箱根駅伝は母校の襷をつなぐ学生たちの熱いドラマ。前哨戦は東海大と神奈川大が制し、青山学院大4連覇に暗雲が!? 大混戦必至! 今回はテレビ解説でおなじみの碓井哲雄さん(神奈川工科大学陸上競技部監督)に独自ルール&コース解説してもらいます。
箱根駅伝キホンのキ~PART1
■そもそも箱根駅伝とは?
正式名称は『東京箱根間往復大学駅伝競走』。東京・大手町の読売新聞社前から神奈川県・箱根町の芦ノ湖までの217・1kmを10区間に分け、21チーム・各大学10人のランナーが、母校の襷(たすき)をつなぐ駅伝レースだ。1月2日が往路、3日が復路。
「1920(大正9)年に始まり、’18年で94回目を迎えます」(碓井さん、以下同)
■出場できる大学は?
関東学生陸上競技連盟に入っている大学のうち、前回大会でシード権を獲得した10校と、予選会を通過した10校。さらに関東学生連合を加えた21チームが出場する。
「基本的には、関東の大学のみの出場です。なお、第100回大会となる’24年には全国化も検討されているようです」
■シード権とは?
10位以内に入った大学には、翌年の大会に出場できる“シード権”が与えられる。11位以下でシード権を獲得できなかった場合、予選会にまわることに。
「10位と11位は雲泥の差。前回大会でシード権を逃した日本大や明治大は、今回の予選会を突破できませんでした」
■予選会とは?
毎年10月に開催される。コースは東京の陸上自衛隊立川駐屯地~国営昭和記念公園の20km。各大学10~12人がいっせいに走る。上位10名の合計タイムを算出し、上位10校が本選へ。
「近年は、約50校が参加しています」
■襷とは?
仲間の汗と思いが込められた襷を、途切れさせるわけにはいかない。選手が意地をかけてつなぐ、母校の襷。中継所で、次の走者に手渡すこと(襷リレー)によって、走者&区が変わる。どの大学も“全区間、襷をつなぐ”ことが最低目標。そのうえで優勝やシード権を狙っている。
「第66回大会(’90年)の6区では、亜細亜大の選手が襷を忘れるという珍事件が。20mほど走ったのちに、取りに戻って再スタートしました」
■エントリーとは?
例年、12月10日の“チームエントリー”によって、各大学の出場選手は16人に絞られる。さらに12月29日の“区間エントリー”で、各区を走る10選手+補欠6人が登録される。当日のエントリー変更は、区間登録された選手と補欠選手の入れ替えに限り、4人まで。
箱根駅伝キホンのキ~PART2
■外国人留学生とは?
10区間のうち、外国人留学生は1人に限ると決められている。初めて登場したのは第65回大会(’89年)。山梨学院大のジョセフ・オツオリさん。外国人留学生を起用したことがあるのは山梨学院大、日本大、拓殖大、亜細亜大、創価大、平成国際大、東京国際大の7校のみ(予選会を除く)。
■関東学生連合とは?
予選会を通過できなかった大学から、個人成績が上位の選手を集めたチーム。オープン参加なので、チームや個人に順位はつかない。ただし、個人の記録は認められる。選出は、1校から1名のみ。
「さらに、今回の大会から“本戦出場がない”という条件も加わりました」
■繰り上げスタートとは?
トップの選手が中継所に到着してから、決められた時間内(2、3区は10分、以降の区は20分)に中継所に走者が到着しないと、次の走者が強制的にスタートさせられる“繰り上げスタート”になる。その場合、母校の襷ではなく、大会本部が用意した“白襷”で走ることになり、屈辱。しかし失格ではなく、タイム差はきちんと計算される。
「繰り上げスタートになっても、往路と復路のゴールとなる5区と10区は、自校の襷の使用が認められています」
■時間差スタートとは?
往路の5区でトップの大学がゴールしてから、10分以内にゴールできれば、翌日の復路(6区)をそのタイム差でスタートできる。しかし、10分以上遅れた大学は、トップのチームが走り出した10分後に、いっせいにスタートする。
「復路は見た目の順位と本当の順位が違うことも多いので、わかりにくいかもしれません」
■途中棄権とは?
ケガや体調不良などで、選手が走り続けられない場合は監督、走路員、審判員の三者合意によって赤旗が上がり、途中棄権となる。棄権した区以降のランナーも走りはするが、オープン参加扱いに。順位はつかず、記録も認められない。当然、次回大会は予選会から出場を目指すことに。
■往路優勝、復路優勝、総合優勝、完全優勝
往路優勝は、往路を1位でゴールしたチーム。復路優勝は、“復路だけ”のタイムがいちばん速かったチーム。そして全チームが目指す総合優勝は、2日間の総合タイムで決まる。さらに、1区から10区まで“1度もトップを譲らずに”勝つのが完全優勝だ。
「39年ぶりに完全優勝を果たした’16年の青学大は、記憶に新しいですね」
■区間賞?金栗四三杯?
選手の誰もが憧れる名誉・区間賞。各区間でタイムがいちばん速かった選手に贈られる。もらえるものは、賞状とトロフィー。さらに、最優秀選手(1人)に贈られるのが『金栗四三杯』。’04年に創設された。
「過去には“元祖山の神”の今井正人さん(順大)、“2代目山の神”の柏原竜二さん(東洋大)、“3代目山の神”の神野大地さん(青学大)など、そうそうたるメンバーが受賞しています」
コース&勝負ポイントがわかると、もっと楽しい!
箱根駅伝は、高層ビル群や湘南の海、箱根の山など、変化に富んだコースも魅力。その特徴や勝負を左右するポイントを、碓井さんが解説。
■1区:スピードランナーが集結
東京・大手町にある読売新聞社前を、午前8時にスタートする。オフィス街を走るフラットなコースだが、“新八ツ山橋”と“六郷橋”が駆け引きのポイント。集団を飛び出す選手は出てくるか? それとも団子状態で牽制し合い、ラスト勝負となるか?
「1区は駅伝全体の流れを作る重要な区。各大学ともチーム屈指のスピードランナーを起用してきます」(碓井さん、以下同)
■2区:エースのぶつかり合い
各大学のエースがプライドをかけて対決する“花の2区”。23・1kmは、復路の9区と並ぶ最長区間だ。2区最大のポイントは、難所として知られる“権太坂”。その高低差は約50m! さらに、中継所の手前にも急坂があり、エースの顔も苦痛にゆがむ。
「“ごぼう抜き”も2区の楽しみのひとつですね。駅伝の醍醐味です」
■3区:準エース区間
前半は、遊行寺の交差点付近まではゆるやかな下り。浜須賀歩道橋を過ぎ、海岸線に出ると、正面に富士山がお目見えする。各大学は往路でのリードを確実にすべく、準エース級を投入する傾向が。
「平坦なコースなので、選手は走りやすいです。でも、海沿いは、風の影響を受けやすい。体重の軽い選手は向かい風が強いと不利になります」
■4区:もはやつなぎじゃない
かつては“つなぎの区”と言われたが、前回大会から距離が長くなり、重要度がアップ。名勝・旧東海道松並木などを抜け、国道1号線をひた走る。
「4区は酒匂橋など、橋が10か所もあります。小刻みなアップダウンに対応し、ペースをしっかり刻むことが大切です」
■5区:名物・山上り
箱根駅伝を象徴する“山上り”。前回大会から距離は短くなったものの、小田原中継所から芦ノ湖までの標高差は800m以上。難コースであることに変わりはない。
「実はラスト4kmは急な下りなので、切り替えも重要です。最近では、5区で驚異的な走りをした選手は“山の神”と呼ばれますね。今回は現れるでしょうか?」
■6区:山下りは度胸試し
6区は“山下り”。国道1号線最高地点までは上り、そこから箱根湯本まで一気に下る。
「下りの平均速度は、時速25kmにも達します。恐怖心に打ち勝つ度胸が必要。大平台など急カーブが多く、コース取りも難しい。平らな道が、まるで上り坂に感じられる最後の3kmは、特に踏ん張りどころです」
■7区:気温差ナンバーワン
前半の小田原市内はほぼ平坦な道のりだが、国府津駅付近から小刻みなアップダウンが続く。
「最初は山から吹き下ろす風で冷え込んでいますが、次第に気温は上昇。全区間中、最も気温差が激しい。ペース配分、水分補給や体調管理がポイントです」
■8区:長~い遊行寺の坂
スタート直後は相模湾を右手に、まっすぐ進む。湘南新道へ入って10km過ぎに小さなアップダウンが。
「残り5km地点が最大の難所。約500m続く“遊行寺”の急坂が待ち構えています。前半と後半で走り方を変えなければならない、タフなコースです」
下位チームの襷リレーにハラハラするのも、例年だいたい8区以降。
■9区:復路のエース区間
2区と並ぶ最長距離で、“復路のエース区間”といわれている。
「9区では、勝負を決定づけるような走りができる選手が配置されますね。また、戸塚中継所を出てすぐの下り坂や、権太坂での飛ばしすぎには注意です。後半、ペースダウンしてしまいますから」
■10区:襷を確実にゴールへ
20km付近までは1区を逆走。最後は、銀座通りから日本橋を渡り、ゴールの大手町に向かう。
「アンカーには襷を確実にゴールへ運ぶ、安定した走りが求められます。さらにゴール直前で競り合いになった場合、スプリント力が順位に直結します」
〈profile〉
碓井哲雄さん◎’41年生まれ。箱根駅伝に3度出場、中央大6連覇に貢献。中大コーチ、本田技研工業監督などを経て、現在は神奈川工科大学陸上競技部監督。箱根駅伝のテレビ解説を務めて24年。