映画のイベントに2人で出席する丸岡いずみ・有村昆夫妻

「もちろん、非難の言葉は真摯に受け止めたいなと思っております」

 1月3日、3400グラムの元気な男の子を授かった丸岡いずみと有村昆夫妻。23日に放送された『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)に子どもが誕生したロシアから生中継で出演し、代理母出産についてこのように答えた。

 丸岡は、このテレビ出演と同じ日に発売された『婦人公論』(中央公論新社)において、2度の流産や不育症のつらい投薬治療なども赤裸々に語っている。

結婚当初から、丸岡は子どもが欲しいと公言していました。ふたりともひとりっ子だったので、よけいに自分たちの子どもが欲しかったんでしょうね」(テレビ局関係者)

アメリカの場合

 代理母出産といえば、'03年に双子の男の子を授かった向井亜紀・高田延彦夫妻を思い出す人も多いだろう。アメリカで子どもを授かった彼らを待っていたのは、戸籍取得のための長い闘いだった。

「アメリカの裁判所では夫妻が子どもたちの両親であることは認められたのですが、品川区役所は出生届の受理を拒否。この件は裁判に持ち込まれ、家裁は不受理だったのですが、高裁では受理を認める逆転判決が出たのです。

 ですが、'07年に最高裁が再び出生届を認めない判決を下したため、子どもたちは特別養子縁組という形をとったのです」(スポーツ紙記者)

 このとき、最高裁は代理母出産は明治時代に制定された民法では想定していない事態としたうえで、《立法による速やかな対応が強く望まれる》と、国会に法整備を急ぐよう異例の注文をつけている。しかし、

代理母出産の法整備は、国として進んでいないですし、このまま決まることはないと思います。法律が作りにくいので、それなら最初からないほうがいいという状況です

 と話すのは、養子縁組に詳しい、『弁護士法人・響』の徳原聖雨弁護士だ。

アメリカ(カリフォルニア州)では、卵子提供者が出生証明書に母親として記載されることがあります。日本の場合は、あくまでも産んだ人(代理母)に親権がある。それをわが子として迎え入れるには養子縁組しかないんです

 '07年に出された向井の最高裁判決から10年ほどたつが、いまだに日本には代理母出産について定めた法律は存在しない。なので、国内でも代理母出産は違法ではないのだが、日本産科婦人科学会などは原則、認めていない。そのため、子どもは実子として認められないのが現状だ。それでも代理母出産は、

「“絶対に自分の子どもが欲しい”と思っている方々の唯一のよりどころなんです」

 と話すのは、卵子提供・代理出産エージェンシー『リプロダクションパートナーズ』でコーディネーターとして活躍する石原隆雄氏だ。

「当社ではアメリカ・カリフォルニア州にあるクリニックと提携し、現地のエージェントを通してサロゲートマザー(代理母)との仲介を行っております。

 現地では契約の際にご夫婦側にも、代理母側にもアメリカの弁護士がついて個別に詳細な契約書を作成しますので、契約上は安心です。特別養子縁組をすれば、戸籍上の記載も実子と変わらず、生まれた子どもが見てもわかりません。リスクがあるとすれば、“おなかが大きくなかったのに突然、生まれた”とウワサになってしまうことくらいでしょうか」

双子の男の子を代理母出産したことを発表した向井・高田夫妻('04年)

 ちなみに、丸岡が代理母出産したロシアでは、費用は1000万円ほどといわれている。このエージェントが提携するアメリカの場合、1800万円〜2000万円ほど。そのため、数年前までは、アメリカの4分の1程度の費用ですむアジア圏が人気だった。

アジア圏の場合は?

 タイなどの現地で代理母を取材し、『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)の著書がある、ノンフィクション作家の石井光太氏は、

「代理母出産はイタチごっこの世界なんですよ。'00年代でいちばん多かったのがインドだったんですが、欧米のゲイカップルの人たちが代理母出産で子どもをつくるのが問題視されて、インド政府が規制をかけた。それで'10年代はタイに移っていくのです」

 インド、タイともに費用は500万〜600万円と格安だったため、日本人も多く契約していたという。だが、オーストラリア人夫妻が、障害が見つかった男児を置き去りにした事件が発生。また、日本の大企業創業者の息子が少なくとも16人の子どもを代理母に出産させていたことも判明し、'15年にタイ政府は事実上、外国人の代理母出産を禁止したのだ。

タイの場合、代理母には50万〜100万円くらい払われます。総費用の10分の1から5分の1というのが世界的な相場ではないでしょうか。ただ、そこから現地のブローカーが中抜きするケースもありますから、実際に彼女たちが手にするお金はもう少し安くなるというのは聞いたことがあります」(石井氏)

 それでも、現地の年収から見れば数年分の金額に相当するため、代理母探しにはそれほど困らないという。

 だとすれば、子どもの欲しい夫婦と多額の金銭を受け取る代理母。いいことずくめの制度のような気がするが─。

代理母出産で傷ついている人もたくさんいるんです。そういうことにも目を向けないといけないでしょう

 と話すのは、生殖技術にまつわる問題に詳しい慶應義塾大学の長沖暁子准教授だ。

「'14年に代理母出産などの生殖医療の法整備をめぐり、自民党のプロジェクトチームが新法案を話し合ったことがありましたが、結局、国会には提出されませんでした。しかも、その法案では子どもの知る権利にいっさい触れていなかったんです」(長沖氏)

 親と代理母の間には契約上の同意が成立している。だが、生まれてくる子どもはそれがないのだから、その子の福祉を大前提とした制度を作るべきだと彼女は提言する。

代理母出産で生まれてきた子どもに対して、出自を知りたいと思ったときに、国はそれを保障するということが大前提でしょう。どういう経緯で代理母出産が行われたかということがちゃんと記録に残るということ。そして、子ども本人が問い合わせたら、そこにアクセスできるという形を作らないとだめです

 国もしっかりと答えを出そうとしない代理母出産。ただ、丸岡夫妻や向井夫妻のように、両親に真剣に望まれて生まれてきた子どもたちには、輝かしい未来が待っていることだけは、間違いないだろう。