ドラマで“ゆとり世代”役を演じた、左から成田凌、新木優子、永山絢斗

「僕も失礼します」「僕も」

 勤務終了時刻の午後5時、上司がまだ仕事の話をしている中、若手医師たちが次々と帰る準備を始める─。

ゆとり世代が生まれた背景

 放送中のドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)でのワンシーンだ。永山絢斗らが演じる、非常識で怖いもの知らずな“ゆとり世代”の役が放送後から話題になっている。

「作中でのゆとり世代の描かれ方に賛同する声もありますが、《ゆとり世代バカにしすぎ》《空気読めないのとゆとりを一緒にしないでほしい》など、ネット上では批判する声が多数あがっていますよ」(テレビ誌ライター)

 近年、ゆとり世代が登場するドラマは多い。

 放送中のドラマ『コウノドリ』(TBS系)では、宮沢氷魚が演じる赤西吾郎が、空気が読めない研修医役を演じている。前クールに放送されていた『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)でも、Hey! Say! JUMPの有岡大貴、成田凌、新木優子らがゆとり世代のフライトドクター候補生として登場。

 また、昨年4月に放送され、今年の7月にはスペシャルにもなった『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)でも、太賀演じる山岸が“ゆとり”モンスター社員として描かれた。

 強烈なイメージのゆとり世代だが、どういう背景で生まれたのだろうか? 長年、若者を研究してきた博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平氏によると、

「定義はあいまいなのですが、一般的にはゆとり教育を受けた人たち=ゆとり世代ということになります。ただ、この年からゆとり世代というものではなく、段階的に移行していったものなんです。一般的にゆとり世代といわれるのは、今の20代くらいの人たちですが、実は今の30代も上の世代から見ると、ゆとり世代になります」

 ゆとり世代の仕事に対する姿勢は、生まれたころから続く平成不況も大きく関係する。

「彼らはデフレ経済の中を生きてきました。今は、努力すれば努力したぶん報酬やメリットにつながるという時代ではありません。徹夜で働いて残業代をもらうというのも今は難しい。だから、ほどよく働いて定時に帰るというタイプなんです」(原田氏)

ドラマでは重宝する“ゆとり世代”

 ある意味、合理的ともいえるゆとり世代。コラムニストのペリー荻野氏は、彼らがドラマで悪いように描かれているのには、テレビ局側の狙いがあると語る。

ゆとり世代は、いちばん“テレビ離れ”と呼ばれる世代なんですよ。物心ついたときからネットが普及していた世代ですから、テレビをほとんど見ません。そういう育ち方をしている人たちを、テレビを見るように引っ張り込む作戦のひとつだと思いますよ。

 ゆとり世代をドラマで取り上げると、怒る人も多い。そういう反響があるということは、番組を作る側からしたら勝ちです」

 ストーリーを作る観点でも、実はゆとり世代は重要な役割を担っているのだそう。

「上司との飲み会に付き合わない、指示待ちするなどキャラがわかりやすいので、世代間のギャップを描きやすいのです。

 例えば、『ドクターX』でいうと、ガンガン出世することを目標にする西田敏行さん世代、少し斜に構えたアラフォーくらいの米倉涼子さん世代、そしてゆとり世代の三層で描かれています。それぞれの価値観が異なり、キャラが立ちやすくなるんです。

 『コード・ブルー』では、若手医師3人は物語が進むごとに成長しました。キャラクター像がしっかりしているので、変化もわかりやすいです」(ペリー荻野氏)

 ゆとり世代がいるとドラマのカラーをはっきりと出すことができ、上の世代と対比しやすいので重宝されている。

 しかし、原田氏によると、ドラマ内の姿は実際の若者と大きくかけ離れているという。

正直なところ、ドラマでは今の若者ではなく、ひと昔前の団塊ジュニア世代が若いころの姿を、今の若者のダメな姿として描いているように思います。ひと昔前の若者は、“メモを取れ”と言われると、“記憶しているのでいいです”と反抗的、挑発的でした。

 日本全体が高齢化していることで、ひと昔前の若者像を描いたほうが“今の若者ってダメだよね”と視聴者の安心感を得られるのでしょう。実際の若者像を描かないほうが、共感を得られるのかもしれません」

仕事ができないわけではない

 では、もっとリアルに描くとしたらどうなるのだろうか。

「ゆとり世代は、メモを取るように言われればメモを取ります。上司には逆らわないのですが、やることが終わったらさっさと帰るなど、のれんに腕押しな感じです。会社はお金を得る場と思っているので、自己実現や夢などアツい気持ちもないのです。

 ですから、『ドクターX』の米倉さんや『コード・ブルー』の山下智久さんが、“言ったことはやるんだけど、それ以上はやらないんだよな……”と嘆くような感じに描けば今の若い世代らしいんですけどね」(原田氏)

 どうも手応えのないように感じられる彼らだが、教育社会学者の福島創太氏は、ゆとり世代を仕事ができないわけではないと評している。

「この世代は学生時代に『関心・意欲・態度』が成績評価に入っていました。テストで高得点をとっても『関心・意欲・態度』が低ければ評価されないこともありました。

 自分のやりたいことや意欲を評価される時代を歩んでいるので、会社に入ってからのパフォーマンスより自分のやりたいことを重要視する人も少なくありません。そこがはまれば活躍の場もありますよ

 自分の意思を大切にするということは、短所と表裏一体でもあるそうだ。

「すでに決まっていることに対しても、“本当にそうなんですか?”“もっとこうしたほうがいいんじゃないでしょうか”と言ってしまうことが、上の世代からはへりくつに見えてしまいます。

 既存のやり方に疑問を抱くと、場合によっては作業の遅れにつながる場合もあります。ただ、“なぜそれをやるのか?”という本質的なことを考える場合にはゆとり世代は向いているように思います。

 現代はイノベーション(技術革新)や多様性が求められるので、新しいものを生み出す企画や開発に強みを発揮すると思います。またこれからはどんな仕事でもそういった素養が求められていくと思います」(福島氏)

 これからの日本を“ゆとり”ある国にできるのは、ゆとり世代なのかもしれない!