「デビューして10年くらいは、ただもらったセリフを言っているだけで、自分の心が俳優という仕事に着地していなかった。ふわふわと先が見えない雲の中にいるみたいでした。でも、そんな時間も今思えば必要だったなって。あのときがあったから、今ひとつひとつの作品を大事にできるし、楽しんでやることができる。今の僕を支える、エネルギーになってるんです」
デビュー31年目に突入し、50代になってもなお、突き進み続ける俳優・阿部寛(53)。
『TRICK』『テルマエ・ロマエ』『下町ロケット』など、代表作を挙げたらきりがない! 今や俳優として確固たる地位を築いた彼だが、“すべてが思うようにいった30年ではなかった”と振り返る。
「20代でモデルからこっち(役者)の世界に来たときに、演技力がなかったから、役の幅が狭かった。今、幅のある役をやらせてもらえてうれしいんですよ。だから、どんな役(のオファー)が来たとしても、できるだけ断らないようにしています」
阿部といえば、二枚目も三枚目もこなし、弁護士や教授を演じたかと思えば、結婚できない“イタい男”を演じたり、ダメ夫を演じたり、人種を超えてローマ人(!!)になったり……と、役の振り幅も広く、作品によってまったく異なる顔をのぞかせる。
「これまでいろんなエキセントリックな役をやってきましたが(笑)、人間の筋が通っていないと軽くなってしまう。どんな役をやるにしろ、軸になるものが大切なんです」
そんな彼の芝居の“軸”となっているもの――。そのひとつが2010年に連ドラとしてスタートし、2本のスペシャルドラマに映画化と、8年間にわたって人気を博してきた『新参者』シリーズだという。
阿部は日本橋署に異動してきた刑事・加賀恭一郎を演じており、
「このキャラクターがありがたいことにみなさんから支持いただいて。長いことやっていくうちに、次第に自分の中でも根強いものになっていきました」
完結編では“親子の絆”も描かれているが……
「僕の母親は13年前に亡くなって。母はずっと僕のことを心配していたんですが、仕事が軌道に乗ったのは、母が亡くなってからでした。生前は母を安心させるまで行かなかったんです。でもね、いつも母親が上から見守ってくれてると思ってて。だから今、こうやってたくさんの作品をやらせてもらってるのを見て、きっと喜んでるんじゃないかな」
“40代半ばでこの役に出会えたのも大きかった”という阿部。当時は初めての刑事ものへの挑戦で、自分にできるのかという不安もあったそうで、
「期待感と恐怖心、絶対にいいものにしたいという情熱でやってきた。そんな中、事務所の前の社長がすごい褒めてくれて、“あっ、こういう作品だと褒めてくれるんだ”って新たな発見もありましたね(笑)」
松嶋菜々子とは初共演に。
「松嶋さんは『家政婦のミタ』の印象が強くて(笑)。クールなイメージが勝手にあったんですが、実際はすごく人間味のある方でした。何よりも感情でお芝居してくれて、(涙する場面は)常に本気の涙を流していた。僕がメインに映るところの芝居でも、自分のとき以上にやってくれる。僕もそうする俳優なので、うれしかったです」
今後、自分にできるかわからないくらい難しい役が来たとしても、納得いくように成立させていきたいと語る。そんな彼が思い描く、この先の展望とは――。
「最近は主演ものが多くなってきているので、主演じゃない役もやりたい。僕は30代で主演じゃないものをずっとやってきてすごく勉強になったし、今でもやりたいとすごく思う。そういうオファーがあれば、ぜひ! お願いしたいと思ってます」
<出演情報>
『祈りの幕が下りる時』
1月27日(土)全国ロードショー
完結編にして、シリーズ最高の泣ける感動巨編がついに完成! 「自分の作品でこんなに泣くとは思わなかった。ボロボロに泣きました」と阿部。刑事・加賀恭一郎が日本橋にとどまる理由や父との確執、母の失踪など、これまで明かされなかった加賀自身の最大の謎が明かされる。