「本白根山が噴火? 草津白根山の間違いだろ? と振り向いたら、本当に本白根山から噴煙が上がっていた」
と群馬県草津町役場の男性職員はその瞬間を振り返る。
群馬・長野県境にある総称・草津白根山を構成する本白根山(群馬県草津町、標高2171メートル)の鏡池付近で1月23日午前9時59分ごろ、噴火が発生。近くの草津国際スキー場で雪上訓練をしていた陸上自衛隊の隊員1人が噴石にあたって死亡し、ほかの隊員7人とスキー客ら4人の計11人が負傷した。
ロープウェイの山頂駅では約80人のスキー客らが取り残され、再噴火に脅えながら最大約8時間も救助を待った。
2014年9月に御嶽山(長野・岐阜県境)が噴火して死者・行方不明者63人を出して以降、即座に身を守る行動を取れるように気象庁が導入した「噴火速報」は今回出されず、スキー客の携帯電話はピクリともしなかった。
「噴火したら直ちに噴火速報を出し、登山者らにお知らせして避難などを促す仕組み。しかし、噴火した事実の確認がなかなか取れず、確認できたときは、すでに速報の意味をなさないタイミングになっていた」(気象庁・火山課)
草津白根山は白根山、逢ノ峰、本白根山の3峰で構成される。気象庁が24時間常時観測する全国50火山に含まれ、うち噴火警戒レベルを運用中の38火山にも該当する。ところが、監視カメラや地震計などは噴火活動が活発だった白根山にほとんど向けられており、約3000年前に噴火してから静穏期が続いていた本白根山は「ノーマークだった」(火山課)という。
気象庁は27日現在、同山の噴火活動について「同等の噴火が発生する可能性はある」と警戒を緩めていない。
草津町は噴火後、噴火地点を観測できるようにライブカメラの向きを変えた。
山麓に近い天狗山ゲレンデ(初~上級)と御成山ゲレンデ(初・中級)は24日に営業を再開し、27日からは高所に位置する青葉山ゲレンデ(中・上級)の滑走も認めた。滑ることのできないゲレンデは、最も噴火地点に近い本白根ゲレンデ(中・上級)だけとなった。
同町の黒岩信忠町長は、
《噴火口周辺2キロメートルの立ち入りを暫定的に禁じていますが、その範囲以外は危険はありません。今回発生しているのは水蒸気噴火とされ、マグマが噴出し温泉街に到達するようなことはあり得ません》
などと言い切るコメントを出した。本当に安全なのか。
「青葉山ゲレンデは噴火地点から半径2キロメートル圏外と離れている。本白根山じたいは噴火警戒レベルが設定されていないので、草津白根山の噴火警戒レベル3の基準を転用し、半径2キロメートル以内は立ち入り禁止にした。
草津温泉街はもとから硫黄の匂いがするが、被害は出ていないし全く普通にやっている。温泉街で取材する記者さんだってみんなノーヘルです」(同町総務課)
それにしても、スキー場での噴火災害は想定外だった。
日本山岳ガイド協会の武川俊二常務理事は「スキー客は基本的に観光客です」として次のように指摘する。
「噴火災害への意識は登山者とは異なります。あくまでそこはスキー場であって、火山や山という意識は薄い。スキー指導員でもほぼ同じ感覚でしょう。火山は緩やかな斜面が多く、畑や民家もないのでスキー場開発には適しています。
だからこそ開発者や運営・管理者は噴火などさまざまな危険を把握し、スキーヤーに適切に案内することが求められる。スキー客に危機意識を持てと迫るのは酷です」
一方、登山客は御嶽山噴火前とは大きく変わったという。
「山へ行くときはヘルメットをかぶりましょうとの呼びかけが長野県から始まり、広がりをみせています。ヘルメットを常備する山小屋が増えました。転滑落時の備えでもあるんですが、火山に来ているという意識を高めるのに役立っている。御嶽山噴火から一気に変わりました。もう同じ失敗はしない、犠牲者は出さないって」(武川常務理事)
さて、今回の草津白根山の噴火は何を意味するのか。立命館大学・環太平洋文明研究センターの高橋学教授(災害リスクマネジメント)は「2011年3月の東北地方太平洋沖地震の後遺症」とみる。
「マグニチュード(M)8・5以上のプレート型地震は世界中で11回あり、発生後に火山が爆発していないのは3・11だけです。
地震の約半年後から約5年以内の数か月ごとに大噴火や小噴火が連発するケースが多く、1つの火山の噴火では終わりません。草津白根山は小規模な水蒸気噴火とみられますが、これは東日本で連発する噴火の始まりとみています」という。
ノーマーク火山の対応はどうなる?
高橋教授は『週刊女性』'15年10月6日号で「ここ1~2年以内に大噴火が起きそうな10火山」として草津白根山を挙げており、約2年3か月後に同山は噴火したことになる。なぜ、プレート型大地震は火山噴火を誘発するのか。
「東北地方太平洋沖地震で陸側の北米プレートが跳ね上がり、つっかえ棒のとれた海側の太平洋プレートは約3~4倍にスピードアップして北米プレートの下にもぐり続けています。
地表から約200~500キロメートルに達すると溶けてマグマになるので大量生産に拍車がかかり、いずれ火山のマグマだまりが耐え切れなくなって岩盤を突き破って噴火する。北方のロシア・カムチャツカ半島では約3年前から5つある火山がすべて噴火しており、昨年12月20日に大噴火したベズイミアニ山は噴煙が上空1万5000メートルに達しました」(高橋教授)
南米チリ中部で'10年に起きたマウレ地震(M8・8)では、半年後に火山の噴火があり、'14年に集中噴火が発生。いまも後遺症の噴火は続発しているという。
高橋教授が警戒する東日本12火山は図(*外部配信先のサイトではご覧いただけません。ニュースサイト『週刊女性PRIME』でご確認いただけます)のとおり。
「火山はニキビと一緒。ニキビの原因となるマグマは今もたまっており、いつ、どこのニキビが腫れてつぶれるかわからない。噴火口は山頂とは限りません。火口以外から噴火することもある」(高橋教授)
火山の内部でマグマや水蒸気がたまると山体が膨張する兆候が現れる。しかし、雪のシーズンは山肌に厚化粧をしているようなもので外面上の変化はとらえにくい。精密な観測機器が頼りだ。
気象庁に観測機器の強化などについて尋ねると、「全国のほかのノーマーク火山への対応は火山・噴火予知連絡会のメンバーと検討したい」(火山課)と話すにとどまった。
予算は国民の命を守るため有効に使ってほしい。