方である程度、決められます。例えば、しょうゆ、みそ、みりんを使えば和風に、ソースやケチャップ、ブイヨンで洋風、豆板醤やごま油、オイスターソースを使えば中華風に。これらを上手に使い分けることで、意外と簡単にバリエーションも広がります。
〈プロフィール〉
八藤 眞さん◎理学博士、栄養士、調理師、衛生管理者、日本未病システム学会学術評議員。FLI 食と生活情報センター会長。栄養学、食問題などの講師を務めたり、執筆活動も。著書は『毎日きちんと食べているのに栄養失調ってどういうこと?』(マガジンランド)など多数。