同じ失敗を繰り返すのは脳のせい?負の連鎖を断ち切る「と考えた技法」とは
 疲労・ストレスに効く、集中力や判断力を高めるなど様々な効果があり、Googleなど一流企業が次々に取り入れていることで話題のマインドフルネス。『脳がクリアになるマインドフルネス仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)は、「禅僧の精神科医」として現代のビジネスパーソンが抱える多様な問題を解決してきた川野泰周氏による”ビジネスパーソンのためのマインドフルネス入門書”だ。「マインドフルネスとはなにか?」「どんな効果があるのか?」「どうやってやるのか?」そんな疑問に川野氏が答える。

同じ失敗を繰り返してしまう

 とある禅寺にて。ビジネスパーソン・A氏と、マインドフルネスの専門家である「先生」の会話

先生:おや、どうしました? お悩みのようですね。

A氏:実はこの間、私が取引先に提案したイベントが失敗して、赤字を出してしまって。上司に一任された企画で、大勢の社員を巻き込んで進行させていたし、取引先も期待してくれていた。それなのに、こんな結果になってしまって。未だにまわりからの視線が痛いし、なかなか立ち直れないんです。

先生:そうでしたか、大変でしたね……。では、その失敗は忘れましょうか。

A氏:えっ?

先生:スッパリと忘れましょう。

事実と感情を切り分ける

 失敗を振り返れば、「ここで間違えなければ」「あのときああしていれば」といった後悔が出てくるのは当然のこと。でも気をつけなくてはならないのは、後悔にはネガティブな「感情」と、本当に修正すべきだった「事実」の2種類があるということです。

 失敗から立ち直れない人は、これを混ぜこぜにして解釈してしまっているもの。犯してしまった過ちという事実が、あるところから、いきすぎたネガティブ感情による思い込みにすり替わっている。

 過去の失敗に引きずられないためには、ある程度から先のネガティブな感情は自分で作り出していると気づくこと― すなわち、「感情」 と「事実」を切り分けることが必要なのです。そこで、余計な「感情」は捨て去って、本当に間違っていた「事実」を修正すればよいのです。

当記事は「BUSINESSLIFE」(運営:ビジネスライフ)の提供記事です

失敗は脳に刷り込まれる

 これは、「前は失敗したけれど、今回は成功するかもしれないから頑張ろう!」と、無理やり自分を鼓舞しろ、ということではありません。大切なのは「ネガティブな思い込みを手放す」ということです。

「失敗しよう!」と思って失敗する人はいませんが、「失敗するだろう」と予測してそのとおりに失敗する人は大勢いるんです。なぜか失敗するものばかり選択してしまう。これは、たとえば「自分につらくあたるパートナーとの関係に悩んでいた人が、なぜか次も同じようなパートナーを選んでしまいがち」という話と同じです。

 人間の頭には、「一 度引き受けた役割をもう一度引き受ける」という習性が刷り込まれている。そういう形でしか人と人との関係を再現できない。自分の頭にないシーンは演じることが できないのです。

 では、どうすれば負の連鎖を断ち切れるのか。まずは、そういった連鎖の中にいる、という事実に気づくことが大切です。

過去は諦めること

 失敗をしてしまったら、「事実と感情を切り分けること」を思い出してください。 失敗の原因だけを取り出し、余計な感情を取り払って認識できたなら、淡々とまたあるべきところに戻っていくことです。過ぎたことはもう諦めてください。ネガティブな諦めではありません。

「負の記憶を持ち続けることを諦める」、すなわち手放すのです。そして次に向かうのがマインドフルな思考です。過去を手放すことは、未来を捨てることにはならないのです。

「過去に引きずられてものを見る」というのは、人間の本質です。そことどう折り合いを付けるか、というのがマインドフルネスであり、禅なのです。失敗するたびに一回一回落ち込んでいては、次の仕事に集中できません。日々のトレーニングによって心に浮かんでくる雑念を払い、「今」の呼吸に意識を切り替える練習をしておけば、失敗を引きずらず、新しい仕事にしっかりと向き合えるようになります。

おすすめトレーニング:「と考えた」技法

A氏:そうはいっても、実際にミスして落ち込んでいるときには、なかなか事実と感 情の切り分けができません。どうしても感情に引きずられてしまいます。

先生:そうですね。事実だけをメモしてみるといいかもしれません。「こんなひどい怒られ方をした」「落ち込んだ」ではなく、「ここをミスした」という事実だけ書く。それでいったん雑念を吐き出すことができ、また仕事に戻っていきやすくなります。

A氏: なるほど。ミスの内容を書き留めたら、対処法も浮かんできやすくなりそうですね。

先生:ええ。それからもう一つ、対処法をお教えしましょう。「と考えた技法」というものです。

A氏:「と考えた技法」? ユニークな名前だ。

先生:自分が頭で考えていることに、「と考えた」と付け加えていく。自分が今どうして苦しいかを言葉にするんです。たとえば「仕事でミスをしてとても落ち込んでいる」と考えているとき。「私は仕事でミスをして、もう自分の価値がないんじゃないかと落ち込んでいる、と考えた」と、脳内で唱える。これだけで、 一気に自分を分析している状態になります。

A氏:脳が混乱している状態から、客観的な状態に戻れると。「と考えた」と付け加えるくらいなら、動揺しているときでも実践できそうです。

先生:これは「メタ認知療法」と呼ばれるものの一つです。強いストレスを受けて本当に辛いとき、心を落ち着かせたいときにも有効ですよ。

 川野氏がマインドフルネスを解説する本書。序章では、「そもそもマインドフルネスとは一体なんなのか?」「どんな効能があるのか?」といった素朴な疑問を一から解消していきます。

脳がクリアになるマインドフルネス仕事術 (Business Life) 川野泰周・柳内啓司著 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 第1章では、「呼吸瞑想」「歩行瞑想」など、マインドフルネスを実践するための 基本的な方法を解説。

 第2章では、マインドフルネスを実生活において活かすための具体的な方法をお話しします。「満員電車が辛い」「仕事中に集中が途切れる「休日も仕事のことが頭を離れない」など、現代ビジネスパーソンのストレス源を14 点 取り上げ、「つり革瞑想」「キーアクション」などの解決策を図解入りで示しています。

 第3章では、現代においてマインドフルネスが求められる背景と、科学的エビデンスを検証。

 第4章では、マインドフルネスを習慣にした人がどのような変化を得られ、周囲にどんな影響をもたらしていくのかをお伝えしていきます。