いよいよ本格的な冬が到来! 有名声優の突然死が話題になったけれど、気温の低下とともに血管トラブルのリスクも急増。「健康には自信がある!」と過信していると、突然死を招くおそれも。そんな冬に気をつけたい“まさかの病気”をスペシャリストが徹底解説します。

写真はイメージです

話題の『血圧サージ』があなたを襲う

 すでにインフルエンザは全国で流行入り、日本列島は厳しい寒さに見舞われている。それでも、手洗い、うがい、マスクで対策はバッチリ……なんて思っていたら大間違い! 冬には40代以降が気をつけたい病気がたくさん潜んでいる。

なにより気をつけてほしいのは、命を落とす危険性のある血管の病気です。急性心筋梗塞による死亡は秋から上昇し、12月から1月にかけてピークを迎えます」

 そう指摘するのは血管の病気に詳しい池谷敏郎先生(池谷医院院長)。

 2017年11月、人気アニメ『それいけ!アンパンマン』のドキンちゃん役などで知られる声優・鶴ひろみさんが、『大動脈解離』で亡くなったことは記憶に新しい。胸部や腹部の太い血管が裂ける病気だ。

「大動脈が裂け始めると激痛に襲われ、裂け目が心臓に達すると心臓の周囲に血液がたまって命にかかわります」(池谷先生、以下同)

 大動脈は、心臓から出た血液を全身に送り出す重要な通り道。そこでトラブルが生じると突然死を引き起こすことも多い。

「動脈硬化が進むと、血管のところどころに血液がよどんで膨らむ“瘤”というものができます。これが大きく成長し破裂してしまう病気が『大動脈瘤破裂』です。破裂すると体内に大量出血し、高い確率で命を失います」

 厚生労働省の’16年統計によれば、日本人の死因2位は心疾患、4位は脳血管疾患。およそ5人に1人が血管の病気で亡くなっているという計算だ。

 このほか、血管トラブルの影響は多岐にわたる。

「冷え性の女性に注意してもらいたい。痛風は男性の病気というイメージがありますが、女性もかかります。血液中に多くなった尿酸が関節にたまって痛みを引き起こし、冷えている場所にたまりやすくなります」

 加えてこの季節は、暖かい室内から寒い屋外へ移動するなどして温度差を感じる機会が多くなる。寒暖差が激しいと自律神経の乱れや、血管の収縮・拡張のコントロールの不調を招きやすくなり、さまざまなトラブルを引き起こす原因に。

「外気温が低く室内との温度差が大きくなると、血管の過度な収縮などにより血行障害が生じ、炎症が引き起こされてしもやけをはじめ皮膚トラブルが生じやすい。また寒暖差で粘膜からアレルギー症状のもととなるヒスタミンなどが分泌される『寒暖差アレルギー』の場合、鼻炎や慢性的な咳が2週間以上も続く『咳ぜんそく』などの症状が悪化するおそれがあります」

 冬に血管の病気が増える原因は、血圧が大きく影響している。

「冬は寒さにより血管が縮み、血圧が高くなりやすい。血圧が上がると血管への圧力が高くなり、もともと動脈硬化などで血管にダメージがある場合、血管が詰まり破裂するなどの症状が起こります

 特に、寒い日の朝は要注意。『血圧サージ』と呼ばれる現象が起こりやすい。

「モーニングサージとも呼ばれ、血圧が朝、一時的に異常に高くなり、脳卒中や心筋梗塞などの血管事故のリスクが高くなるので気をつけたいですね」

 そもそも血圧は、常に一定というわけではない。「自律神経の交感神経が高まる状態では誰もが一時的な高血圧になります。亡くなった鶴さんは首都高速道路を運転中に大動脈解離を引き起こしたそうですが、運転中は血圧が上がりますし、特に高速道路では高くなる傾向にあります」

 たとえ健康診断で正常でも、読者世代ともなれば、誰もが血圧リスクを抱えているのだ。

更年期から加速する血管の老化、健診では見過ごしやすいワケ

 高血圧は血管トラブルを起こす大きな危険因子。

「例えば、ホースに大量の水を流したとします。ホースが傷んでやがては破裂しますよね。高血圧はこれと同じ状態。血管壁を傷つけて動脈硬化を促進させて、血管が詰まったり切れたりする引き金にもなります

 そう池谷先生は注意を促す。高血圧が怖いのは、自覚症状がなく進行することにある。

低血圧だからと思い込み血圧を測定していなかったら、すでに高血圧領域に入っていたというケースは少なくありません。特に更年期になると女性は体質が変わるので要注意。若いころの体質のことは忘れて、今の自分の身体と向き合いましょう」

 女性は更年期を迎えると、加齢に伴い急激に血圧が高くなっていく。閉経前は女性ホルモンによって守られていた血管が、更年期以降に女性ホルモンのエストロゲンが減少することによってもろくなるからだ。動脈硬化も男性並みに進行する。

「ここ数年、健康診断を受けていないという方は、きちんと血圧を測ってみることをオススメします」

 まずは、正しい血圧を知ることから始めてみよう。

■診療室では低い仮面低血圧とは?

 病院で測ると血圧は低いのに、それ以外では高くなることを“仮面低血圧”と呼ぶ。池谷先生によれば、「職場や家庭ではストレスで高血圧なのに、病院に来ると落ち着いて正常血圧になる人がいます。反対に“白衣高血圧”といって病院で血圧が上がる人も。やっかいなのは病院だけで血圧が下がる人のほうです」

 診療室での測定数値は問題ないので見過ごしていたら、夜間から早朝にかけて高血圧が続き、心筋梗塞や脳卒中に……という例は珍しくないそう。

「早朝は健康な人でも血圧が上がる時間帯ですが、上がり方が激しいと危ない」

 また睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)があると“夜間高血圧”の危険性が高くなると指摘する。

 前述のとおり、血圧は1日のなかで変動し、通常であれば睡眠時には低く安定している。ところが、夜も高いまま下がらなければ動脈硬化が進み、狭心症や脳梗塞などの引き金になりかねない。

 またSASを発症すると、睡眠中に呼吸停止や低呼吸に陥る。

「SASはメタボ体形の方に多いイメージがありますが、やせていてもかかります。小顔であごが小さい女性は特に危険。ただでさえ気道の面積が狭いのに、のども加齢とともにたるむため、寝ている間に呼吸を妨げてしまうのです

 早朝の血圧が高い人を調べてみると、SASが原因だったというケースも少なくない。

 これらの兆候を少しでも早く察知するには、家庭で血圧を測ることがオススメ。その際、測り方と測るタイミングに気をつけて、と池谷先生。

「正しく血圧を測っていない人が多い。患者さんから“めまいがしたから血圧を測った”などと、間違ったタイミングで測定した話をよく耳にします」

 血圧は何かあったから測るのではなく、朝と寝る前、決まったタイミングで測るのが正しいやり方。朝はトイレをすませた食前、夜なら就寝の直前、どちらも座ってから2~3分後、深呼吸して落ち着いてから連続して2回、測定を。

 測るときの姿勢は図のように、血圧計は上腕に巻くタイプがいいそう。

「手首や指先などで測る血圧計もありますが、正しく測定できるのは上腕のタイプです。心臓から離れるほど測定誤差が大きくなります。高血圧の基準は140/90mgですが、家で測るときは135/85mgを目安にしましょう

 135/85mgを超えたら、早めに循環器系のクリニックへ。高血圧と診断されたら一生、薬を飲み続けなければならないおそれもあるが、高血圧予備軍の場合、減塩指導や肥満解消、さらに運動習慣の実践といった生活指導だけですむ場合も。

「たとえ高血圧の薬を飲むことになっても、心筋梗塞や脳卒中を防いだほうがよほどいいと思いますよ」

 受診する際は、仮面低血圧の可能性もあるので、家庭で測定したデータを診療時に持参しよう。

突然死の危険が潜む冬の風呂場

 厚労省研究班の’15年調査では、入浴中の事故死は交通事故死よりも多く、年間1万9000人も亡くなっている。なかには不審死扱いとなり、警察の現場検証が入ることも。

風呂場での血圧変動により心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす『ヒートショック』が生じ、突然死につながることも。高血圧の人はそのリスクが高くなります」

 池谷先生によれば、入浴中の突然死は、ヒートショックの影響による溺死が多いという。

「寒い脱衣所で血管が縮むことで血圧が上がり、さらに熱いお湯に入ると上昇します。そして身体が温まってくると血管が広がり、急激に血圧が下がり意識を失い、溺死に至ります」

 入浴中に最期を迎えないためには、

“オヤジのように入り、オジイサンのように出る”と患者さんに教えています。入るときは“ああ~~”と声を出してリラックスして入り、出るときはヨッコラショという感じで脚に力を入れて、ゆっくりと出るのがポイントです」

 リラックスして入ることで血圧の急上昇を防ぎ、ゆっくり出ることで血圧変動による脳貧血(起立性低血圧)を防ぐ。また入浴前に軽い運動をする、脱衣所を温めておくなどの下準備やぬるめのお湯に入ることも重要。こうした正しい入浴法を頭に入れておこう。

切れる・詰まる・裂けると大病に血管リスク度&対策をチェック

いつまでも健康に生きられると思っていても、血管は老化してボロボロだったりする。40代以降は早めに血管の病気を知って意識をケアに向けましょう」

 まずは、下の血管リスク度を測るリストを使って、自分の血管力をチェックしてみよう。リスク指数が5以上当てはまる人は、血管が老化しているおそれがある。そのまま放置すれば、命にかかわるような病気につながりかねない。

【あなたの血管リスク度は?】
(1) 腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上ある
(2) 階段や坂を歩くとすぐ息が上がりつらい
(3) 負けず嫌いな性格で、ついイライラしてしまう
(4) 親やきょうだいに脳卒中、心臓病になった人がいる
(5) 下肢にしびれや冷えを感じることが多い
(6) 日ごろから歩くことが少なく、運動もしない
(7) 不規則な生活を送りがちだ
(8) 満腹になるまで食べないと気がすまない
(9) タバコを吸っている
(10) 高血圧と診断、またはその傾向ありと指摘されている
(11) 脂質異常症と診断、またはその傾向ありと指摘されている
(12) 糖尿病と診断、またはその傾向ありと指摘されている
※(1)〜(8)がリスク指数1点、(9)〜(12)がリスク指数5点
【合計0~4点】血管は正常範囲
【合計5~8点】血管が老化している可能性がある
【合計9点以上】血管が老化している可能性が高い

「血管の病気には切れる・詰まる・裂けるという3つのパターンがあります」

 血管が切れる病気の代表例は、脳出血や大動脈瘤破裂など。詰まる病気は心筋梗塞や脳梗塞を起こし、裂ける病気は大動脈解離が発症する。

「リスクを減らすと同時に動脈硬化にならない生活をしていきましょう」

■動脈硬化を起こすメカニズムとは?

 動脈硬化は、加齢によって血管が硬くなって弾力性が失われ、血液の通り道が狭くなっていく病気。動脈硬化=血管の老化と考えて間違いない。

「動脈硬化は古代エジプトのミイラからも見つかっているほど、大昔からの“迷惑な友”でした」

 なぜ、どのようにして起きるのか? 動脈硬化のなかでも代表的な「アテローム硬化」について池谷先生に解説してもらった。

「アテローム硬化は、黄色いドロドロした粥状のプラークというものが血管内壁にたまり、これには皮膚の傷や風邪などと同じく、炎症反応が関係しています」

 風邪をひくと、体内に入ったウイルスを異物と判断し免疫細胞がやっつけてくれる。また皮膚が傷つくと入ってきた細菌をやっつけて傷を修復してくれたりもする。これらは炎症反応と呼ばれる働きだ。

動脈硬化も同じで、血管の内側に傷ができると、そこから血管の内皮細胞の中へ血中の脂質が入りこんでいきます。そこで脂質が酸化すると、免疫細胞に異物としてとらえられてしまうのです」

 細菌やウイルスが体内へ侵入した場合のように、酸化した脂質は免疫細胞に処理され泡沫細胞に変化する。壊れやすい薄い膜の中に泡沫細胞がたまり、瘤を作り、アテローム硬化となる。大動脈や脳動脈、冠動脈などの比較的太い動脈に起こり、心筋梗塞や脳卒中の原因となる。

 頸動脈エコーという首に超音波をあてる検査では、動脈硬化を視覚的に診断できる。頸動脈に動脈硬化が見つかると、全身の動脈硬化が進んでいる可能性が。

「頸動脈エコーの検査を受けて動脈硬化が見つかると、“この瘤、治療でとれますか?”と聞いてくる患者さんがいるのですが、残念ながら完全に治すことはできません。瘤を破裂させないように安定させることが目標になります」

 血管が詰まる病気は、瘤が大きくなって詰まるのではなく、破裂することで起こる。破裂した場所を修復しようと、血小板が集まり、それにより血栓ができて血管が詰まるからだ。

寒い日の朝・ストレス・激しい運動に注意

 生きている限り、老化は避けて通れない。血管も同様だ。しかし病気やケアについての知識を身につけ実践していけば、リスクを大きく減らすことはできる。

血管の老化が進む危険因子は5つ。喫煙、高血圧、高血糖、脂質異常、肥満で、ひとつの因子が加わるごとに、健康な人の3倍も動脈硬化の危険度が高まるとされています。危険因子をひとつでも減らせば、それだけ大きくリスクを減らせるということです」

 動脈硬化を防ぐには、これらのリスクを減らすこと、血管にいい食生活と運動をすることがカギを握る。予防と同時に、血管を傷つけない生活をすることが重要になってくるのだ。

高血糖、高コレステロール、高尿酸、そして冬は特に高血圧に気をつけたいところ。いずれも血管を傷つける原因になりますから」

 冬の朝から午前中にかけては、心筋梗塞や脳卒中リスクが高くなる時間帯。

「前述のとおり、人間の身体は、夜間に血圧が下がり、早朝には上がるようにできています。夜は眠り身体を休めるために、日中は活動するために血圧の日内変動が起こります。朝、誰でも血圧が上がりますが、高血圧の人、血圧の上がり方が急激な人は心筋梗塞や脳卒中のリスク大です

 朝起きてすぐ家の外へ新聞を取りにいくのは命取り。暖かい家の中から寒い外に出ると、血管が縮まり血圧が急激に上がってしまうからだ。

「さらに朝は、脱水も重なって血管が詰まりやすくなっています。まず、ベッドや布団からすぐに出ず、中で手足をモゾモゾ動かして軽い運動をしましょう。その後、ホットドリンクを飲みます」

 冷たい水ではなく、温めることがポイント。

「ストレスは血圧を上げるので、冬は特に注意が必要です。鶴ひろみさんの事故を前述しましたが、運転も人間にとってストレス。寒い日に車の中に入ったらエンジンだけでなく、身体も温まってから運転を始めましょう。身体のアイドリングも必要です」

 また、冬は室内で適度な運動をするのがベスト。屋外での急激な運動は控えて、と池谷先生。

年末年始に食べすぎて太ったから、と激しい運動をするのはやめておきましょう。早朝は最も危険です」

 過ごし方によって、血管は健康にも不健康にもなる。リスクを減らし、血圧の上がる行動を避け、血管のためにいい食事と運動をすることが重要だ。

〈この人に聞きました〉
池谷敏郎先生◎池谷医院院長。内科・循環器専門医。わかりやすい解説が好評で、各メディアで活躍。『血管を強くして突然死を防ぐ!』(PHP文庫)など著書多数。