赤、黄、緑。思わず目に飛び込んでくる鮮やかな原色とスタイリッシュなラベルは、まるでセンスのいい輸入食品のようだが、実は、れっきとした岩手県産。その名も、サバ缶ならぬ『サヴァ缶』だ。
この缶詰を作るプロジェクトがスタートしたのは、東日本大震災の直後。被災地の食の復興をサポートする目的で立ち上げられた一般社団法人『東の食の会』メンバーである高橋大就さんらが、現地を視察していたときのことだ。
「当時は“食べて応援しよう”と謳うチャリティーが主流。しかし、あれだけの甚大な被害から、一時的なチャリティーの力だけで立ち直るのは難しいと感じていました。東北であるなしにかかわらず純粋に求められる商品を生み出す必要があると思ったんです」
新たしい挑戦を
そんななか、ふとした拍子に「缶詰って安いよね?」という話題が持ち上がった。
「日本の缶詰ってすごくヘルシーで美味しいのに、ほぼ100円台じゃないですか。一方で、セレクトショップや雑貨店に置いてあるヨーロッパのオイルサーディンは、1000円以上するものもある。それなら前者より美味しく、後者のようにおしゃれな缶詰を作れば、多少価格が高くても需要があると考えました」
水産加工業の盛んな東北において、食材に選んだのはサバ。従来の水煮や味噌煮との競合を避け、新しさを打ち出すため、味はオリーブオイル漬けにすると決めた。
これらのコンセプトをまとめ、製造を依頼しに向かったのが『岩手缶詰株式会社』。
所長の佐々木桂三さんは、最初に話を聞いたとき、戸惑いを隠せなかったという。
「われわれも長く缶詰を作ってきましたが、一般的な価格より高い高級缶詰を売りたいと言われ“大丈夫?”というのが率直な感想でした。ただ、私たちも震災で工場が流されていましたし、何か新しい挑戦をしなければという思いでお引き受けしたんです」
次に、販売元の候補として挙がったのは、岩手の県産品を扱う『岩手県産株式会社』。当時、商品開発を担当していた長澤由美子さんも、在庫のリスクが真っ先に浮かんだ。
「岩手缶詰さんの製造ロット数は、1回で4万8000缶。高橋さんのコンセプトには賛同したものの、それだけの数を売り切れるのか不安を覚えました。けれど私たちも最終的には、“売れなかったらみんなで頑張ろう!”と取り扱いを決めました」
商品の核となるデザインは外部の会社に依頼。こだわったのは「棚に置いたとき、圧倒的に目立つこと」と「女性でも購入しやすいこと」だ。
「日本の缶詰は総じてやさしい色みが多く、この並びに原色をぶち込めば絶対に目立つと確信していました。また、ターゲットは女性と決めていたので、部屋に来た彼氏に見られても、ママが旦那さんやお子さんに出しても、恥ずかしくないデザインを目指したんです」(高橋さん)
肝心の味については、首都圏の女性に試食をしてもらいながら、何度も改良を重ねた。
「普通の開発は長くて半年程度。しかし徹底的にこだわり、第2弾のレモンバジル味なんかは完成までに1年半ほどかかりました」(佐々木さん)
こうして完成したサヴァ缶は、今年の1月時点ですでに280万缶以上を販売し、いまなお品薄が続いている。
「あれだけ被害を受けた東北からも、大ヒット商品は作れる。まだまだやり直せる。そんなモデルケースになれたかなと思います」(高橋さん)
ちなみに、フランス語で「元気?」を意味する商品名「Ca va?(※Cにセディーユ)」は、開発中に高橋さんがサバ缶とかけて思いついたダジャレだそう。
しかしそこには、被災地から応援してくれた人々への、感謝を込めたメッセージが隠されている。
みんな元気? こっちは元気にやっているよ。